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舞踏会と尾ひれ 2



 * * *



 宮殿に着くと、正門の前で降ろされた。

 招待状を見せると、なぜか正門を守っていた騎士が、目を見開いた後に深くお辞儀をする。


「……なぜ? みんなにこんな、礼儀正しいの?」

「いいえ。だって、その招待状、第三王子殿下の直筆じゃないですか」

「……普通は違うの」

「そんなに暇ではないでしょう。王族は」


 それもそうか。酒池肉林を楽しんでいるなんて、そんなことはないだろう。だって、この世界には魔物がいる。

 平和を守るのも容易ではないに違いない。


 そんなことを考えていると、ギュッと私をエスコートしている手が、私の手を握った。


 不審に思って顔を上げれば、目の前には淡い金の髪と青い瞳の王子様がいる。

 先日お会いした時よりも、煌びやかだ。


 濃紺の礼服に、金の飾り紐。それは、騎士服のデザインと揃えてあつらえられている。

 けれど、白いマント、その高貴さは、周囲と一線を画している。


「お迎えにあがりました。姫」

「ルクス・ミディアム第三王子殿下、自らお出迎えなんて、恐縮いたします」

「無理に誘って悪かった。そんな顔しないでほしいな」


 ルクス殿下の笑顔は、素晴らしく輝いている。けれど、どこか本心を隠しているように感じる。

 けれど、それよりも、なによりも、問題は後ろに控える、少し背の低い騎士様だ。


 認識阻害。


 周囲にはどう見えているのだろう。

 高度な魔法が発動しているのはたしかだ。


 隣のストラト卿ですら、特に違和感を感じていないらしい。

 たぶん、人魚にしかわからない類のこれは、魔術ではない。これが魔法。


 やっと、人魚は生まれながらに、魔術と魔法の違いを理解するという意味がわかった。

 目の前にいる騎士様。あんなに探していた人が、真後ろに控えていると気がついたら、ルクス殿下は、どんな顔をするのだろうか。


「ああ、エスコートを他の人間にさせるなんて、無粋なことをしてすまなかった。…………どうしても、クラウスの力が必要でね」


 ようやく、私のそばに帰ってきたクラウス様。

 ルクス殿下の隣に並んでも、遜色ないほどの高貴さだ。


 後ろに佇む騎士の視線が気になるけれど、それでも会えたことが嬉しいという気持ちは偽れない。


 その伸ばしたクラウス様の手に、そっと私は手を重ねる。


「ナティア殿が、迎えにきたか」

「え? わかるのですか?」

「…………これでも、この王国の筆頭魔術師だからな」


 なんとなく、溺れかけていたり、血だらけになっていたり、魔力枯渇に苦しんでいる姿ばかり見ているせいで、クラウス様が最高位の魔術師という実感が持てない。


 でも、周囲の誰も気がつかない、お姉様の魔法に、すぐに気がついた。


「ふ。今宵、レイラ姫をエスコートする栄誉を俺に下さいませんか?」

「え? は、はい」


 クラウス様が、私に甘くて全身が沸騰しそうになるような煌めく笑顔を向けた。

 そのことが嬉しくて、なぜか切なくて、それでも私は笑顔を返す。


 うまく笑えているだろうか。


「それから」


 そして響くのは、底冷えするようなルクス殿下の笑いを含ませたような声。

 くるりと回った体。遅れてふんわりとその形を変える白いマント。


「捕まえた」


 周囲がざわめく。

 それはもちろん、王子様が、後ろに立っていて逃げそびれた騎士を急に抱きしめたからだ。


 バキンッと派手な音を立てて、ルクス殿下のマントの留め具の宝石が割れる。

 マントは一度だけふわりと広がると、地面へと落ちていく。


「……なにそれ。いくら、大きな魔石を媒体にしたからって、人魚の魔法を解くなんて。命でも、かけたの」


 震えながら吐き出された声は、やはりお姉様の声だ。


「ふふ。願いの対価に王位継承権を放棄した」


 正妃から生まれた第三王子は、王位継承権が高い。ましてや、豊富な魔力を持つという。


「ば、バカなの? そもそも、王位継承権をあなたが放棄したって、他の誰かがその責を」

「それでも、君が欲しかった」


 私を迎えに来たせいで、お姉様は王子様に捕まってしまった。


 声と命を差し出しても王子様からの愛が得られずに、泡になったという人魚姫。

 それでは、人魚を愛してしまった王子様が捧げるのは?


 もう一つの人魚姫の物語は、山場を迎える。

 そして、人魚と筆頭魔術師の物語も。


 


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新作「溺婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。」 今回は、重い話が書きたくなって始めたので、前半重いです。 主人公の聖女は、世間知らずでお人好し。 最終的にはハッピーエンドになる予定です。 ぜひ、↓のリンクから一読いただけると、うれしいです。 「溺婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。」
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