「村人を皆殺しにしろ」と命令された騎士は、国を捨てて村人たちと隣国に亡命する 〜ブラック騎士団から逃げ出した俺は、成果が評価される新職場でモンスターを退治して民を救う〜
本作品は連載化に向けたパイロット版です。
その点、ご了承下さい。
1.特別任務
「十騎長ライト、参上いたしました」
ライトは領主の執務室に入ると、柔らかい絨毯の上に跪き、頭を下げた。
「うむ」
領主であり、騎士団を麾下に置く辺境伯が書類から顔を上げる。
執務室には辺境伯の他にもう一人。
サルタン百騎長――ライトの直属上官だ。
辺境伯の斜め後方に立ち、嫌らしい笑みを浮かべている。
上官ではあるが、年齢はライトよりも十歳年下。
入団して一年も経っていない15歳だ。
辺境伯が短く告げる。
「ライト十騎長よ。特別任務だ」
「はっ」
サルタンが言葉を継ぐ。
「イヴォーク村の村人を皆殺しにしろ。全47名、一人の生き残りも出すなッ」
嗜虐心を選民意識で塗り固めたような声だった。
「なッ!?」
思わず顔を上げてしまったが、ライトはかろうじて言葉を飲み込み、再度頭を下げる。
「本件は単独任務だ。部下の随行は認めない。期限は明日の日没。それまでに任務を果たし帰還せよッ」
――俺に無辜の民を殺せというのかッ!!
サルタンに何を言っても無駄だと知っているライトは、辺境伯に直訴する。
本来許される行為ではなかったが、そうせずにはいられなかった。
「なぜですかっ、閣下。なぜ、イヴォーク村がッ――」
「先日、イヴォーク村は今年度の税の支払いを拒否した。これを許せば、他の村々も真似するであろう。そのようなことは決してあってはならん。イヴォーク村には見せしめになってもらうことにした」
すでに興味はなくなったとばかり、辺境伯は書類から視線をそらさず、淡々と語る。
「しかしッ――」
ライトは反論を試みた。
イヴォーク村は理由もなく税を拒んだのではない。
あの一帯は今年天候に恵まれず、著しい不作だったのだ。
払わないのではない、払えないのだ。
だが、ライトの言葉はサルタンに遮られる。
「貴様の意見は聞いていない」
「くっ……」
「貴様の仕事は意見することではない、命令に従うことだ。分かったか?」
「…………承知いたしました。……………………特別任務、慎んで拝命いたします」
「分かったら下がれ」
「はっ」
辺境伯の顔を上げさせることすら出来なかった。
両の拳を強く握りしめたまま、ライトは立ち上がる。
あふれ出しそうな激情を鍛え上げた精神で抑え込み、退出しようとした背中に声がかかる。
「平民想いのライト十騎長のお手並み、期待しているぞ」
サルタンの粘着く声だった。
◇◆◇◆◇◆◇
2.決断
ライトが所属する北玄騎士団は貴族至上主義だ。
平民はどれだけの功績を立てても十騎長が最高位。
ライトは十年間務め上げ十騎長に就いたが、これ以上の出世は望めない。
それに対し、貴族は最低でも十騎長。
サルタンのように伯爵家以上の高位貴族であれば、いきなり百騎長からスタートするのだ。
騎士団が実力主義ではなく、貴族至上主義を採用しているのには理由がある。
この国――クサン王国は平和なのだ。
平和すぎるのだ。
隣国ダレス帝国との戦いは絶えて久しいし、ここ十数年、国内で魔獣の出現は観測されていない。
もともと、騎士団は魔獣討伐のためにつくられた組織だ。
だが、魔獣が現れなくなり、本来の役目を失った。
今の騎士団の仕事は領主の懐を潤すこと。
苛烈な税を取り立て、逆らう領民を弾圧する。
騎士団はこの十年で、弱き者を守る存在から、弱き者を虐げる存在に変わり果ててしまった。
平和になり、貴族が平民に権力を振りかざす。
北玄騎士団自体もこの国の縮図そのものになってしまった。
平民騎士が過酷な下働きをし、手柄は貴族の上官騎士のもの。
入団1年目の上官という捻れた人事がまかり通るのだ。
――これはサルタンの報復だ。
サルタンは侯爵家の次男であり、15歳で入団すると同時にライトの直属上官となった。
そして、今回の件を画策したのもサルタンだ。
サルタンはライトを恨んでいた。
ライトは多少の横暴には耐えるつもりでいたが、サルタンの行動は簡単に一線を超えるものばかりであった。
言い寄った女性騎士に振られて斬ろうとしたり。
騎士団への協力という名目で領民から金品を巻き上げようとしたり。
領民が前を横切ったという理由で切り捨てようとしたり。
このような目に余る行いを諌め続けた結果、ライトはサルタンに疎まれ、恨まれ、憎まれた。
今までも散々な嫌がらせを受けて来たが――。
その末が――今回の命令だ。
「クソッ!!」
領主邸を後にし、兵舎へ向かうライトは怒りに駆り立てられ、足早になっていた。
――俺はなんのために騎士団に入ったんだッ!
