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群れなんです

 先ほどのオレンジジュースのジャードリンクっぽい薬は、飲んだ人間の体力や組織を使って傷を治すもので、瀕死の重症だと完全回復まではいかないのだそうだ。


 イオナさんは、ここ2日ほどはしおりさんが出す地球の解熱剤や傷薬を使って治療していたため、出会った時ほど消耗していなかった。


 スープとお粥くらいだがなんとか食事をしていたのも良かったらしい。


 薬を使った後は回復の状況にもよるが、しっかり食べてしっかり休む必要があるのだという。




 そこで夜はホテルのディナーブッフェ&デザートブッフェ風で、ドリンクバーの代わりにバーカウンターが用意された。


 好きなものをなんでもどうぞ、という羽田さんの気合いが感じられる。


 


「それではイオナさんの回復とニグルさん、ナツさんの結婚を祝って、乾杯!」


『乾杯!』


 男性陣は全員最初の一杯は生ビール。

 しおりさんとイオナさんはビールにりんごジュースを混ぜている。

 わたしとくるみちゃんはトリアエズナマで。

 のどかさんとナツさんはカルアミルクだ。


 イオナさんとナツさんはあまりお酒の種類を知らないとの事でお勧めを飲んでいるが、みんな一緒でなくてもいい、という雰囲気がすごく楽。


 しおりさんのジュース割りのビールをひと口もらって、意外に飲みやすいことに驚いた。







「この辺りの工場は薬品工場が1つだけなんですね?」


「ああ。食品関係は他の街と取引して手に入れている。缶詰工場やパン工場、そういった食品関係の工場はまとまっている事が多い。この辺りにはそれがなくてな……。薬品工場以外だともう少し街から離れた場所に機械製造の工場があるが、薬品ほどの需要はないし、何よりあっちはゾンビの数が多い」


「多いってここよりも?」


「ここは他と比べると少ないしゾンビも弱いな」


 わたしは愕然とした。

 ここだって十分多い気がするのに。


「数が多いとどうやって倒すんだ?」


「無理だな。なにしろ、奴らは群れでやって来る」


 ブフッ! と、灰谷さんと羽田さんがビールを吹き出した。

 

「どうした?」


「ゴホッ、いや、なんでも、グフッ、ゴホゴホ……」


「大丈、ぶ、グフッ、ゲホゲホッ」


 くるみちゃんが冷静に言った。


「群れでやって来るって、確かにゾンビっぽいですよね」


「ぐ、来見田さ、今やめ……ゴホッ、ゴホッ」


 早川さんがそんな3人を横目に話を続ける。


「機械製造ですか……ペンキ工場とかはありませんか?」


「いや、あったとしても生活に必要がない限り話題にはならないと思う」


「なるほど……」


 考え込んだ早川さんのコップに崎田さんがビール瓶の口を持っていく。

 早川さんはそれに笑って軽く頭を下げ、コップを差し出した。


「塗料の話は公になっていないという事ですかね」


「多分そうなんでしょうね。自社と顧客のみで情報を共有するつもりだったんでしょう」


「じゃあ、んんっ、まずは工場を回ってみるのが1番ですかね」


 なんとか立ち直った灰谷さんが水を飲みながら戻ってきた。


「そうですね。バルトさん、レークスさん。お2人に確認したいのですが、ゾンビを作った会社が、ゾンビに攻撃されないための塗料を開発していた事はご存じですか?」


「いや、初耳だ、だが……」


「もしそんなものがあれば……」


「ああ、どれだけ多くの人の命が助かっただろうな」


 2人は悔しそうに歯噛みする。

 他の3人も同様で、食事の手が止まり黙り込んでうつむいた。


「おそらく社外秘だったんでしょう。その塗料を探しながらいろんな街を回って商売をしたいと思うのですが」


 しばらく無言で考え込んだのち、バルトさんは口を開いた。


「その塗料をどうするつもりなのか聞いても構わないか」


「ええ。ひとまずは私達の拠点の場所を定めて、そこに使いたいと思います。おそらくは今も大量に作られているでしょうから、拠点やキャラバンで販売もしたいですね」


 それを聞いてバルトさんの表情が緩んだ。


「すまない、助かる。その……人類にとって」


「ええ。私達の仕事はこの世界の人類のサポートであって、支配でも金儲けでもありません。必要なものは大体女神様が用意してくれますから」


 そう、食べるものも着るものも、住むところも。娯楽も何もかも。

 これでさらにこの世界での人類に対する権力まで望んだら排除されるだろう。


 わたし達はここに仕事をしに来ている。


「では明日から早速……」


 そう意気込んだバルトさんに、早川さんは「いえいえ」と笑った。


「イオナさんをすぐに動かすのはどうかと思いますし、それにイオナさんとナツさんはどちらもまだですよね?」


 バルトさんはきょとんとした顔で早川さんを見る。

 イオナさんとナツさんも互いの顔を見合わせた。


「結婚式、ですよ」


 にこにこと早川さんが告げる。


「それ無しで済ませると私が恨まれてしまいますから」


 しおりさんがわたし達を代表して立ち上がり、堂々と宣言した。


「明日は1日結婚式の準備、明後日は朝から結婚式です!」


 早川さんの通信メモがピカリと光る。


 明後日は朝から快晴だそうです。












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