ここはどこでしょう?
「高架橋を建てると、近くにいるゾンビ達が集まってきて、何体集まったかにもよりますが、4、5体もいれば2時間ほどで柱を壊せるようですね」
「半分植物で半分人間なのかと思ったら、人間の部分は見た目だけみたいですね」
「嗅覚に聴力に筋力。知力が高くなくて幸いでした」
リビングのテレビに繋いで監視カメラの様子を確認しながら、わたし達はお昼を食べている。
お昼は中華である。
橋脚が崩れる音を聞いて正気に戻った羽田さんがみんなから注文を取って食事を出してくれた。
炒飯
ラーメン
エビチリ
麻婆豆腐
青椒肉絲
油淋鶏
そして大量の餃子
さらにデザートはもちろん杏仁豆腐だ。
餃子は、ニンニクがダメな人はいないか確認した上で、昔、旅行先で食べたというニンニクが粒のまま入った脅威のニンニク餃子と普通の餃子の2種類。
食事が美味しくて満たされていると、前向きな気持ちになれるから不思議だ。
「さっき、貸本のリストを出したときに気がついたんですが、私の能力がアップしていたんです」
餃子を食べながら崎田さんが言う。
「おお、おめでとうございます。どんなふうにレベルアップしていたんですか?」
「この世界の本も取り寄せられるようになっていました」
「この世界」
早川さんと灰谷さんが考え込む。
2人はきっと、何か今後に役立つ本はないか考えている事だろう。
「この世界の本……」
同様に考え込んだ様子の羽田さんとくるみちゃん。
2人はきっと、この世界にいたかもしれない同志の事を思っているに違いない。
彼と彼女が崎田さんからどうやって元の世界の目当ての本を入手するのか気になるところだ。
「ええ。それで調べてみたらこんなものが」
崎田さんが取り出したのは地図だ。
この世界の地図。
「これがあればまずどこへ行くか決められますね。ここがどこかの確認は……女神様に聞いてみましょうか」
早川さんがメモとペンを取り出して書き込んでいく。
わたしはふと気になって男性陣にきいてみた。
「あの、ゾンビのダメージの事とか、さっきの実験で分かった事とか、女神様にきくのではダメなんでしょうか」
「その話も出ましたが、実際に試してみて体感で理解しておく事も大事ですからね。それに質問する内容をこちらではっきり分かっていないといけませんし。例えばさっきのだと、ゾンビは橋を襲うか、襲うとしたらどの範囲にいるゾンビまでか、何体でどのくらいの時間かかって壊せるか、途中でやめることはあるか、とか色々ですね」
崎田さんの答えに、わたしは唖然としてしまった。
細かすぎる。
しかもこれでぱっと思いついた一部とか。
「知りたい事も確認したい事も多すぎるんです。それなら、手探りで疑問自体を探していく方が覚えることもできていいかな、と。実験するわけにはいかない事や、時間がかかったり答えが見つかりそうにない事をきくのがいいだろうと話してたんです。すみません、女性の皆さんには説明していませんでしたね」
早川さんが記入を終えて顔を上げる。
「いえ、確かに答えだけもらっても覚えていられないかもしれませんし」
命がかかっているとは言っても、質問する内容すら思い浮かばないのでは理解だってできないだろう。
女神様からの返事は早かった。
ピカッと光ったメモを取り上げて、早川さんが目を通す。
「ここはオラクロムという国のスクアー地方にある草原のようですね。崎田さんのリストにスクアー地方の地図があるので、この建物の位置を印しておいてくれるそうです。ちなみに、その地図は文明が滅びる前ではなく、現在のものを女神様が用意してくれたみたいです」
「今出しますね、その地図」
「それから、実験できないだろうから、と説明が追加できてます。車の中で物音を立てずに静かにしていた場合、昼間なら襲われずに済むこともありますが、夜は難しいらしいです」
「本当に万全なサポートですよね」
羽田さんが苦笑すると、早川さんはやっぱり疲れたように笑った。
「それだけ人類を滅亡させたくないという事でしょう。どう考えてもこれ、滅亡までまっしぐらですから」
「人類にレベルアップまでさせてるなら、なんで直接加護を与えないんでしょうね?」
「確かに。わざわざ他の世界から僕らを呼ばなくても」
「実はそれ、私質問したんですよ」
早川さんが告白する。
「この世界の人類に加護を与えると、何かあったときにまたすぐに助けてもらえると思って無茶をするんだそうです。それで他の世界の人間に手伝ってもらってるんだと言ってました」
「ああ……」
「どこも人間って変わらないんですね……」
取引として割り切っている異世界人なら与えられたもので与えられた役割をこなしてくれる。
女神様の期待と応援がやけに強いわけが理解できたような気がした。