知り合いの団員とすれ違うが、皆、ただ事ではないライトの形相に声をかけるのをためらってしまう。
――民を守るためだッ。民を殺すためじゃないッ!!!
幼い頃の決意。
騎士になる決意。
騎士として生きる決意。
それが踏みにじられた。
サルタンの勝ち誇った笑顔が脳裏に浮かぶ。
「クソッ!!!」
兵舎の自室にたどり着くと、荒々しくドアを閉める。
平民十騎長用の狭い部屋だ。
小机に椅子、ベッドにクローゼット。
必要最小限の調度品だけ。
騎士団らしい質実剛健さといえば聞こえがいいが、貴族用の部屋と比べれば、立場をわきまえさせるための一環であることはすぐに分かる。
ライトはどしりと椅子に腰を落とした。
ライトが入団してからの主な仕事は、今回命じられたような民衆の弾圧で、後はたまに現れる盗賊退治くらいだ。
それでも、さすがに、今回のように「村ひとつ皆殺し」というほどの命令は初めてだった。
「覚悟はしていた。いつかこの日が来た時にどうするかは決めていた。決めていた……はずなのに」
ドンと強くテーブルを殴りつける。
「まさか、実現するとはな……」
大きく息を吐き出すと、ライトは肚を括った。
騎士という立場を捨てることを。
部下たちを捨てることを。
そして、生まれ育った故郷を捨てることを。
「となれば、時間は少しも無駄に出来ない」
立ち上がり、荷物をまとめたライトは部屋を飛び出した。
怒りをひそめ、使命に燃える騎士の顔つきで。
◇◆◇◆◇◆◇
3.リーナ
ライトは急ぎ足で厩舎へ向かう。
その途中、立ちふさがる者がいた。
両手を横に広げ、ここは通さないぞと。
「そこをどくんだ、リーナ」
「いいえ、どきません」
気の強さを体現したような赤く燃えるような髪。
まだ少女らしさを残しながらも、一人前の騎士らしい鋭さをまとった立ち姿。
ライト率いる十人隊で副官を務めるリーナ兵長だ。
「どけッ!」
「いいえ。どきません。十騎長が連れて行って下さるまで、私はここをどきません」
ライトが厳しい口調で伝えても、返ってきたのは芯のある答えだった。
明らかにライトの事情を知っている。
知った上で、自分を連れて行けと、この少女は訴えているのだ。
「聞いたのか?」
「ええ。嬉しそうに振れ回っていましたから」
「ちっ。だったら――」
「だからこそです」
「本件は単独任務だ。部下を連れてくわけにはいかない」
「十騎長がなにをするつもりか、理解しています。だから、私を連れて行って下さい」
ライトはリーナの瞳を覗く。
鋭い視線で射られても、リーナの瞳は揺るがない。
同じ目だ――ライトは悟る。
俺と同じ、覚悟を決めた目だ。
「もう戻れんぞ?」
「ええ、承知の上です」
部下になってから一年もたっていないが、リーナのことは以前から知っている。
現在18歳。
貴族の出だ。
だが、貴族とはいっても男爵家の六女。
しかも、妾腹。
その出自もあって、本人も「自分はなんちゃって貴族」と言うくらいで特権意識がなく、平民騎士の間ではその美貌も相まって人気が高かった。
だけど、リーナこそが本来の意味での貴族らしさを兼ね揃えた人間だった。
――権力者に屈せず、毅然と立ち向かえる強さ。
それが彼女の美徳だ。
だが、その美徳ゆえに、サルタンとの間にトラブルが起きた。
そのせいで、貴族としてはあり得ない兵長へと降格になり、以来、ライトの配下で副官を務めている。
そんな彼女ゆえ、絶対に譲る気がないことをライトは理解していた。
「ついて来い」
「はいっ!」
二人は厩舎で愛馬を受け取ると、一路イヴォーク村を目指した――。
◇◆◇◆◇◆◇
4.イヴォーク村1
駆けに駆け、ライトとリーナがイヴォーク村に着いた頃には昼を回っていた。
馬から降りたライトは近くにいた青年に話しかける。
「騎士団十騎長のライトだ。村長に伝えて、村人全員を集めてもらえるか。火急の用件だ。急いでくれ」
「はっ、はい」
騎士姿のライトたちを見て青年は怯えていたが、身分を示すメダルを見せると、慌てて奥に走って行った。
このメダルを持つ者に逆らってはいけない――辺鄙な村の住人でも知っていることだ。
「リーナ、俺たちも行こう」
「了解しました」
――十数分後。
村の中央、広場と言えるほどの広さはないが、井戸を中心とした開けた場所に村人たちが集合した。
全部で47人。
一人も欠けていない。
