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人魚姫への招待状 1



 * * *



 なんとかクラウス様を、お屋敷まで連れて帰ってきた。


「すまない。もう、問題ないから」

「そんなはずないでしょう! 魔力がからになった時の症状、知っているんですからね?!」

「……いったい、どうしてそんなことになったんだ?」

「ああ、もうっ! 私のことはいいんです!」


 その時、クラウス様の真紅の瞳が細められて、私は気がつけば、ベッドの上で抱きしめられていた。


「……わかった。レイラの言う通り、おとなしくするとしよう。その代わり、そばにいてくれるか?」


 この状況が、不味いということ、いくら私にそういう経験がないのだとしても、さすがにわかる。

 心臓がバクバク音を立てている。


「……ずっと、そばにいて」


 私を抱きしめているクラウス様が、笑ったようにも、泣いたようにも思えて、逃れようと動かしかけた腕で、思わず抱きしめ返していた。


「……ずっと、一緒にいますよ」


 嘘だ。私たちは、ずっと一緒になんていられない。生きている場所が違う。種族も違う。

 海と地上は、隣り合っているようで、やっぱり遠い。


 やはり、限界だったようで、ベッドの上で抱きしめているうちに、クラウス様は寝息を立てはじめた。


 冷たかったその体は、熱を帯びている。

 急速に、魔力を取り戻そうとしているのだろう。


「……クラウス様」


 本当の人間になる方法は、ないのだろうかと、私は初めて真剣に考えた。

 泡になって消えるのが、怖くて仕方がなかった私は、考えることをずっと避けていた。

 でも今は、泡になるよりも、クラウス様から引き離されることの方が怖い。


 恋や愛なんかには惑わされず、堅実な人魚姫として、生きていこうと思っていたのに、すっかり恋に落ちてしまった。


 でも、そんな自分を嘲笑う気にもなれない。後悔するには、あまりにこの時間は、幸せすぎる。


「レイラ……」


 寝言だろうか。私を抱きしめて離さないまま眠っているクラウス様の寝顔は、いつもと違って幼くて、守ってあげたくなる。


 実際は、クラウス様は、私を守ることができても、私にはその力がないのだけれど。


「クラウス様の、そばにいたい」


 でも、ひとつだけ、私を不安にしてしまうのは、私を守ろうと王命に逆らって、こんな目に遭ってしまった、クラウス様の置かれた状況だ。


 青い鳥ラックも、他の人や王族に、私が名前を呼ぶところを知られないようにと言っていた。なにか理由があるのだろう。


「クラウス様を、苦しめたくない」


 先ほどの願いより、間違いなくこちらの願いの方が強いことを、声に出してみて、自覚する。


「好きです。クラウス様」


 人魚姫は、恋に落ちたことを自覚する。

 そして、守りたい人ができてしまったことも。


 平凡な恋ならよかったのに。

 笑いあって、そばにいられたら、それで幸せな恋だったなら。


 でも、そんな恋はとても少ない。

 恋愛経験のない私は、そんなこと知らない。


 平凡な幸せを願う私の元に、第三王子の直筆サイン入りの、舞踏会への招待状が届くのは、それから三日後のことだった。

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