女神改造が高性能過ぎます
朝は和食だった。
ご飯にお味噌汁、あじの開き。卵かけ用の生卵に海苔。お漬物もついている。
魚が苦手な人にはベーコンと目玉焼きを出してくれた。しかもサラダ付き。
わたし達はきっと、もう羽田さん無しでは生きていけない。
大げさだと思う人もいるだろう。
だが一人暮らしをしてみると分かる。
ご飯を用意してくれる人はすごいのだ。絶対逆らっちゃいけない。
おひつを出して崎田さんや灰谷さんにおかわりをよそう羽田さんの姿は神々しいほどだった。
今日は、早川さんが造った道路ではなく、ゾンビがうろつく地上を車で進む事になっている。
普通に考えれば、ちょっと正気ではないと思う。
道なき道をゆく大きなマイクロバスはそこまで小回りがきかない。囲まれたら動けなくなる恐れはある。
だがその問題は女神様のおかげで解決済みだった。
「道が悪い可能性もあるんで、マイクロバスだとちょっと不安だったんですけどね、新しい車種が追加されてたんですよ」
そう言って灰谷さんが車庫の中に出したのは8人乗りの4WDだ。
それに上部のハッチが開くようにして機関銃を取り付けたり、リアウィンドウを降ろせるようにしたりと、本来ならできない改造も済ませている。
「これならなんとか、囲まれないうちに逃げ切れるんじゃないかと」
しかもこの4WD、カーナビ搭載で地図上にゾンビを赤の点で教えてくれる。
これで数が多そうな方向をあらかじめ避けられるようになった。
そして万が一、四方を囲まれたら『車庫と家を車に重ねて出しなさい』と女神様に言われている。
家を出すと、その場にいたゾンビは離れた場所に飛ばされるようだ。
これまではゾンビのいない場所を探して出してきたのだが、どうやらそこまで気にしなくてもよかったらしい。
ご都合主義と思えるほどに手厚い助けだが、よく考えればわたし達はこの世界で下手をすると子供にすら敵わないレベルで最弱なのだ。
どうかするとうっかり死んでしまいかねない。
他にも、『これだけは』とお願いしてわたし達全員が鑑定能力をもらっている。
羽田さんとくるみちゃん、あと灰谷さん曰く、鑑定は異世界人の必須スキルなんだとか。
こうして少しの不安と恐怖を残しながら、わたし達は出発した。
灰谷さんは新車を運転しながらご機嫌だった。
乗り物が好きでバスの運転手になったという彼は、運転中はいつもご機嫌なのだが、今日は特にご機嫌だ。
「最高ですね、この反応!」
あまり人の形をしたもの轢きたくないと言っていた元運転手の彼は、すいすいと器用にゾンビの間を抜けて行く。
どうやら新車を汚したり傷つけたりしたくない気持ちもあるらしい。
問題は、そうやって避けたゾンビ達が後を追ってきている事だろう。
「あれどうします? トレインして行くわけにはいきませんよね」
「トレイン、ですか?」
羽田さんの言葉に早川さんが首をひねる。
「ゲームでモンスターをたくさん惹きつけて連れ回す事をそう言うんです」
答えたのはくるみちゃんだ。
「うーーん、先方はびっくりするでしょうねえ」
早川さんがカーナビを操作する。そして不思議そうに言った。
「これ、なんでしょうね。赤い点の中に青い点があるんですが」
「ちょっと見せてください」
勢い込んで身を乗り出したのは羽田さんだ。
崎田さんとくるみちゃんも興味津々だ。
わたしとのどかさんだけ状況が理解できていないのもいつも通り。
「どうしたんでしょうね」
「ええ。なんでしょうね」
しおりさんがそんな私達2人に説明をする。
「多分、赤がゾンビなら青は人間なんじゃないかな。もしくは敵性存在ではない、というお知らせか」
「ああ、カラーで分るようにしてるんですね。でも、こんなところに人間がいるんでしょうか」
「いてもおかしくはないです。ゾンビが侵入できない地域は、人も生存が難しい地域ですから、どうしても食糧確保に外へ出る必要があります」
「そういえば、これから行く先も山岳地帯でしたね」
「ええ、それともすでに商人が存在しているとか……どっちにしても情報が手に入りそうです」
嬉しそうなくるみちゃん。
「人間か、敵性存在ではないかというのはどういう意味なんですか?」
のどかさんがしおりさんの先ほどの言葉を確認した。
わたしもなんとなくは分かる気がするけど、はっきりするとすごく助かるのでありがたい。
「例えば強盗とか犯罪目的でうろついている人とか」
「……一般人とは違う色だといいですね……」
犯罪目的でゾンビがいる地域をうろつくとか頭がおかしいけれど、村や町から追い出されたと考えれば納得がいく。
それでも、犯罪者である事を隠して潜り込むことはできそうだが。
灰谷さんが車を青い点の方向に向けてハンドルを切った。
羽田さんが車の上部のハッチを開けて、屋根に機関銃を取り付ける。
くるみちゃんと崎田さんがリアウィンドウを降ろして銃を構える。
ついてきているゾンビを片付けるようだ。
「数人の人物がゾンビから逃げているようですね。鑑定して安全と分かるまでは絶対にドアを開けないでください」
早川さんが緊張した様子もなく淡々と指示を出す。
しおりちゃんが相手がケガをしていた時のためにと、包帯と消毒液、傷薬などを用意して、わたしとのどかさんはできる事を思いつかないまま、取り出した銃を両手で握りしめていた。