外に出ている者がいなくて助かった――とライトは安堵した。
――それにしても酷いな。
村人たちは皆、驚くほどにやせ細っている。
こんな村人たちから重税を取り立てるとは……。
ライトは浮かんできた怒りをじっと鎮める。
怒ったところで、無駄に彼らを不安にさせるだけだ。
ライトが右手を高く挙げると、村人たちは静かになった。
それを確認して、ライトは口を開く。
「よく集まってくれた。私は北玄騎士団本部第8部隊十騎長のライトだ。辺境伯の命を受けて、ここイヴォークにやって来た」
「なんで、騎士様が?」
「まさか、税のことで領主様が……」
ザワつく村人たちに、
「まず、最初に伝えておく――」
そこで区切り、腰の剣を抜く。
子どもが「ヒッ」と声を上げ、母親がその口を手で抑えた。
――まるで、悪者だな。
ライトは抜いた剣を放り投げる。
剣はカランという乾いた音を立てて地に転がった。
リーナに目配せをすると、彼女も同じ様に剣を放る。
「私は貴方たち領民に向ける剣は持ち合わせていない。信じてもらえるだろうか?」
真っ直ぐに村人たちを見据える。
不安、懐疑、困惑。
村人たちが動揺している中、一人だけライトを鋭く睨みつける少年がいた。
「わたしはこの村で村長をしております。騎士様、失礼なことを申し上げますが、我々はなにがなにやら分かっておりません。信じろと言われても、何を信じていいのか分かりません。ですが、騎士様の言葉に耳を傾けねばならない。それだけは分かっております」
「協力感謝致す。貴方たちにとっては信じたくない話になるが、どうか最後まで聞いて欲しい」
真摯な目で語りかける。
ライトにあるのは誠実さだけだ。
それしかない。
誠実さを持って、彼らに言葉を届けるしかない。
届くことを祈って、ライトは大声で語りかける。
「先ほども言ったが、私は辺境伯の命でこの村に来た――」
一拍区切り、村人たちの様子を見る。
まだまだ戸惑いが大きい。
そして、なにを告げられるかと不安でいっぱいだ。
そんな村人たちに、ライトは非情な命令を伝える――。
「その命とは――イヴォーク村の住民を皆殺しにすること」
リュークが発言した唐突な内容に村人たちは憤る。
「なんでだっ!」
「どうして、俺たちが殺されねばならんのだっ!」
怒りの声が上がり、子どもたちは怯えて泣き出す。
呆然と膝をつく人々もいる。
さっきの少年だけが、変わらぬ鋭い視線を向け続けていた。
「落ち着いてくれ」
ライトが一歩踏み出すと、皆怯えて静かになる。
そして、ライトはゆっくりと両膝を地面につけ、深々と頭を下げた。
「どうか貴方たちの命を私に預けてくれないかッ!」
「騎士様、それは一体……」
「貴方たちを隣国ダレス帝国まで送り届ける。他の村や街に伝手がある者はそちらに避難してもらって構わない。しかし、行き場所がないというなら、私と一緒に亡命してくれないか」
ライトは再度頭を下げる。
「いきなり村を捨てろと言われて、困惑する気持ちは重々承知している。しかし、ここに留まれば、貴方たちは殺されてしまう。貴方たちが助かるには逃げるしか方法がないのだ」
「しかし……」
「どうか、私と一緒に逃げてくれッ!!」
ライトの悲痛な叫びが青い空に響き渡る。
「騎士様、どうか頭を上げて下さい。騎士様が私達のために心を痛めてくださっている事はよく分かりました。しかし、それでは騎士様の立場が……」
ライトは立ち上がると、首から下げているメダルのチェーンを引きちぎる。
そして、勢い良く放り投げた。
リーナも真似をする。
「今、私は騎士という立場を捨てた。そして、これから国も捨てる。無辜なる民を殺めるような国に未練なぞない」
ライトの覇気に、村人たちは言葉を失う。
「これで私は命令に違反した罪人だ。それでも構わないのであれば、私について来てくれないか?」
村人たちの間に沈黙が広がる。
「あまり時間はかけられないが、どうするか話し合って決めて欲しい」
◇◆◇◆◇◆◇
5.イヴォーク村2
ライトの言葉に、村人たちは三々五々、話し合いを始めた。
ようやく自分たちが置かれた状況を理解したようだ。
村人たちが相談する間、ライトとリーナは少し離れた場所で遠くを見つめたまま佇んでいた。
そんなライトたちのもとに、一人の少年がやって来る。
ずっとライトに鋭い視線を向けていた少年だ。
少年はすぐ側まで来ると頭を下げた。
