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青い鳥と第三王子 3



「さ、人魚姫のご招待にも成功したことだし、そろそろクラウスのところに案内してあげようか?」


 ルクス殿下が軽く手を上にあげると、青い鳥が室内に入って来た。

 ちらりとこちらを見た青い鳥は、たしかにラックだけれど、私を目線を合わせようともしない。

 名前を呼ぶなという意思表示にも思える。


「――――クラウス様は、ご無事なのですか?」

「無事だよ? 王命は完遂されたから、少なくとも、命に別状はない」

「……クラウス様に何をしたんですか」

「何もしていない。ただ、王族に逆らうことをクラウスは許されていない。だから、王命に逆らったクラウス自身の問題だ」


 ほんの少しだけ、ルクス殿下の表情に憐憫が浮かぶ。

 王族に逆らうことが出来ない。……逆らったら、どうなるというのだろう。


 バサリと羽ばたきが聞こえた、ラックが部屋の外に飛び立っていく。

 私は、慌ててそのあとに続く。

 もちろん、ルクス殿下へお辞儀も忘れない。


「またあとで、会おうね?」


 もう、会いたくない。なんだか、お姉様があんなに王子様を助けてはいけないと言っていた意味が、わかってしまった。でも、そんなことまさか言えないから「光栄です」とだけ答えておいた。


 再び、ラックと私、一人と一羽だけになる。


「ねえ、ラック……」

『言い忘れていたが、人前で僕の名前を呼んではいけない。とくに、王族の前では』

「わかったわ。……あの」

『クラウスのところへは、連れて行ってやる。だが、無茶なことはしないと約束してくれ』


 私はそんなに、無茶な行動をするように思われているのだろうか?

 たしかに、少しだけ考えるより先に行動してしまうところは、あるかもしれないけれど……。


『――――この中だ』


 その扉は、何かを封印でもしているように幾重にも鎖が張り巡らされている。


「この中に、クラウス様がいるの?」

『ルクス王子の前に、レイラを連れていくという命令は完遂された。これ以上、苦しむこともないだろう』

「…………クラウス様」


 開きそうもないと思った扉は、私が触れたとたん小さな魔法陣がいくつも発動して、簡単に開く。


『魔法の前には、まがい物の魔術など、ひとたまりもないな』


 ラックの言葉が、引っかかったけれど、そのことを問いただすより、部屋の中に飛び込むことを優先する。

 予想に反して、部屋の中は整えられていた。

 そして、ソファーにもたれかかるように座るクラウス様の姿が目に入る。


「クラウス様!」


 気だるげに顔をあげたクラウス様が、大きく目を見開いた。

 その体に飛び込むように抱き着く。

 氷のように冷たくて、いつもの温かい魔力が、まったく感じられない。


「どうしてここに……」

「クラウス様が、帰って来ないなんて嫌だから。……どうして相談してくれなかったんですか」

「守ると決めているから」

「――――自分を犠牲にして守るのはダメです。それに、約束したのは、帰ってくるってことだけです」


 一度だけ、海の中で大きなイカの魔物に出会ってしまったことがある。

 たくさんの足に捕らえられてしまった私は、無我夢中で体から何かを放出して逃げ出した。

 今思えば、あれは魔力だったのだろう。

 魔物イカが、ひるんだすきに逃げ出すことが出来たけれど、家に帰り着いた直後から、息が上手くできないような苦しさと、冷たくなったり熱くてたまらなくなる体と、尾ひれが二つに割れてしまいそうな激痛に、三日三晩苦しんだ。


 あれは、魔力が枯渇した時の症状なのだと、付きっきりで看病してくれたお姉様が教えてくれた。


「……帰りましょう。クラウス様」

「――――レイラ」


 私の魔力を分けてあげれば、クラウス様は元気になるに違いない。

 けれど、私の魔力がなくなってしまったら。


 私は気がついてしまった。人魚の魔力は、海の中では自然に回復するのに、地上では全く回復する気配がないことに。そして、この足は、本物ではなく魔法の力で一時的に変化しているだけだってことに。


 全部、全部分けてあげたいのに。

 全部魔力がなくなってしまったら、たぶん私は……。


「クラウス様? 少しだけ触れさせてください。クラウス様が、ここにいるってわかるように」

「レイラ……」


 軽く触れあうだけの口づけ。

 クラウス様が、苦しいのなら、ほんの少しだけでもいいから、私にもわけて欲しいという願い。


『期間限定』


 小さな声が耳の中でこだまする。

 人魚姫と筆頭魔術師様は、ずっと幸せに暮らすのは、難しいのかもしれない。


 人魚が完全な人間にでも、ならない限りは。


*:.。..。.:*第2章完*:.。. .。.:*



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