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そこに道があれば車は走れます

 10時を過ぎて、灰谷さんと羽田さんが遅い朝食を食べている中、わたし達はダイニングに集まって話をしていた。


「2階に大きなベランダがありますよね、あそこも含めて家の中、という判断になっているのを、さっき小野田さんに確認してもらったんです」


 それぞれ、自身の能力の詳細をホログラムのようなタブレットを呼び出して確認する事ができる。

 早川さんはやりたい事があったようで、朝降りてきて顔を合わせると真っ先にそのことを訊かれた。


「わたしの能力は『道』を造る事ができるんですが、道と一言でいってもいろんな種類があって、中には『高架橋』というものもあるんです」


「高架橋、ですか?」


「はい。よく『ガード下』と言いますよね。あれは高架下、という意味なんです。高い位置を走っている道路の下、ですね。つまり」


「高い位置、ですか」


「ああ、なるほど」


 灰谷さんと崎田さんが声を上げる。

 羽田さんと来見田さんも納得したようにうなずいていて、理解できていないのはわたしだけなのだろうかと不安になって見回したが、どうやら春山さんも分からないようでにっこりと微笑まれた。

 椚さんは……無表情なのでよく分からない。


 早川さんがそんなわたしと春山さんに優しく笑いかけてくれる。


「ゾンビが届かないような高い場所に道を作れば、安全に移動できると思うんです」


「ああ!」


「すごい!」


「ベランダに出れば、道を造るのも安全ですし。ここにずっとこうしているわけにもいきませんから」


 にこにこしている早川さんを、わたしは純粋にすごいと思った。


 わたしは正直、ここから動きたくない。

 外にはゾンビがいる。

 もうほんとに怖くて無理なのだ。


 モンスターがいるとは聞いていたが、まさかゾンビとは思わなかった。

 魔物みたいな感じで、人とは生存区域が違っていて、そこに近づいたりしなければ襲ってはこないと考えていたのだ。

 確かにそれだと人類滅亡まではしないだろうから、考えが浅いと言われてしまうと何も言えないのだが。


「ただ、それをするのにも問題があって、条件が揃わないといけないんです」


「例えばどういう事でしょう?」


「さっき、ベランダに出て建物の外壁を確認してきたんですが、昨夜、ゾンビが壁を殴っているような音がしていましたよね」


「ええ。すごい音でしたね」


 崎田さんが相槌を打つ。


「あれ、相当な力で殴っていたと思うんですよ」


「そうですね」


「でも、見える限り外の壁には血のついた跡はありませんでした。壊れていないのは当然にしても、ゾンビが傷ついていないのは変ですよね」


「そういえば……」


 男性陣が考え込む。

 そんなに変な事なんだろうか。

 建物の壁が硬くて壊れない、で問題があるのだろうか。


「もしかしたら、この建物が破壊できないほど硬いのではなく、ダメージが入らないのでは、と思うのです。建物にも、ゾンビにも」


「なるほど」


「考えられますね」


 崎田さんと羽田さんがうなずいていると、そこへ灰谷さんが声を上げた。


「あ、そうすると僕の車は……」


「ゾンビにダメージを与えられない可能性があります」


 あっちゃーー、と灰谷さんが額を押さえる。崎田さんと羽田さん、来見田さんも渋い表情だ。


「その……それの何がいけないんですか?」


 わたしが質問すると、春山さんが何度もうなずく。


「私の造る『道』は壊す事ができます。でも灰谷さんの車は壊れない。高架橋を壊されて地上に落とされても問題ありません。でもそこでゾンビに囲まれてしまったら、最悪その場から動く事ができなくなります」


 その場面を想像してわたしは恐ろしくなった。

 映画やテレビでよく見るようなシーンだが、それを車内で実際に味わいたいわけがない。


「食事は羽田さんの能力があるのでなんとかなりますが、それ以外が」


「そうですね……」


 崎田さんが考え込むようにして言った。


「昨夜のことを考えると、凶暴化すると音や匂いなどの人の気配に関係なく周囲のものを襲う可能性がありますね。この建物の灯りを目掛けてきた可能性も捨てきれませんが」


「そうなると、高架橋も襲われるかもしれませんね」


 羽田さんが食後のコーヒーを飲みながら崎田さんのほうを見る。


「夜だけならいいですけど、僕の『乗り物』だと、昼間でも危ないですよね。動いてるわけですから」


 灰谷さんが羽田さんに追加で出してもらったフルーツをひと口食べて続ける。


「でも移動するのはいい事だと思いますよ。ずっとここにいてもしょうがないですし。道があれば車のほうは問題ありませんし。そうするとあとは、どの方向に行くか、だけですよね」


 美味しそうに食べる灰谷さんは、あまり心配はしていないようだった。











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