「ありがとうございます」
ぶっきらぼうに言うと、返事も聞かずに少年は戻っていった。
「十騎長みたいな少年ですね」
リーナがクスリと笑う。
ライトとしては同意しかねるが、少年に好感を抱いたのは確かだ。
そして、真っ直ぐな少年に苦難の道を歩ませざるをえない自分の不甲斐なさに怒りがこみ上げる。
――俺に力があれば、この者たちは故郷を捨てずに済んだ。
拳を強く握りしめる。
爪が皮膚に食い込んでいるのにも気付かずに。
「血が出てますよ、十騎長」
隣りに立つリーナが血が滴るライトの手をそっと包み込み、回復魔法をかける。
「ああ、スマンな」
「いえいえ、これも部下の仕事です」
魔法が全く使えないライトとは対照的にリーナは様々な魔法を使いこなせる。
回復魔法も得意のひとつ。
すぐに出血は止まり、傷がふさがる。
ライトの手のひらは元の綺麗な状態に戻った。
「今なら、まだ引き返せるぞ?」
背の低いリーナを見下ろしながら、ライトは問いかける。
だが、リーナは首を横に振った。
「私の上官はライト十騎長、あなただけです」
「俺はもう十騎長じゃないぞ」
「ええ、私ももう兵長じゃないです」
「…………」
「それでも変わりません。私の上官はあなたしかいません、ライトさん」
リーナから初めて肩書きなしで呼ばれた。
そのことにどう反応したらいいのか、ライトは困惑する。
戸惑うライトに向かって、リーナは続ける。
「私が死ぬその時まで、私はライトさんの部下です」
リーナは真っ直ぐに見つめる。
その瞳は奥の奥まで澄んでいた。
「……ったく、お前も大概だな」
「ええ、いつもライトさんをお手本にしてますから」
ライトはハアッと大きく息を吐く。
呆れ果てたかのように。
そして、真顔になり――。
「死ぬかもしれんぞ」
「覚悟の上です。上官より先に死ぬのが部下の務めですから」
「…………」
「ライトさんの下についた日から、この命はライトさんのために捨てると決めています」
リーナも譲らない。
「俺のためじゃなくて、民のために捨てろ」
「同じことですよ」
じっと見つめ合う二人。
二人の間で様々な感情が交差する。
「お互い、損な性分だな」
「ええ、まったくです」
そう言って笑い合う。
思い詰めていた気持ちが、リーナのおかげで軽くなったことに、ライトは気が付いた。
そこへ村長が近づいて来る。
「騎士様、話し合いが終わりました。我々の命、騎士様に預けさせていただきます。何卒、よろしくお願いします」
「そうか。私を信じてくれたことに感謝する。これでも騎士の端くれ、一度預かった命はこの身に代えても守ると誓おう」
話がまとまった後は、動きは早かった。
騎士団から追っ手がかかるのは時間の問題。
今は、一刻も無駄に出来なかった。
村人たちは話し合いの結果、半数ほどがライトについて来ることになった。
残りは親族や知人を頼って、近隣に移住するそうだ。
他の村や町に移住しても、お上にバレたらタダでは済まない。
だが、名前しか知らない隣国に亡命することと比べると、どちらが安全ともいえない。
村人たちの判断に任せるしかなかった。
「よし、では最後の別れを済ませてくれ。これが今生の別れだ」
村人たちは涙を流しながら、最後の別れを済ませる。
ライトはそれをじっと見つめることしか出来なかった。
握りしめた拳を赤く染めながら――。
◇◆◇◆◇◆◇
6.追っ手
ライトと行動をともにする事になった村人たちは22人。
その中には幼子や老人も含まれており、自力で歩いて隣国までたどり着けない者たちも多かった。
そういう者たちは村にあった二台の荷馬車に分乗させる。
荷車を曳くのはライトとリーナの馬だ。
一行は縦一列になって移動する。
先頭はライトで、最後尾はリーナ。
間に荷馬車と徒歩の村人たちを挟んでいる。
「日が暮れる前に、『帰らずの森』に入りたい」
「ええ、急がないといけませんね」
国境を越えて隣国ダレス帝国へ逃げるルートは3つある。
その中でライトが選んだルートは辺境伯領北部に広がる森――通称、『帰らずの森』を抜けるルートだった。
帰らずの森は辺境伯領と隣国ダレス帝国領にまたがっており、森の向こうは隣国領。
そこまで逃げ切れば、追手の心配はない。
帰らずの森はその名の通り、魔獣が生息しており、一度入れば二度と出れないと言われている森だ。
だが、それは昔の話。
