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人の世界と人魚の物語 2

 そう、気持ちを確認しようとなんて、してはいけなかった。

 それなのに、クラウス様はなぜか幸せそうに笑った。その表情のせいで、ほんの少し幼く見えてしまって、可愛らしい。


「……いや、それも違うな。……そう、違う」

「――――クラウス様」

「ただ、一目会いたくて。あの時告げた言葉だけが、俺の本心だ」


 もう一度、抱きしめられる。

 頬に触れる大きな手は、温かい。

 海の中では、温度は魔法に阻まれているせいか、全てがひんやりしている。


「クラウス様の手、温かいです」


 その言葉は、最後まで告げられない。

 魔法が発動してしまったから。


『クラウス様の傷が、治りますように』


 そう、人魚姫は、願ってしまった。

 瞳を見開いたクラウス様が、私に性急な口づけをする。


「ダメだ。魔法を使わないで?」


 発動しかけた魔法は、ほんの少しだけクラウス様の傷を癒して消える。


「そばにいて。俺のそばに」

「――――クラウス様?」

「はあ。……魔法は使わないように。人魚と違って人間は、魔法を対価なく使うことは、出来ないのだから。ただでさえ、レイラは消耗しているはずだ」

「……元気ですよ」


 さっきまでの、可愛らしい様子は鳴りを潜めてしまう。

 たぶん、こちらのほうが、普段のクラウス様なのだろう。


「……そういえば、ここはどこですか?」

「俺の屋敷だ。あの後、転移魔法で帰って来た」

「何でもできるんですね。魔術って」

「何でもできたらいいんだけどな? 本当の願い事は叶えない。それが魔術だ」


 難しいことを言い出したクラウス様。

 さすがは筆頭魔術師様だと、私は瞳をパチパチと瞬く。


「それにしても、レイラは人魚だった割に、魔法や魔術に疎いな。……人魚は、生まれた時から、魔術や魔法の深淵を理解しているという。お前の姉もそうだろう?」

「え? お姉様が、ですか?」


 そういえば、魔法使いと魔術師が違うなんて、普通に理解していくことで、常識みたいなことを言っていた。でも、人魚の世界には本もない、学校もない。

 みんなどうやって、そういうことを知っていくのだろうか。


「――――レイラは、普通の人魚とは違うのかもしれないな」

「まあ……。おっしゃる通りですけれど」


 魔法よりも、科学のほうが詳しい自信がある。

 それにしても、急に出てきてしまったから、お姉様は心配しているに違いない。


「お姉様……」

「連絡は、しておいた。また、会いに行くことは出来るだろう」


 それにしても、クラウス様は気が利く。

 通信手段があるのなら、私からもお姉様に元気にしていることを伝えたい。


 でも、次にお姉様に会うとき、それは私にとっては想定外で、やっぱり同じ血が流れているのだと感心してしまうなんて、もちろん知らない。


「――――そういえば、礼がまだだな?」


 筆頭魔術師様の財力とか、少しずれた金銭感覚のことも、もちろん知らない。

 そして、これから巻き込まれる、この世界の人間社会のことも。


 そして、クラウス様が戦い続けなくてはいけない理由も。

 それでも、幸せな毎日は、幕を開ける。

 クラウス様の手によって。


*:.。..。.:*第1章完*:.。. .。.:*

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