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初接近遭遇です

 上からは機関銃の音が、そして車の後部からも銃の音が響く。

 どうせうるさいのだからと、くるみちゃんと崎田さんはサイレンサーを使っていない。


 銃撃音でわたしは身を固くした。


「鑑定できました。全員犯罪者ではないようです」


「じゃあゾンビとの間に車を入れますんで、話し合いをお願いします。あと、荷台を出して牽引させるんで、後ろのウィンドウ上げてもらっていいですか」


「分かりました」


 灰谷さんは運転しながら器用にパッドを出して操作、車の後ろに荷台を出す。


 車はスピードを上げて行き、逃げていた集団の横を過ぎるとゾンビとの間に盾になるようにして割り込んだ。


 集団の人数は5人。うち1人はぐったりした様子で仲間に背負われている。

 残りの4人は驚いた表情でぽかんと口を開けてこちらを見ていた。


「こんにちは。お困りですか?」


 早川さんがマイクを取って車載の拡声機で話しかける。

 すると言葉もなく、こくこくと何度もうなずいた。


「では、後ろの荷台に乗ってくださいね」


 そう言ってマイクを切る。


「さてどうしましょうかね」


「このまま目的地に向かいますか?」


 灰谷さんが早川さんに視線を向けた。そこへ羽田さんが近づいてくるゾンビを機関銃で撃ちながら、音に負けないよう大声を出す。


「集まってきてるっぽいです!」


 それを聞いて早川さんが素早く決断を下した。


「一旦、今朝の場所へ戻りましょう。近づいたら私が塀を三重にして囲います。小野田さんは、いつもの家ではなく車庫と倉庫を中にお願いできますか」


「はい」


「灰谷さん、車のオプションの中にトレーラーハウスはありますか」


「ありましたね、確か。ただ牽引するためのトラクタがありませんが」


「それで構いません。車は車庫に、後ろの彼らは倉庫に、わたし達はトレーラーハウスに固まって寝ましょう。小野田さん、倉庫は車庫とトレーラーハウスから離しておいてください」


「わかりました」


 緊張するわたしに向かってしおりさんが、


「助けて良かったって思える相手だといいよね」


 と笑いかける。

 その裏のない笑顔に、わたしも小さく笑みを返した。











 バルトさん、36才。ムキムキ大男の白人男性。

 イオナさん、28才。淡い金髪のストレートロング、北欧系美女。バルトさんとイオナさんは恋人同士。

 ニグルさん、23才、淡い金髪の北欧系美青年。イオナさんの弟。

 レークスさん、33才。落ち着いた雰囲気の黒人男性。

 ナツさん、22才。こげ茶の髪をショートカットにした、健康的な女性。ニグルさんの幼馴染み。


 ぐったりとして意識がなかったのがイオナさんで、ケガをして熱を出しているそうだ。


 彼らはわたし達が向かっていた山岳地帯の街から来ていて、街の権力者がイオナさんを奴隷にしようとしたので逃げてきたらしい。

 レークスさんはバルトさんの仕事仲間で親友、ナツさんはニグルさんと仲が良くて、別れを言いに行ったらついて来たとか。

 それを聞いてしおりさんが「あら」と小さく言ったのをわたしは聞き逃さなかった。

 分かる。

 こんな状況でなかったらすっごい聞きたい。

 若い子の甘酸っぱい恋バナはおばちゃん達の大好物なのだ。



 だが今はそんな場合ではない。

 わたし達はひとまず、彼らに荷台で休んでいてもらい、その間にこっそり倉庫の中を整えることにした。


「手当は済んでいるようですが、お疲れの様子ですね。お腹は空いていませんか?」


 冷たい水を手渡しながら、柔らかい営業スマイルで羽田さんが食事を勧める。


「すまない。だがいいのか? それにここは……」


「私達の拠点です。あなた方が来たというその街に向かう途中だったのですが、もし良ければ街の話を聞かせてはいただけませんか。それを対価とするという事でいかがでしょう」


「そんな事で……? だが助かる。慌てて逃げてきたため準備が不足していて、そのうえ追手の攻撃で連れがケガをしてしまい、難儀していたところだ」


「大変でしたね。では、羽田さん、食事をお願いします」


「はい。皆さん、何か食べたいものはありますか? ある程度ですがご要望にはお応えできると思うので」


 わたしはのどかさんと崎田さんの3人で倉庫に行き、中にベッドとテーブル、イスを用意した。

 もともとあった倉庫を使ってもらう、という(てい)だ。


「あの方々、イオナさん以外は相当強いようですね」


「ええ。悪い人たちではないと思いますが、銃は必ず身につけておいてください」


「「はい」」


 あのゾンビと戦える人たち相手に、この小さな銃で何ができるかは分からない。

 けれど何も持たずに戦うよりはずっといいだろう。


 それに、とわたしはほっそりと儚げな印象のイオナさんを思い浮かべた。


 彼女のレベルはわたし達と同じ1だ。

 ゾンビを殺したことがない、普通の人。なのに街を出た。



 犯罪者ではない彼らが追われている。

 そして彼らは1番弱いイオナさんを守ろうとしている。

 

 きっと悪い人ではないと、そう信じたかった。













 

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