ここ十数年、国内に魔獣が現れなくなったが、それはこの森も同様だ。
森で魔獣の存在は確認されていない――少なくとも騎士団が定期的に調査している浅い部分では。
とはいえ、森深くにはまだ魔獣が生息していると考えられており、不用意に森に踏み込む者はいない。
だが、ライトは帰らずの森を抜けるルートを選んだ。
危険とは言え、他のルートはそれ以上に困難だからだ。
帰らずの森には、騎士団が定期調査するための切り開かれた道がある。
森の浅い部分までしかない道で、人が横に二人並べるくらいの幅しかないが、なにもない場所から入るよりは大幅に時間を短縮できる。
ライトが目指すはその調査道であった。
調査道の入り口は帰らずの森のすぐ南側を通る街道――通称、『北街道』沿いにある。
村を出た一行は北街道に出る道を北上し始めた。
――現在午後3時頃。
北街道に出た一行は調査道を目指して、東に進む。
日暮れ前に森に入るためには、のんびりしている時間はなかった。
しばらく進んで――。
「ライトさん」
「ああ、分かってる」
ライトと同じく、それに気がついたリーナが駆け寄って来た。
街道東側――ライトたちの進行方向から、音と振動が伝わってくる。
まだ微弱で村人たちは気づいていないが、騎士である二人には馴染み深いもの。
数騎の騎馬がこちらに向かって駆けて来るところだった。
ライトはリーナに指示して荷車を止めさせ、ランスを構え警戒態勢に移る。
リーナは手早く村人に伝達し、ライトの隣で抜刀する。
その背後では、村人たちが縮こまって怯えていた。
――数分後。
勢い良く駆けて来た十騎の騎兵が、ライトたちを前にして停止する。
北玄騎士団の騎士で、皆、ライトが知っている顔だった。
――チッ。先回りされたか。
「誰かと思えば、ライト十騎長じゃないか。任務はどうしたんだ?」
一番奥にいる男が馬上から嘲笑する。
サルタン百騎長――ライトに村人虐殺を命じた張本人だった。
白々しいと、ライトは胸の中で吐き捨てる。
「どうやら、任務放棄したようだ。懲罰が必要だな」
ライトはサルタンを睨みつける。
「それに――下賤なメス犬も一緒か」
サルタンは厭らしい視線をリーナに向けるが、リーナは真っ直ぐに睨み返す。
ライトは内心「このゲス野郎」と毒づく。
リーナの瞳は怒りに燃えていた。
彼女もサルタンの被害者の一人だ。
リーナはその美しさゆえ、入団直後のサルタンに目をつけられた。
サルタンは仲間の貴族と数人がかりでリーナに迫り、力ずくで物にしようと画策したのだ。
だが、リーナは無力な町娘ではない。
一人前の騎士だ。
甘ったれの坊っちゃん騎士とは違う、本物の騎士だ。
剣を抜かずとも、体術だけでサルタンたちを返り討ちにしてしまった。
やられたサルタンたちは怒り心頭で剣を抜き、一触即発というところで、ギリギリ駆けつけたライトが間に入って事なきを得た。
それに懲りたのか、以降サルタンらが直接リーナに絡んでくることはなかった。
その代わり、権力を用いてリーナに復讐したのだ。
理由もなく告げられた辞令。
それはリーナを兵長へ降格する旨だった。
ぎりぎり貴族と呼べる弱小な家柄ではあるが、それでも貴族は貴族。
十騎長より下の階級になることは、余程の失態を犯さない限りはありえない。
だが、リーナは理由もなく降格させられた。
せめてもの救いは、配属先を選べたことだ。
温情なのか、まとめて処分するつもりなのか。
現状から判断するに、後者だったようだ。
理由はともかく、その日からリーナはライトの部下になった――。
そのリーナはといえば、今にでも飛びかからん勢いだ。
「リーナ」
ライトが小声で呼びかける。
二人の視線が一瞬交わり、意志が通じ合う。
――ここは俺に任せろ。
――承知しました。
ライトは「こんなゲス野郎の血でその手を汚す必要はない」と伝えたのだ。
その意を汲みとったリーナはおとなしく従うことにした。
「ちょっと数が少ないようだが、ゴミクズどもも連れているようだ。まとめて処分しないとな」
サルタンが被虐の色で顔を染める。
村人を人間と思っていない。
ただの獲物だとしか思っていない。
他の騎士たちの間で、バカにするような笑いが起こった。
皆、サルタン取り巻きの若い貴族騎士たちだ。
戦う者の目ではない。狩る者の目をしていた。
――俺への嫌がらせかと思っていたが、俺を殺すつもりだったのかッ!
