安全です
倉庫で寝泊まりできる用意をして荷台へ戻ると、羽田さんがサンドイッチとコーヒーをみんなに出しているところだった。
「美味しそうですね」
崎田さんが目を輝かせると、羽田さんは「どうぞ」と温かいおしぼりをそれぞれに手渡してくれた。
崎田さんと灰谷さんが手を拭いたあと、顔を拭って気持ちよさそうな声を出す。
「うう、生き返る〜〜!」
ゾンビに囲まれる中で適切な発言ではないかもしれないが、その声の響きが微笑ましくて、わたしはついくすりと笑った。
ナツさんがサンドイッチとコーヒー、そして仲間の顔を見て困ったように眉を少し下げる。
それを安心させるように灰谷さんがサンドイッチを1つ、パクリと食べた。
「うん! うまい! ちょっと前ごめんね、そっちのやつ1個取ってもらってもいいかな、そう、その目の前の」
そしてそう言って、ナツさんに次のサンドイッチを取ってもらう。
「ありがとうね、うん、やっぱりうまい! ハムもいいけど、やっぱりカツだよね!」
「じゃあわたしも」
「わたしはフルーツサンドがいいなあ」
「あ、唐揚げも今持ってきますね」
羽田さんがロータリーハウスの中に引っ込んでいく。
早川さんも立ち上がった。
「崎田さんが戻ってきたので、私はちょっと周囲の様子を確認してきます」
バルトさん達が何かしようと考えたら、正直言ってわたし達には勝ち目はない。
だが一応警戒している姿は見せておきたい、という所だろうか。
早川さんについて行くくるみちゃんは肩から小銃を下げているが、あれはきっと飾りに違いないとわたしは確信した。
「イオナさんは熱があるようですから、こちらを額に貼ってくださいね」
しおりさんが『冷えてるん』の袋をバルトさんに手渡した。
バルトさん達は警戒心を隠しつつ、それでも少しは安心したのか若い2人から先に食べ始めている。
年長者2人は、まだいらないからと水さえ口にしていなかった。
「開けると、中に四角いゼリーみたいなものが2つ入っています。片方をいただけますか」
しおりさんはバルトさんから冷えてるんを1つ受け取ると、自分の額に貼った。
「こうして使います。熱がある時や暑い日に貼るものなので、イオナさんに使ってください」
少し不安そうにしながら、バルトさんはイオナさんの額に冷えてるんをぺたりと貼る。
「解熱剤もありますから、目を覚まして何か食べられたら飲んでもらいましょう」
「すみません、何から何まで。これらはどのくらいするんでしょうか」
「気にしなくても平気ですよ。さっき早川さんが言っていた通り、お代は情報でお願いします」
「助かります。我々で分かることなら出来るかぎりお伝えします」
「はい。よろしくお願いします。ところで、他の皆さんのお怪我は大丈夫ですか?」
にこにことしおりさんが4人それぞれの目を見る。
あれは警戒心を表にしにくいだろうな、とわたしは視線をそらした。
「大丈夫です、ありがとうございます!」
返事をしたのはしっかりと目が合ったらしいナツさんだ。可愛らしくて、ナッちゃんとか呼びたくなる。
「本当に大変でしたね。いくらゾンビが植物を攻撃しないとしても、木の上で一夜を明かすなんてわたしには恐ろしくてできそうにないです。だって、絶対というわけではないんですよね?」
「ええ。騒がしくしていれば寄ってきて木を倒そうとしますから。でも森の中なら、夜でもあまり入って来ませんから静かにしていれば本当に安全なんですよ?」
「分かっていても怖いです、やっぱり。ね、ゆきちゃん」
「え、あ、はい。ここは安全なのは分かっているのですが、木の上とかはどうしても」
どうやらゾンビは植物を攻撃しないらしい。
他にもどんな情報を入手したのか気になるが、きっと後で教えてもらえるだろう。
それまではうかつに口を開かないほうがよさそうだ。
しばらくして、早川さんとくるみちゃんが戻ってきた。
「壊れたところはないようです」
続けて、バルトさんに顔を向けて言う。
「この拠点は鋼鉄製の塀2つと、植物の生垣とで三重に守られています。ですので安心して過ごされてください。もし全ての塀が壊されたとしても、建物の中にいれば襲われる事はありませんから」
「ありがとうございます」
「この後は倉庫に移ってゆっくりして、また明日お話ししましょう。夕食は日が沈む前に用意させていただきますが、夜は絶対に倉庫から出ないでください」
「分かりました」
「じゃあ、えーーと」
わたしが早川さんに伝える。
「倉庫の準備は終わってます」
「ありがとうございます。じゃあ、食事が終わったら案内しますね。5人一緒で、しかも倉庫ですがご容赦ください」
「とんでもない。助けていただいたのに不満なんてありません。どうぞよろしくお願いします」
バルトさんが頭を下げると、他の3人もバルトさんに倣って頭を下げた。
それからバルトさんとレークスさんは、ようやく水を飲み、食事に手をつけたのだった。




