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この世界

 晩御飯はキャベツたっぷりの豚の生姜焼き。

 卵焼きは九条ネギを入れて、カブとキュウリの浅漬けに、オクラのおひたし。

 レタスサラダにチキンステーキ、ハンバーグ、ピクルスも添えて、パンとごはん、両方を並べている。


 お米が食べたければごはんとお味噌汁で、パンが食べたければおかずをサンドしてシチューと一緒に。


 しばらくは両方が並ぶか、オードブルやブッフェのような形にするらしい。







 イオナさんとナツさんを除いた3人がダイニングに加わって、食事が始まった。


 2人の分は後で持っていく事にするそうだ。

 ニグルさんが顔を真っ赤にしながら、「姉を建物の端の部屋に1人にしないほうがいいかと思って」と言っていたが、確かにそれはその通り。


 怪我で寝込んでいる人を離れた部屋に1人にはしておけないよね、うんうん。


「しおりさん、ニヤニヤしちゃダメですよ、みんなスルーしてるんですから」


「そういうゆきちゃんだって」


 そんな事ありません、わたしはスルー力の高い社会人なのです。そういう事にしておいてください。







 食事をしながら早川さんがバルトさんに質問した。


「わたし達は他の世界の人間なので、ここの常識についてよく分かっていません。いろいろ教えていただけますか?」


「はい」


「ありがとうございます。あと、口調は喋りやすいようで構いませんよ? わたし達はあなた方を雇ったわけではなく、仲間になってもらったんですから」


「わかった。その、すまない」


「いえいえ。では皆さんから先に、何かありますか?」


 早川さんがわたし達の方を見る。


「あ、じゃあ俺から。昨日今日と無難な感じで食事を用意してるんですが、後で皆さんの好物とか、普段食べてるものとか、こちらの食事について教えて欲しいです」


 他のメンバーもそうだが、羽田さんはとうとう『僕』をやめた。

 きっかけはもちろん、午後の武器祭りへの参戦だ。


「わかった」


「僕はこちらでの車の扱いについて知りたいですね」


 灰谷さんは『僕』のまま。


「あたしはこっちの人の使ってる薬とか知りたいな。どんなものが売れそうか知りたいし」


「わたしは洋服の違いが気になります。ゾンビが着てる服はわたし達のものとあまり変わらないのに、バルトさん達の服は少し違いますよね。工場製品との違いというより、丈夫な素材を多用している感じがします」


「確かに、生地からして違うと思う。正直、君たちの着てるような服だと安心できないというか何というか……」


 バルトさんが言いにくそうにしているが、彼らが着ている服と比べれば、わたし達の服は生地からしてペラペラだ。ゲームで言えば、まさに紙装甲。


「私はこちらのゾンビの事や歴史が気になりますかね。特にあのゾンビについてどこまで知らされているのか、とか。あといつからこういう状況になって、以前と今ではどう違うのか、とか」


「小野田さんと来見田さんは何かありませんか?」


 わたしとくるみちゃんは首を振る。


「では私からは、皆さんが昨日、あれからどうする予定だったかを聞かせていただきたいです。私達の地図には皆さんが住んでいたエオニオが1番近い街で記されているので」


「分かった。まずは、この付近には街はエオニオだけだ。各街は無線で連絡を取り合っているので、俺達は街を逃げ出した時点で犯罪者として手配されている可能性が高い」


 早川さんの言葉を受けてバルトさんが話し出した。


「それでも、俺が以前住んでいた街へ行けばどうにかなると思っていた。だがイオナが弓で怪我をしたので、予定を変更してこの先の薬品工場へ向かう事にしたんだ」


「確か、昔のままの状態で今も稼働している場所があるんですよね?」


「ああ。そこへ薬を取りに行くつもりだった」


「なるほど……ちなみにその薬について教えてはいただけませんか? 効果なども含めて」


「普通の傷薬だ。飲んでも患部に直接かけてもいい。効果は大体5分から10分だろうか」


「「「「「「「「は?」」」」」」」」








 この世界はわたし達の地球より文明が進んでいた。

 それは知っている。

 だが、あまりに予想以上だった。


 大抵の怪我は、体内にナノマシンを取り込む事であっさり治ってしまうらしい。

 瀕死の状態でも本人の体力や栄養状態によっては、それらを使用して無理矢理治してしまうのだとか。

 モノによっては簡単な欠損くらいなら復活する。


 ちなみにナノマシンはお仕事後は寿命を終えて体外へ排出、自然界で分解される。


「なにそれ魔法?」


 とはしおりちゃんの弁だ。

 全員同意見。


「それでは明日はその工場へ行ってみましょうか」


 早川さんが提案して、全員賛成した。







 明日の予定が決まって食事が終わりに近づいて、わたしはバルトさん達のシチューが気になって仕方がなかった。


 ジャガイモとニンジン、鶏肉の入ったクリームシチュー。

 いい匂いがして、パンとよく合いそう。


「よそいましょうか?」


 羽田さんにきかれて、わたしは顔をしかめる。


「ありがとう、でも食べ過ぎて太っちゃうから」


 言ったわたしに早川さんから声がかかった。


「大丈夫ですよ? 私達はもう年を取らない、つまり成長しない代わりに太ったり痩せたりもしないんです。あれ? 言いませんでしたっけ?」


 早川さんに女性陣の目がくわっ!と向けられる。


「言ってません!」


「聞いてませんよそんな事!」


「なんで早く言ってくれないんですか!」


「そうです!」


「え、す、すみません……」


 早川さん、ギルティ。


 

 わたし達はシチューの入った鍋へと殺到したのだった。












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