「オイッ! サルタンッ! 俺はもう騎士は辞めた。オマエは上官でもなんでもない。民を害する悪者だ。貴様はッ、俺の敵だッ!」
「はははっ。たった二人でなにが出来る。かかれッ!」
サルタンの言葉に、騎士たちがランスを構えて突進してくる。
だが、ライトはランスを後ろに引くと、全力で投擲――。
今までサルタンらには見せたことがない、ライトの本気だった。
迫り来る騎士たちの合間を縫って、ランスは鋭く飛んで行き――サルタンの頭部を吹き飛ばした。
騎士たちはその衝撃的な光景に固まるが、走り出した馬は止まれない。
隙だらけの騎士たちを、ライトとリーナはいとも容易く切り捨てた。
サルタン含む十騎の騎士たちは、なにが起こったか分からないうちに短い生涯に幕を下ろすことになった――。
◇◆◇◆◇◆◇
7.帰らずの森。
サルタンたちを殺した以上、のんびり出来ない。
一行はさらにスピードを上げ、北街道を東へ進む。
――1時間後。
一行は帰らずの森に入るための調査道にたどり着いた。
ここから先は荷車は入れない。
「リーナ、燃やしてくれ」
「はい」
リーナの火炎魔法で荷車が燃え上がる。
木々に燃え移るかもしれないが、ライトの知ったことではない。
むしろ、追っ手を遮る壁となってくれるので、火事になってくれた方がありがたいくらいだ。
まあ、帰らずの森の木々は燃えにくいので、あまり期待は出来ないが。
「皆の者、これが祖国の日没の見納めだ。しっかりと焼き付けておくがいい」
西の稜線がリーナの魔法と同じく、赤く染まっている。
村人たちはじっとそれを見つめている。
ライトもリーナも同じ気持ちだった。
国を捨てるのだ。生まれ育ったこの国を。
この眺めもこれで見納め。
次に見る日没は、どんな姿をしているだろうか。
すすり泣く村人の声と、パチパチと爆ぜる音だけが寂しく響いていた。
「よし、名残りは惜しいと思うが、そろそろ行くぞ」
ライトとしても後ろ髪をひかれる思いだったが、モタモタしていて、更なる追っ手が来ては元も子もない。
村人たちを急かして、調査道へ入って行った――。
薄暗く、不気味な森の中。
ライトとリーナで幼子や老人を交代でおぶりながら、ゆっくりとしたペースで進んで行った。
木々が風で揺れるだけで、村人たちは怯えて足が止まる。
ライトは気がはやる思いだったが、相手は騎士ではなく村人だ。
彼らに合わせて進むしかない。
ただでさえ、故郷を捨てたばかり。
その上、領民にとって恐怖の象徴である帰らずの森を進むわけだ。
足が止まってしまうのも仕方がない。
ライトは村人たちを励ましながら、遅々とした歩みで進み続けた。
森の中は恐ろしいほど、静まり返っていた。
生き物の気配がまったくしないのだ。
普通の森であれば、昆虫や小動物の音が感じられる。
しかし、帰らずの森にはそのような気配が一切ないのだ。
魔獣も現れないので、それは良いことでもあるのだが、なんとも不気味であった。
そして、歩き続けること2時間――。
「よし、今日はここで野営だ」
一行はなんとか、調査道の終点まで無事にたどり着いた。
怪我人も脱落者の今のところゼロだ。
問題といえば、幼子がぐずったくらい。
ライトとしては、文句なし、最高の結果だ。
「残りもこの調子で行きたいところだ」とライトは一息つく。
調査道の終点は開けた場所だった。
調査部隊が野営に用いるためだ。
地面は平らに均され、すぐそばに水場もある。
村から持ち出した食料とライトたちが持ってきた携帯食で、ささやかな食事を済ませると、村人たちはすぐに横になった。
