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人魚姫への招待状 3



 * * *



 青い美しい一枚の羽根。

 捨てる気にはなれなくて、窓辺に置いている。

 クラウス様は、そのことがご不満な様子だ。


 そして、私が握りしめる勢いで、持っている封筒。それは、王宮で行われる舞踏会の招待状だ。


「クラウス様」

「……レイラ、舞踏会がどんな場所かわかっているのか?」


 クラウス様のお屋敷では、髪の毛の色を隠す必要もない。桜貝のようなキラキラとした髪の毛を、指先で弄ぶ。


「煌びやかな世界。水面下では、魑魅魍魎が闊歩する恐ろしい戦場」

「ちみもうりょう? まあ、恐ろしい戦場というのは、正解だ。そんな場所に」

「…………置いていっていいですよ」


 一人で潜入するので。

 王宮への道筋は、前回のことで完璧です。

 招待状もありますし。


「……一人で潜入する気か」


 そこまでわかっているなら、一緒に行けばいいと思います。だって、舞踏会の日付は今夜なのだから。


「では、せめてその髪を」


 クラウス様の口づけとともに、私の髪色はなんの変哲もない茶色になった。


「……この髪色。桜貝の色。どんな意味があるんですか?」

「桜貝の色をした髪は、古来から聖女を表す。そして、泡になって消えたという伝説の人魚と同じ色だ」

「聖女?!」


 ここで、予想もしなかった単語が、急に現れた。

 異世界転生、聖女設定だったらしい。


「……聖女は、魔法を使う存在だ。人にはいないとされる髪色。歴代の聖女は、元人魚……なのかもしれないな」


 私が、聖女なんて、力がある存在のはずない。

 それなのに、クラウス様の表情は、曇ったままだ。


「……そういえば、十六年ぶりの肉の味は、どうだった?」

「それはもう、最高に美味しかったです。ドラゴンのお肉は、初めて食べましたけど」


 ……ん? どうして今、その話題?


「……それでは、レイラは、十六年前、どこで肉を食したんだ?」

「えっ」


 そう。たしかに私は、十六年ぶりにお肉を食べたと言った。そして、私は今、十六歳。


「……無理にとは、言わないが」

「いいえ。クラウス様、信じてもらえるかわからないですが、私には前世の記憶があります」

「そうか。まあ、たまに聞く話だな」


 たまに聞くんだ! それなら、さっさと話してしまってもよかったのかもしれない。


「だが……。種族は、変わらない」

「え?」

「……そして、人魚は肉を食べない」


 たしかに、海にお肉はない。

 え、でも私はたしかに。


「魂の形に合わせて、肉体は造られる。それが、定説だ」

「私の心は、人間です。だって」

「ははっ」

「クラウス様?」


 なぜか笑ったクラウス様。

 その直後、私は食べられてしまったかと思った。その口づけは、急で、少し乱暴で。


「例外なのか、それとも」


 そういえば、私のお父さんは、どこにいるのだろう。私の魂が、人間のままだというのなら、どうして人魚に生まれたのだろう。


「……どちらにしても、隠し通す」


 たぶん、クラウス様は捕食者で、人魚の私は被捕食者だ。捕まってしまったら、逃げられない。


 補給できない私の魔力。

 だんだん、減っているのを感じている。


 逃げられない運命の中、物語だけは、私たちの感情なんて気にもしないで、進んでいくようだった。

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