表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/29

囚われ人魚 1



 * * *



 海の底から、海面が見えないかと目を凝らす。見えない。さっきまで、明るい場所にいた気がするのに、海の底はあいかわらず暗い。


 それでも、よく見えるのは、人魚の魔法なのだと、今の私にはよくわかる。


「魔法と魔術について、なぜか急にわかっちゃった。何でだろう?」


 すいっと尾ひれを揺らせば、軽やかに海の中を進む。子どもの頃、泳ぎが下手だったのが嘘みたいに、今の私はプロの人魚だ。


 ふと、髪の毛に違和感を感じて触れると、硬いものがついている。取り外してみれば、見たことのない髪留めだった。

 銀で作られているらしい、繊細な飾りと真紅の宝石。


「キレイ……。お姉様からの誕生日プレゼントかな?」

「忘れたの」


 あまりに美しいその色に、目を奪われていると、お姉様が目の前に現れた。

 なぜか騎士服。そして二本の足。


「…………お姉様が、人間になっている」

「大した問題じゃないわ」


 大した問題だ。それでも、すいすい泳ぐお姉様は、尾ひれがなくても速い。


「だって、人魚は魔法で泳ぐのだもの。足でもヒレでも関係ないの」

「……どうすれば、そうなれるの」

「ふふ。ある人が、自分の魔力全てをかけて、貢いでくれたの。……強制的にね」


 さすがはお姉様。人魚の尾ひれを、足にしてくれる人がいるらしい。


「ところで、忘れたって、なんのこと?」

「……思い出したい?」


 うーん。忘れているという、モヤモヤした気持ちすらないから、思い出せなくても……。


 それなのに、胸が痛い気がする。

 何でだろう。誰かを待っているような?

 うん? この宝石の色が懐かしいような?


「ところで、今日は私の誕生日だから、海面に顔を出す儀式を」

「レイラの誕生日は、ずいぶん前に終わったわ」

「えっ、冗談」


 お姉様は、あまり冗談なんて言わない。

 えぇ……。なぜ?


「……え、どうしてそんなことに」

「一月以上経ってるの」

「えっ、ではすでに成人」


 わぁ。子どもの頃から、王子様に会ってしまうのではないかと不安に思いながらも、楽しみにしていたのに。夢見ていたのに。

 気がついたら、成人式が終わっていたとか、そんなレベルで悲しすぎる。


「…………それでも、成人なのだから、いつだって海面に顔を出すことができるわ」

「うーん。王子様にでも出会ってしまったら困るから」


 けれど、私は知らなかった。

 翌日、以前から私を目の敵にしていたイカの魔物にとうとう捕まってしまうなんて。

 そして、予想外に、あんまり魔力が残っていないせいで、逃げられないなんて。


 人魚姫は、王子様を忘れてしまった。

 それなら、海の底で幸せになればいいものを、そうは問屋が卸さないのだ。


最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「溺婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。」 今回は、重い話が書きたくなって始めたので、前半重いです。 主人公の聖女は、世間知らずでお人好し。 最終的にはハッピーエンドになる予定です。 ぜひ、↓のリンクから一読いただけると、うれしいです。 「溺婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。」
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