実験、実験
段ボールを持ってベランダの方へ行くと、早川さんと灰谷さんがベランダから繋がった道路の上にいて、ちょうどそこから戻ってくるところだった。
ベランダの外には広い道路があって、しばらく行った先で道が2つに分かれ、そしてさらにその先でいきなり途切れている。
どちらの道も先端にはマイクロバスが1台、ぽつんと停められていた。
「これは何をしているんですか?」
「高架橋……あの道路の支えになっている柱の数は、1度に造れる制限があるそうなんです。普通の地面を走る道なら制限がないようなんですが。それで、昼間のゾンビが橋を襲う条件を確認して、どのくらいで壊されるか、壊された後に車がどうなるか試そうという話になって」
のどかさんが崎田さんに訊ねると、崎田さんは指差しながら丁寧に教えてくれた。
「道が2本に分かれていて、車がそれぞれ道の先にありますよね。片方はエンジンを切ってあって、片方は音楽をかけた状態で停めています」
ついで、別方向を指差した。
「あそこに、地上に同じ車がありますが、あれはさっき、ゾンビの近くに車を出して実験してみたものです。エンジンを動かしていない状態では襲われませんでしたが、中で目覚ましを鳴らしてみたら襲われました。そして車は壊れませんでしたが、ゾンビもダメージを受けた様子がありませんでした」
しおりさんものどかさんも、黙ってそれを聞いている。
もちろんわたしも。
「橋脚を攻撃しているゾンビは、血を流しています。橋脚は破壊されますが、ゾンビもダメージを受けているのが明らかです。先ほどの早川さんの推測通り、という事ですね」
「橋……橋脚はどのくらい持ちそうですか?」
「普通、人間が素手でコンクリートを破壊はできないんですが、さすが兵器というべきか、そこまで時間をかけずに落としてしまいそうなんですよね」
外では橋を支えている柱にゾンビが集まってきている。
叫び、うなるその合間に柱を殴りつける音が聞こえた。
わたしが絶句していると、高架橋の様子を見守っていた灰谷さんが笑ってこちらを見た。
「車のスピードのほうが早いですから、囲まれさえしなければなんとかなると思いますよ」
「そうですね」
ははは、と笑い返しながら、わたしは全然安心できなかった。
すでに柱は欠けて穴が空き始めている。
人の力では普通ああはならないだろう。
同じ気持ちだったのか、のどかさんも真っ青になって口を閉じていた。
しばらくその様子を眺めていたわたし達に、早川さんが気を遣ったように振り向く。
「こうしてじっと見ているのも退屈ですよね、時間を決めてまた見に来ましょうか」
わたし達、主に女性陣が顔を見合わせると、羽田さんがわたしのほうを見た。
「この建物って、監視カメラとかはないんですか?」
「え、あったとしてもそんなプライバシーに関わるような事は……」
「いや、じゃなくて外の方です」
「ああ! すみません! 今確認します!」
半透明のパッドを出して操作する。
すると確かにあった。
「ありました。結構あちこちに数つけられるみたいです。でも室内はダメみたいですね」
さすが女神様、絶対悪用できない仕様。
「じゃあ、壁にそれつけて待ちませんか。さっき椚さんからカタログをもらったんですが、武器と防具のページもあるんですよ。早く確認して出しといたほうがいいと思うんです」
羽田さんは少し早口になって、目を輝かせる。
くるみちゃんが嬉しそうに何度も強くうなずいた。なんだろう、この2人すごく気が合いそう……。
「武器と防具ですか。確かにそれもありましたね」
「どういうものがあるのか、どういう条件で使えるのか、確認が必要ですね」
男性陣は淡々とうなずいているけど、誰も洋服のことを口にしない。
それでいいの?
しおりさんがにこにこしながらみんなに浴衣と作務衣を配っていた。
「下着は段ボールに入っているので、サイズの合うものを選んでくださいね〜」
と言いながら。すごいご機嫌。
人間、なんでも楽しみを見つける事が大事なんだなってちょっと思った。
今回、サブタイトルはどうしてもこれにしたかった。




