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剣と魔法の世界でしょうか

 わたしは灰谷さんの車のカーナビで、近くにゾンビ以外いない事を確認し、工場のそばに家を出した。


 家の中にいれば安全かもしれないが、万が一にも強盗に入られてしまう事は避けたい。

 秘密を話せと言われて拷問でもされたら、あっさり話してしまう自信がある。

 その後わたし達は奴隷確定だ。



 早川さんが家の周囲を三重に高い塀で囲った。


 もちろん前と同じ、生垣付きで遮音壁付きだ。


 そして敷地の中まで高架橋を伸ばし、最後に大きなエレベーターで車ごと下に降りれるようにした。

 早川さんの能力も作れるものがどんどん増えてきているらしい。



 わたし達は塀の中のゾンビを片付けて地上に降りる。

 あとは車庫まで一直線だ。


 何体か死角にいて倒しそこなったゾンビもいるようなので、車庫の扉を下ろすまで車の外には出られない。


 レベル1の最弱キャラは、常に慎重に慎重を重ねて生きているのだ。









 早川さんが工場をぐるりと囲って塀で通路を作ると、バルトさんとレークスさんはなんの気負いもなくその塀の上を辿って工場へと向かった。


 侵入口は3階の非常階段。

 そこへ直接塀を繋げている。


 工場への物資調達も彼らのような傭兵の請け負う仕事に含まれているらしく、ここの薬品工場にも時々来て薬を入手していたそうだ。


 各工場の地図もあり、こっそり入ってこっそり出てくるのはお手のものだと言っていた。


 そうなると、わたし達の誰であれついていくのは邪魔でしかない。


 役に立てずに申し訳ないと謝る早川さんに、バルトさんは慌てて両手を振った。


「そもそも俺たちだけだとここまで来るのにどれだけかかるか分からなかった。その間にイオナが手遅れになる可能性だってあったんだ。それをこんなに良くしてくれて、本当に感謝している」


「ああ。俺たちは慣れているから問題ない」


 レークスさんは言いながら少し頬を緩ませた。

 手にはのどかちゃんの出したサバイバルナイフが光っている。


 うん、ようやく試せるね。良かったね。




 彼らは銃ではなく剣や槍、ナイフといったものでゾンビと戦うのが基本のスタイルだ。


 大きな音を立てると昼間でもゾンビが集まって来て大変な事になるので、背後からのステルスアタックが推奨されている。

 特に今回のような建物内に入る場合、見つからないように動き、戦闘にならないようにする事が大事なのだという。


「じゃあせめて僕らは塀の中のゾンビを減らしておきましょう」


「そうですね。万が一、銃を使う事になっても危険が少なくてすむようにしておきましょう」


「そうしてもらえると助かる。奴らは昼の間は外で日光を浴びる習性があるから、日の出と一緒に外へ出て建物の中に入る事があるのは夜だけなんだ。だから内部には数はいないし、もし何かあっても外にはゾンビがいないというのは安心できる」


「そうだな」


 2人はオートマチックのハンドガンと、サバイバルナイフ、そして念の為にそれぞれの剣と日本刀を持っている。


 カーナビで確認して数は少ないのが分かっていても、狭い建物の中ではどこにゾンビが隠れているか分からない。


 わたし達は彼らを見送ると、少しでも安全になるようにと外のゾンビを減らす事に専念した。









 バルトさんとレークスさんは中へ入って1時間もかからずに戻ってきた。


 怪我ひとつなく、日もまだ全く沈んでいない、十分明るいうちだ。

 わたしならまだ中で震えているだろう。

 

 イオナさんがリビングのソファまで連れて来られた。

 バルトさんのお姫様抱っこだ。


 わたし達はついはしゃいでしまったが、バルトさん達には伝わらなかったようだ。

 おかげで逆に恥ずかしくなってしまった。



 バルトさんがイオナさんの足の包帯を外す。

 矢はイオナさんの足に命中し、抜くために傷をナイフで切開した跡がある。

 それはまだ生々しく痛みと熱を伴っているようで、わたしは顔をしかめた。


 

 バルトさんがオレンジ色のまるでジュースのような液体が入った大きなボトルの蓋を開ける。

 色も相まって、オシャレなお店のジャーボトルドリンクのようだ。


 それをコップに注いでイオナさんに渡す。


 イオナさんがそれを飲んで少しして、痛みをこらえるような表情になった。


 同時に、足の傷が早回しの映像のようにみるみる治っていく。


 わたし達はその様子を見て、各々ため息をついた。


「クラークだ」


 羽田さんが独りごちる。

 ああ、と息を吐くようにして灰谷さんがイオナさんの足を見つめたまま言葉を続ける。


「『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』」


 どこか敬虔な表情をしたしおりさんが、のどかさんからシーツを出してもらってイオナさんにかけ、見物客のわたし達から彼女の足を隠した。


「具合はどうですか? 何か食べられそう?」


 イオナさんは透きとおるような美しい白い肌を赤く染めて、微笑みながらうなずいた。


 羽田さんが腕をまくる。


「今夜は宴会! ですよね!」











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