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白い世界で神様に言われました

 気がついたらまっ白い世界に立っていた。


 1人ではない。


 他にも何人もの人がいて、みな一様に辺りを見回していた。


 お互いに顔を見合わせ、話しかけるべきか否か、戸惑い迷っている、そんな様子だ。

 もちろん、わたしもそんな様子。


 朝起きて、いつものようにシャワーで眠気を覚まし、朝食もとらずに出社した。


 朝は低血圧で調子が悪いのがデフォルトで、出勤時にすでに帰って寝ることを考えている。そんな毎日、いつもの日常。


 それで確か駅に着いて、ホームに向かって階段をのぼっていて、それで……。


 そうだ、誰かにぶつかって階段から転げ落ちた。

 ぼんやりしてたから、一瞬何が起きたか分からなくて、危ないって思って頭が痛んで、そこから記憶がない。


 わたしは周囲の人たちをもう一度見回した。

 話しかけるなら誰がいいだろう。



 その時、頭上から声が響いた。



「皆さん、揃いましたね。これから説明をしたいのですがよろしいでしょうか?」



 顔を上げると、白い服を着た、金の髪の美しい天使がそこにいた。

 なぜ天使だと思ったかというと、大きな白い翼を持ち、宙に浮かんでいたからだ。


 わたしがぽけーーっとその天使を見つめていると、彼女はとても優しげな微笑みを浮かべた。


「皆さんは、地球の日本という国で生まれ育ち、そして人生を終えました。まだまだ残された人生があると、そう思っていた事と思います」


 言われて、そうか、わたしは死んだのか、と悲しむでもなく怒るでもなく、ただ事実としてその言葉がすとんと胸に落ちた。


 享年33才。


 まだまだ若いと言う人もいるだろうが、わたしはもう十分だった。

 わたしの体はあまり丈夫な方ではない。

 痛いのも苦しいのも辛いのもごく普通にそばにあって、健康という言葉は本当はただの作り事で、みんなどこか調子が悪いのを我慢しているのではないかと疑っている。


 だがスポーツ選手などを見ると、人には頑丈さのレベルがあって、生まれつきその数値が低い人と高い人がいるのではないかという気がしてならない。


 だとするならわたしの体は持ってる数値が低いのだろう。


 要するに生まれたときにハズレを引いてしまったわけだ。


 そんな体で30年以上も生きたのだから、わたし的にはこれ以上はもう本当に十分だった。


 

「まだ若くして亡くなった皆さんに、1つご提案があります。次の人生は豊かに、健康に、幸せな毎日を過ごしたいと思いませんか? もしわたしに協力をいただければ、今度生まれ変わるさいには素晴らしい人生をお約束いたします」



 天使にそう言われて、全く心が動かなかったといえば嘘になる。

 だがわたしはもう生まれ変わらずにあの世で静かに過ごしたかった。


「皆さんの中には、もう生まれ変わりたくないという方もいるかもしれません。でも、輪廻転生は魂の義務。悟りを開いて次の段階へと進むまでは、地上で生と死を繰り返す定めなのです。ですので、ぜひわたしの手を取ってください。後悔はさせないとお約束いたします」


 正直、全員が全員、胡散臭いと考えていたと思う。


 でも、断るという選択肢は多分ないのだという事がなぜか理解できた。

 優しく穏やかに話すこの天使は、わたし達に選択の権利など与えてくれない気がする。

 困ったようにお互いを見る日本人たち。


 民族特性なのか、なんとなく誰も自分から話そうとはしない。


 だが、ここに集まったのはどうやら30代から40代の人間ばかりのようで、それなりに社会で生きてきた経験があるものばかりに見える。

 誰も話さないなら自分が訊くしかないかな、という諦めもこもった視線で、リーダーシップを取りそうな人物を探っている。


 そして1人の人物が手を挙げた。


「あの、協力とは具体的にどういった内容でしょうか」


 作業服姿の背の高い男性だ。

 

「わたしはある世界を任されている女神なのですが、その世界の人間が今、絶滅の危機に陥っているのです。それを助ける手伝いをお願いしたいのです」


 天使じゃなくて女神だった。

 でも説明の内容が簡潔すぎてやっぱり胡散臭い。


「普通、そういう役目は物語だと若い子に託されるものだと思うのですが」


 男性は眉をひそめて女神を見つめる。

 男性と女神の会話を黙って聞いている周囲のわたし達は、うんうんとうなずいた。


「まあ物語は物語ですし、それに若い子を呼ぶとしたら、好きに利用したい人間のやる事でしょう。わたしはあなた方に分別を持って自由に行動してほしいのです。そしてもう1つ、わたしはあなた方に世界を救って欲しい訳ではありません。人類が絶滅する事がないよう手助けをして欲しいだけなのです」


「手助け、ですか」


「ええ。人類は、恐ろしいモンスターを作り出してしまいました。そのモンスターと戦い、勝利を治めるのは人類の仕事。自分達の後始末は自分達でするものでしょう。ですが放って置けば絶滅は必至。そのため、あなた方に人類のサポートをして欲しいのです」


「というと、例えばどのようなサポートを期待していらっしゃるのですか?」


「例えば食事。例えば住まい。例えば医療。そして衛生。それらをあなた方全員で、サポートして欲しいのです」


「と言われましても……」


 困ったように頭を掻く男性。


「あなた方にはそれぞれ特別な力を与えてその世界へ移動していただきます。ただその力を活かして生活してくださればいいのです」


 男性はどうしたものか、と相談するような目線をわたし達に寄越す。

 話を聞いていたわたし達はもう1度顔を見合わせ、そして頷き合った。


「わたしはいいと思います」

「わたしも……断れないようですし、仕方ないかと」

「構いませんが、来世のこととか、いろいろ相談には乗っていただけるんでしょうか」


 次々と合意の声が上がる。

 来世の相談。

 その発言のあと全員が強く頷き、中には「ぜひお願いが」と呟いている人もいる。


 そして女神はそんなわたし達に微笑みを向け、そしてその両の腕を大きく開いて翼を輝かせて言った。


「もちろんです。あなた方はみな、苦しく辛い思いをしながらも頑張って生きてきました。そんな皆さんにまた再び地上で生きて欲しいとお願いするのですから、ある程度ご希望は伺います。残してきた人たちの事も、来世の事も。全てとはいきませんが、交渉してお互い納得いくようにいたしましょう。それでは、誰から始めますか?」










ずっとゾンビものを書きたかったのです。

更新はゆっくりとなります、申し訳ありません。

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