舞踏会と尾ひれ 1
* * *
舞踏会のため、飾り立てられる。
茶色の髪の毛には、パールで作られた髪留め。
長い髪は、結い上げられている。
ドレスは、海のような青。
泡のようにパールが縫い付けられているから、重い。
「美しいな」
「…………クラウス様こそ」
宮廷魔術師は、金の飾り紐と、白でまとめられた騎士と同じ礼装だ。その上にまとうマントだけが、肩全体を覆うように、そして配置された緻密な刺繍と、魔石。美麗で、騎士とは違う印象だ。
「……滅多に着ることはないがな」
「そうですか。もったいないです」
「先に呼び出されている。俺と合流するまで、決して無茶をするな。誰とも会話するな」
「もう、何回目ですか」
そうこうしている間に、クラウス様のピアスが鈍く光る。
「ストラト卿から離れるな」
「はい」
振り返れば、やはり白い礼装。犬耳騎士のストラト卿。騎士の礼服は、赤いマントを片方の肩だけかけたスタイル。これはこれで、よい。
そして、クラウス様の方を振り返れば、すでにその姿はなかった。転移魔法を発動したのだろうか。
ストラト卿が笑えば、口元から覗くのは白い八重歯。爽やかだ。
「どうか、お手を」
当然のように差し伸べられる、白い手袋を身につけた手。
「お久しぶりです。ストラト卿」
「ええ……。我が主が、なかなか会わせてくださらないので」
にっこり笑った顔は、可愛らしく、まさにワンコ系騎士様代表格だ。
「ストラト卿は、王宮の騎士様なのですよね? 今日みたいな晴れの日に、付き合わせてしまって申し訳ありません」
「いいえ。俺は、クラウス様の専属です。王宮で働いているわけでは、ありません。それに、こうしてエスコートさせて頂けて、光栄です」
リップサービスに違いない。でも、そう言ったあとの笑顔からは、嘘なんて一欠片も感じられない。
……それにしても、専属?
筆頭魔術師様ともなると、専属の騎士がつくのだろうか。
「ストラト卿は、ずっとクラウス様に仕えておられるのですか?」
「ええ、子どもの頃から」
「子どもの頃から?」
「そうですよ。ずっと、あの方のそばで、仕えてきました」
子どもの頃から、クラウス様は、筆頭魔術師だったのだろうか。だけれど、これ以上問い詰めるなんて、不躾に違いない。
そっと手を乗せれば、滑るように歩き出す。
「さ、我が主が心配しすぎるので、早めに合流しましょう」
屋敷の正門には、立派な馬車。
そして、その馬車の上には、当たり前のように、青い鳥がとまっている。
そのことに、私たち二人が触れることはないまま、馬車は滑らかに走り出した。
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