ゾンビにしか見えません
「ゾンビにしか見えないと思いますが、あれは人造人間だそうです。ただ、人間を襲って食べるのは変わりません。腐っておらず、人間しか襲わないタイプのゾンビと言ってもいいかもしれません」
「すると、感染はしないという事ですか?」
「それが……厳密には感染とは違うのですが、ナノマシンが血中に含まれていて、それが人間の体内に取り込まれると凶暴化して周囲を襲うそうです」
「するのか……感染……」
1人の男性が頭を抱えて独りごちる。
何が言いたいかは分かる。全員が同じ気持ちのはずだ。
しなくたっていいのに。
「でも、幸いな事に体内のナノマシンの数はそうたくさんではないらしく、感染率は低いとか」
早川さんが少し声を明るくしたが、違う。
そうではない。そういう事ではないのですよ、早川さん……。
早川さん自身も分かっているようで、その後うつろな目でハハハ、と笑うと言った。
「そこまでゾンビと同じでなくてもいいのにですね……」
ええ、本当に……。
しばらくお通夜のような空気になったが、早川さんのそばの男性が顔を上げる。
「あれ、走ったりするんですかね」
「あの女神様がそれだけはとめたと言ってましたよ」
「助かった……」
涙目で息を吐く男性。
うんうん、と全員がうなずく。
走るゾンビとか人類は勝てません、間違いなく。
「ただ恐ろしい事に、兵器の生産施設が世界のあちこちにあったらしくて、今では人間のいなくなったその施設で機械がホムンクルス達を増産中なんだそうです」
早川さんが大きくため息をついた。
そしてクセなのだろうか、胃の辺りを抑える。
ひょっとしたら彼は前の世界で他の人の尻拭いをするタイプの中間管理職だったのかもしれない。
「彼らの細胞には葉緑素が組み込まれていて、放って置いても光合成で死なないそうです。そのかわり、昼間は日光を浴びるほうにエネルギーを注いでいるので動きが鈍く、本来の力は発揮できていないのだとか」
「それ、は……」
「一見いい情報のように見えますけど、でも……」
顔を引き攣らせて何人かが口を開く。
早川さんが悲しみをこらえるようにうなずいた。
「夜には能力が全開となってさらに凶暴化します」
くうっ、と全員が唇を噛み締める。
人間は夜休むものでしょう……!?
それもう人間じゃない、人間を模してないから!!
わたし達がサポートを期待されて転移した先の世界。
そこでは人間の形をした植物系肉食ゾンビが闊歩していた。
しかも各地で絶賛増産中。
これは確かにサポート無しでは人類滅亡するかも……。
そう思った次の瞬間、早川さんがちらりとメモを見て、申し訳なさそうに告げた。
「あと、走るのはとめられたけど、進化はとめられなかったそうです……」
訂正、人類滅亡待ったなし。
これがどうにかできるとか絶対無理。勇者でもなきゃ絶対無理!
自分達を勇者だとは全く考えていないだろうわたし達全員、涙目で頭を抱えたのだった。