囚われ人魚 2
* * *
そんなわけで、イカに囚われています。
いや、この絵面、どちらかというとあまり人様には、お見せできない……。
尾ひれから胸元まで、イカの足が絡みついて気持ち悪い。きていたドレスもたくし上げられてしまい、尾ひれが丸見えだ。
「ひっ、ひえぇ」
これが、足だったら、ものすごく恥ずかしいけれど、人魚の下半身はお魚なのでセーフなのだ。
でも、最近の人魚は服を着ている。おへそが出てしまうのは、あまりに恥ずかしい。
以前、こんなふうに捕まった時に、私が放出したのは魔力だったのだと今はわかる。
わかるのに、あの時感じた魔力が、なぜかものすごく減っている。
「うわあああんっ。食べられちゃう!」
イカが、ものすごい勢いで、私のことを海面に運んでいく。
耳がキーンッとする。でも、水圧の変化のせいではない、魔法を無意識に使って調整した結果、こうなっているのだ。
「イカは食べるもので、食べられるものじゃないはず。……こんな世界嫌い」
ザパァ……。
ものすごく大きな音とともに、海面から外の世界に浮かび上がる。
……あんなに憧れていた儀式を、イカの魔物にかなえられてしまった人魚です。私は。
その時、海面がものすごい勢いで凍りついた。
まるで、北極の探検隊が見たのではないかという光景だ。
「なんというか、すごい格好だな?」
イカの足がバラバラ落ちていく。
巻き付けられた私も、凍った海に落下する。
尖っているから、ただでは済まなそう。
そんなことを考えるのは、現実逃避というものだろう。
「ようやく、助けられた。いつも助けられてばかりだったからな」
けれど、予想を外れて落ちたのは、その腕の中だった。幸せで、温かい感触。
ただ、身につけた装飾品が、ジャラリと音を立てて少し痛い。
「……あの、どなたですか?」
「……魔法の代償で、俺のこと忘れたのか」
「えっ?」
たしかに、一ヶ月くらいの記憶がないらしい。
いつのまにか成人を迎えていたけれど。
「…………よかった」
えっ、忘れられてよかったとは、何か悪いことを私にしたのですか?
そんなことを思って、少し警戒を深めた私は、次の瞬間には、抱き上げられたまま、強く抱きしめられた。
「……生きている」
「えっ、見ての通りピンピンしてますよ。あっ、イカに食べられそうになっていたからですか? あの、助けていただいてありがとうございます」
月光のように輝く銀の髪に、宝石みたいな真紅の瞳の王子様に、人魚は助けられる。
それは、物語のスタートが、確かに変わったということなのだ。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。




