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転移先の世界はほとんど死んでいました。色んな意味で

「無理無理無理、絶対無理」


 窓の外を覗いたあと、座り込んで少しでも外から姿を隠すように小さくうずくまり、ガタガタ震えながら呟く女性。


「あり得ねえ……」


 外の様子を窺いながら愕然とする男性。


 無言のまま部屋の中の様子を確認する男性。


 腕を組んで考え込んでいる男性。


 そしてただ呆然と立ち尽くす女性たち。わたしもその中の1人だ。

 ちらりと見た外の様子に本当は叫び出したいが、声を上げるのもはばかられる。


 外からは『うおー、うおー』という苦しげな声に混じり、時折恐ろしげな悲鳴のような叫び声が続く。


 その中で、先ほどの白い世界で誰より先に女神と会話した作業服の男性がポケットからメモを取り出した。

 そして疲れたように小声で言う。


「えーー……、とりあえず、皆さん集まって話をしませんか」


 その言葉で、みんなのろのろと動き出した。

 嫌なわけではない。

 少しでも物音を立てたらとんでもない事になりそうな気がするからだ。



 部屋の真ん中には全員が座れるだけのソファがある。

 この建物の中で、この部屋はリビングという位置付けなのだろうか。


 全員が恐々とソファに座ると、作業服の男性が話し始めた。


「まずは、(わたし)だけ先に自己紹介させていただきます。私は早川総司といいます。45歳、日本人です。皆さんも、全員日本人ですよね」


 その問いかけに全員がうなずく。

 早川さんもうなずいて続けた。


「あの白い世界からここへ移動する間に、それぞれ女神と会話をしたと思います。残してきた家族の事とか、与えられた能力の事とか。実はそこで、私が1番最初に女神と話をしたからだそうですが、この世界についての詳しい説明を受けました。皆さんに伝えてほしいと言われています」


 そして一瞬、表情をわずかに動かした。

 ほんの一瞬だったが、苦々しげだった気がするのは気のせいだろうか。

 

「お互いの自己紹介や能力の説明の前に、その情報を共有しておきたいと思うのですが、どうでしょう」


 わたしはうなずいた。


「お願いします」


 他の人たちもそれぞれうなずいて、同意の言葉を口にしている。

 外の様子を見たならそれも納得だ。

 ここがどこでどういう状況なのか、あれを一体どうしたらいいのか、誰でもまずそれを先に知りたいはずだ。


 早川さんは視線を落として、少し疲れたように息を小さく吐いた。

 何か、とても嫌なことでも話そうとするかのように。


「……まずは、この世界は私たちの住んでいた地球とは違う世界で、文明はさらに進んでいたそうです。ただ、平和とは言いがたく、常にあちこちでどこかしらの国が戦争していたり、内戦が起きたりしていたとか。そしてそんな中で儲けるのに手っ取り早いのは武器商人です。兵器を開発・研究して儲ける組織には禁忌などなく、法もあってないような状態だったそうです」


 誰もが無言だった。


 黙って聞いているというよりは、重苦しく苦い沈黙。


 そう、外を1度でも見れば分かる。

 彼らは間違いなく禁忌を犯した。


 そのとき、何かが叫ぶ声が外からひときわ大きく響き、わたし達を驚かせた。

 緊張が走るが、早川さんはわたし達と同じように驚いたものの、すぐに立ち直る。


「大丈夫です。この建物は……誰の能力かは分からないのですが、私たちの中の誰かの力で出来上がったもので、中の声や物音が外に聞こえる事はなく、破壊される事もないそうです」


 驚いた事に照れたようにしながら笑って見せた早川さんに、わたしは手を上げるべきかと考えたが、一瞬迷ってやめた。


 あの白い世界から移動するさい、女神は1人1人と話をしている。

 そこでわたしは女神から『建物を設置する』能力をもらった。

 詳しくは後で確認してほしいと言われたが、彼は他の人たちの能力も聞かされているのだろうか。


 最年長らしき彼を女神がリーダーに選んだのだろうか、とふと考えて、まとめ役は誰かいたほうがいいだろうと彼をもう1度しっかり見つめる。


 リーダーという雰囲気ではないが、彼を中心にまとまるのは悪くない感じがした。


「続けるとですね、兵器研究を続ける中で、彼らはホムンクルスを作ったそうなんです。ホムンクルス……は、わかりますよね? 説明が必要な人はいますか?」


 わたし達は顔を見合わせて苦笑した。

 多分全員分かっている。

 早川さんも同じように苦笑した。


「大丈夫そうですね。それでそのホムンクルスなんですが、まあなんというか、失敗したというか、ある意味成功したというか……動きはしたものの、まともな知性は宿らない、本能だけで狂ったものが出来上がったそうなんです」


「それが……」


 わたしの隣の女性が眉をひそめて呟いた。

 早川さんがその女性を見てうなずく。


「それが、外のアレです」


 全員が、無言のままなんとなく窓の方に視線を移す。


 窓の外には緑の草原と、遠くの美しい山脈(やまなみ)


 そして。


 うろつき歩くたくさんのゾンビの姿があった。













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