ろくな寝具もなく、固い地べたに横たわって眠りにつくしかない。
せめてもの救いは、今が寒い時期ではないことだ。
煌々とした焚き火の柔らかい温かさで十分であった。
慣れぬ事態の連続で疲労しきった村人たちはすぐに寝息を立て始める。
だが、ライトとリーナはそうもいかない。
魔獣の襲撃にそなえ、交代で不寝番を立てなければならない。
前半はリーナ、後半はライトが務めることになった。
食事を終えたライトは、少しでも体力を回復するために、早々と眠りについた。
野営は騎士生活で慣れている。
いつでも、どんな場所でも、すぐに眠れる。
平民騎士にとって、必須の能力であった。
◇◆◇◆◇◆◇
「――グルルルルゥ」
その声にライトは飛び起きた。
リーナはすでに立ち上がり抜刀した臨戦態勢だった。
そこに再度――。
「――グルルルルゥ」
ライトの背中に冷たい汗が流れる。
聞き覚えのある咆哮だった。
「らっ、ライトさん?」
「魔獣だ」
「やはりっ!」
「この声は、タイラントグリズリー。忘れようがない――」
国内に魔獣が現れなくなって十数年。
若い騎士のほとんどが魔獣を見たことすらない。
だが、ライトは一度だけ魔獣を見たことがあった。
ライトが5歳の時である。
村にタイラントグリズリーが現れた。
前触れもなく、平和な日常は切り裂かれた。
代わりに始まったのは惨劇だった。
一方的な虐殺だった。
何人もの大人が抵抗も出来ずに殺され、ついにライトが標的となった。
なにも出来ずに立ち尽くし、死を受け入れて目を閉じる。
だが、終わりは――訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、目の前には大きく頼もしい背中。
その先には、タイラントグリズリーが首を落とされ、死んでいた。
「怖かったか、ボウズ。だが、もう大丈夫だ」
笑顔とともに、頭をワシャワシャと撫でられる。
ライトはようやく、自分が生きていることを実感できた。
男は騎士だった。
頭に乗せられた手は、強く、優しく、安心できる。
男のような手になりたい。
ライトが騎士を目指すことになった日だった――。
「俺が行く。リーナは村人たちを守ってくれ」
「わかりました。お気をつけて」
「ああ、行ってくる」
――今度は俺が役目を果たす番だ。
ライトは自分の手を見つめる。
――俺の手は、あの日の手に近づけただろうか?
◇◆◇◆◇◆◇
8.タイラントグリズリー
右手には剣、左手には松明。
暗闇の中を声の方向へ進んで行く。
「――グルルルルゥ」
威嚇する声が近づいてくる。
ライトは油断せずに慎重に近づいていく。
――明かりがあるから、こっちの場所はバレている。不意打ちだけは食らわないようにしないとな。
「――グルルルルゥ」
木々の間を抜け、少し開けた場所に出る。
そこには――1体のタイラントグリズリー。
――思っていたより小さいな。
タイラントグリズリーの身体が小さいわけではない。
あの日に見たタイラントグリズリーは幼子だったライトの何倍もの体格だった。
そして、恐怖がその身体をさらに大きく見せていた。
しかし、ライトは大きくなり、強さも手に入れた。
あの日からライトは剣を振り続けた。
魔獣が出なくなり、騎士たちがロクに訓練もしなくなった中で、ひとり懸命に剣を振り続けた。
晴れの日も、雨の日も、雪の日も、ただただ剣を振り続けた。
愚直に、愚直なまでに、剣を振り続けた。
今の彼にとっては、タイラントグリズリーは十分に渡り合える相手であった。
――俺が、守るッ!
