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午後はゆっくりしましょう

 12時近くなった頃、羽田さんが「お昼はどうしますか」ときいてきた。


「そうですね、運転を交代しながら車内で、と思っていたんですが」


「やっぱり食事はきちんと、ゆっくり取りましょうよ。家の中で、でなくても、せめて車を停めて」


「それもそうですね。どうでしょう皆さん、1度車から降りて足を伸ばしましょうか」


「賛成!」


 しおりちゃんが嬉しそうに手を上げる。


 崎田さんが、地図を見ながら早川さんに話しかけた。


「いっそ、下に降りて家の中で休みませんか。この先、森を迂回して行くと結構かかりそうなので、今日は森の手前で一泊したほうがいいんじゃないかと思うんです。気になる事もありますし」


「気になる事、ですか?」


「ええ。多分これから向かう先の村はゾンビのいない山岳地帯にありますよね」


「ええ、きっと」


「そうすると、地図上のこの山岳地帯の入り口辺りに監視塔とか砦みたいなものがあるんじゃないかと思うんです」


「あーー、ありそうですね。そうするとこの車はまだしも、早川さんが道を設置してるのはちょっと見られたくないですねえ」


 のんびりと灰谷さんが言って、ゆっくりと車を停止させた。


「森で隠れてる今のうちが降りどきですね」


 くるみちゃんが後ろの座席から顔をのぞかせる。


「じゃあ小野田さん、下に家を出してもらえますか」


「わかりました」


 わたしが少し先の森のそばに家を出すと、早川さんがその周囲を大きく塀で囲った。

 そしてそこへ向けて下りの道路を設置していく。


「そういえば小野田さん、建物は複数同時に出せますか?」


「いえ、これ1つです。他にも倉庫とかあるんですが、家だけは1度に出せるのは1つだけみたいです」


「そうですか……」


 そう呟いて、早川さんは黙り込んでしまった。









 家の中に入ると、まずは食事をする事になった。

 今日はイタリアンである。


 トマトとモッツァレラのカプレーゼ

 生ハムとルッコラのサラダ

 牛肉のカルパッチョ

 ミネストローネ

 

 パスタはボロネーゼと和風きのこ


 ピザはマルゲリータとテリヤキ


 そしてデザートはティラミスとマリトッツォ!!

 

 罪深い誘惑の前に、わたし達女性4人は、それぞれ一個だけを選んで半分こして食べたのだった。









「さっき、小野田さんが家は1つしか出せないと言っていましたが」


 食事をしながら、早川さんがわたしに確認する。


「はい。倉庫とか、小屋みたいなものなら可能ですが、家自体は1つだけです」


「そうなんですね。実は私の能力でも家を建てられるんですよ」


「え! そうなんですか?」


「はい。でも、やっぱりそれは壊せるんです。小野田さんの家は破壊できませんから、お風呂みたいに何か理由があるのかと思っていたんですが、1つしか出せないと聞いてようやく分かりました」


 全員、興味津々で会話を聞いている。

 きっともう答えがわかっている人もいるのだろうが、わたしにはさっぱりだった。


「わたしの建てる家は、材料さえあればいくらでも建てられるんです」


「材料さえ、という事は、木材と鉄とコンクリート、ですか? それとももっと細かく?」


「木材と鉄とコンクリートだけです。そのかわりというか、すごくシンプルですけど」


「いやいや、それで十分ですよね。多分それ、ここの世界の人たち用ですよね」


「ええ、多分」


「あー、あー、なんか分かってきました! 女神様が俺たちにやらせたい事!!」


 羽田さんがものすごく興奮している。

 わたしにも何となく分かってきた。きっと行った先の町や村で、この世界の人たちの住む家を建ててやってほしい、という事なのだろう。

 でもこういう不思議な能力を見せても平気なのかな……。


「わたしも分かりました! 拠点を作って、移住者を募るんですね!」


 すっごく嬉しそうに拳を握ってくるみちゃんが言った。


 えっ!?

 とわたしがくるみちゃんを見ると、のどかさんも目を丸くしてくるみちゃんのほうに顔を向けていた。


「楽しそうですね! 街づくり!」


 そう言ったのは、両手を叩いて笑顔になったしおりさんだ。


 楽しそう!?


「そうすると商人としていろんな町や村を繋いで、その中で移住者を探す感じですよね」


「拠点は1ヶ所じゃなくてもいいですよね、僕たちには小野田さんの家がありますし」


 あ、羽田さんが『僕』に戻った。でも口元はうにょうにょして楽しそう。


 というか、話がどんどん進んでいく。

 街づくりで間違いないんだ。そっか……。


 のどかさんと視線が合う。彼女はまだ動揺していた。

 

 大丈夫、わたしもついて行けてないよ、という気持ちを込めて微笑みを送る。

 のどかさんからも力のない笑みが返ってきた。


 街づくりかあ……。

 商人の真似事は分かるけど、街づくり。


 できるのかなあ、そんな事。


 そう思いながらわたしは、食後のコーヒーをひと口いただいたのだった。










 

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