おうちが広くなりました
お昼にやってきたバルトさん達は、まだ寝ている事の多いイオナさんを除いて全員が仲間になると言ってくれた。
朝からビールを飲み、続けて3本目に手をつけたようとしたバルトさんをレークスさんが止め、事情を聞き出したらしい。
当初は断られたのかと思っていたようだが、それを否定して『女神が……』と呟き、それ以上は話そうとしないバルトさんを締め上げたと言っていた。
バルトさんも普段なら簡単には口を割らないところだが、1人ではどう考えていいか分からなかったところにお酒も手伝って口を割った模様。
羽田さんグッジョブ。
お昼はおにぎり。
味噌にツナマヨ、コンブにおかか。シャケとたらことスパムと肉巻き。
梅はバルトさん達には食べられないかもしれないので出していない。
それにエビフライに唐揚げ、ブロッコリーやニンジンの茹でた野菜と豆腐のお味噌汁。
カレーか焼肉か、と考えていたそうだが、早川さんから朝食の匂いで寄ってきたゾンビに生垣が壊され、塀が壊されかけたと聞き、匂いの少ないものにしたらしい。
平気なのかと震えるわたし達に、大勢集まってくる事さえなければしばらくは持つから、と早川さんが太鼓判を押す。
朝もそうだったが、この後も見回って壊れそうな部分を修復するようだ。
バルトさん達が仲間になってくれれば一緒に家の中に住めるので、これからは外で食事をしなくて済む。
塀が攻撃されていたと聞いて、わたしは一気に恐ろしくなった。
外で食事とか、もう絶対無理。
食後、わたしは急いで塀の外に家を出した。
人数が増えたせいなのだろう、これまでよりも大きくて立派な建物になっていて、今の塀の中ではスペースが足りなかったのだ。
新しい家、それは小さなホテルといった感じの3階建てで、小さいといっても部屋は何十とありそうな様子だった。
早川さんがパッドを見ながら家の周囲に巨大な塀を建てる。そして今の場所とつながる通路を作る。
唖然とするバルトさん達を早く早くと急がせて、わたしは慌てて安全な家の中に入ったのだった。
「こ、怖かった……」
「外で食事とか絶対無理ですね、コレ……」
「そんなに心配しなくても、そう簡単に壊されたりはしませんよ?」
冷静な早川さんに、わたしとしおりさんは食ってかかる。
「そういう問題じゃないんです!」
「そうです!」
「まあまあ、とりあえずリビングに集まってゆっくり話しましょう」
そう、ここはもう安全なのだ。
ゾンビを恐れる必要はない。
へたり込んでいたわたし達女性陣はなんとか立ち上がると、お互いに労わりあいながらリビングへと向かった。
まず行われたのは部屋割りだ。
パッドで確認すると、前よりも部屋が広くなっており、そして2階と3階は1人部屋、1階の入り口から右半分は2人部屋になっている。
早速バルトさんとイオナさんは部屋に移ってもらったが、問題はレークスさんとニグルさん、そしてナツさんだ。
彼らにしてみれば強い流れに流されるまま、ここまで来てしまった状態なのではないか。
そうなると、部屋が離れる事には抵抗がある気がする。
するとレークスさんが口を開いた。
「ニグル、お前とナツは2人部屋のほうがいいのではないか」
「え、ええ! そんな、いくらなんでも、だって!」
慌てるニグルさんに真っ赤になるナツさん。
「どうせお前たち2人はまだ付き合っていないだけだろう。お互いを憎からず思っているからナツだってついて来たし、お前も離れたくないと連れてきた。ならもうここで夫婦となっておけ」
「え、あ、はい、でも……」
もじもじする2人。
初々しいなあ。
ほっこりしたところでしおりさんが2人に声をかけた。
「いいじゃない、年長者の言う事は聞いておくべきよ。それとも2人とも別に、お互いが他の誰かに取られちゃってもいいの? ちなみにうちはみんな独身ばっかりなんだけど」
まあチャンスはなさそうですが。
しおりさんは愛嬌のある可愛らしい顔でニヤニヤ笑っている。
「そ、それは困ります!」
ニグルさんが思わず、と言う感じで声を上げて、それから真っ赤になった。
わたしもついニヤニヤしてしまう。
わたしだけじゃなく全員が、ニヤニヤしているかほっこりした笑みを浮かべているかのどっちかだ。
ボーイッシュなナツさんが小さい声で言った。
「あ、あたしはいいよ、別に……。ニグルなら……ちっちゃい頃からずっと一緒だったし……」
ニグルさんは、はくはく、と口を開けたり閉じたり。
「とうわけだ、さっさと行け。見ているこっちが恥ずかしい」
「す、すみません……」
ニグルさんとナツさんがリビングを出て行って、残されたわたし達は上の階へと移動した。
2階の右半分を女性が、左半分を男性が使う事になった。
3階は、あとで部屋の内装を変更する予定。
各自部屋に分かれて、わたしは自室に入ると前より大きくて立派になったベッドにダイブした。
「つっかれたーーー!」
一晩だけとはいえ、トレーラーハウス住まいは厳しかった。
ああこれでゆっくりできる……。
ちょっとだけひと眠り、とわたしは目を閉じた。