ライトは自覚する。
自分が倒さなければ、村人たちは全滅することに。
あの日の騎士のように、自分が守るんだと。
力が漲る。
不思議な感覚だった。
今まで感じたことがないほどの湧きあふれる自信。
身体が軽くなる感触。
ライトは駆け出す――。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
裂帛の気合とともに。
ライトが魔獣と戦うのは初めてだ。
北玄騎士団の剣術は、対人戦闘に特化している。
人を斬るのが主な仕事だからだ。
だが、ライトは常に魔獣との戦闘を意識して鍛錬に励んできた。
無駄になるかもしれない。
でも、いつか、あの日のように魔獣から領民を守る日が来るかもしれない。
そう思って、魔獣相手のイメージトレーニングを欠かさなかったのだ。
対人戦の大原則は相手を倒すことではない。相手の戦意を喪失させることだ。
だが、魔獣相手の場合は話が違う。
魔獣は手負いになると余計凶暴になるし、不利になっても逃走しない。
だから――。
――倒しきるしかないッ!
ライトは羽根のように軽くなった身体で、距離を詰める。
タイラントグリズリーは二足立ちになり、両腕を広げ迎え討たんとする。
振り下ろされた腕の攻撃をライトはかい潜る。
触れれば命を刈り取られる一撃だが、不思議と恐怖は感じない。
躱した後は――無防備にさらけ出された首筋。
ライトはタイラントグリズリーのことをほとんど知らない。
知っているのは、その大きさと凶暴性。
そして、あの日、騎士によって一刀両断された首の断面――。
幼き日に見た光景を再現するように、首筋に剣を当て――。
自分でも信じられないほど、なめらかだった。
タイラントグリズリーの首筋に触れたライトの剣は布を切り裂くように、抵抗もなく通りぬけ――。
――ドシリと重い音を立て、タイラントグリズリーの首は地に落ちた。
ライトは大きく息を吸い、呼吸と興奮を落ち着かせる。
剣を握る手には、なにかを斬った感触は残っていない。
本当に自分がやったのか、目の前の光景がなければ信じられないくらいだ。
あれだけ恐怖の対象だったタイラントグリズリー。
終わってみれば、あっけないほどだった。
長年の修練を積み、強くなったと思っていた。
だが、それで説明がつくとは思えなかった。
タイラントグリズリーはこんなに弱かったのか?
幼いときの恐怖心がタイラントグリズリーを大きく見せていただけか?
ライトはタイラントグリズリーを倒した満足感よりも、腑に落ちない気持ちの方が大きかった。
ライトは知らない。
今回の結果は、彼のスキルのおかげだと。
村人を連れて亡命すると決心したときに生じたばかりの新しいスキルのおかげだと。
そのスキルの名は【民の守護者】。
弱き民のために戦うときに、身体能力が上昇し、敵が強いほど効果が強いスキルだ。
タイラントグリズリーという強敵から村人を守るために戦ったライトは、このスキルによって今までとは比較にならないほど強化されていたのだ。
なお、ライトがこのスキルに気がつくのは、もう少し先の未来である。
◇◆◇◆◇◆◇
ライトが野営地に戻ると、村人の何人かは目を覚ましており、恐怖に震えていた。
そんな中、リーナが立ち上がり、声をかけてくる。
「ライトさんッ!」
「戻ったぞ」
「良かった、無事で……」
ライトはみんなを安心させるために、大きな声を出す。
「魔獣は倒してきた。他の魔獣の気配もない。もう安心だ」
安堵の波が広がる。
それを見届けてから、ライトはリーナに告げる。
「返り血を落としてくる。警戒は続けてくれ」
「わかりました」
ライトが近くの泉で汚れを落として戻ると、村人はすでに寝静まっていた。
やはり、疲れているのだろう。
濡れた身体を暖めるため、ライトは焚き火のそばに腰を下ろす。
すると、リーナが隣に座ってきた。
「近くないか?」
「そうしたい気分なんです」
「そうか……」
「はい、どうぞ」
リーナはお湯に乾燥レモンのハチミツ漬けを浮かべたマグを差し出す。
「すまん。相変わらず気が利くな」
「副官ですから」
と微笑むリーナ。
冷えた身体に染み渡る温かさを、ライトは飲み干す。
飲み終わるまで会話はなく、薪の爆ぜる音だけが聞こえていた。
「疲れていませんか? 不寝番私が引き受けましょうか?」
「いや、問題ない。むしろ、気が高ぶってるくらいだ」
「ふふふっ。ライトさんらしいです」
「後は俺が引き受ける。明日に備えて休んでおけ」
「ありがとうございます。それでは、お任せします」
リーナは魔獣のことを問いただしたかったが、ちゃんとわきまえている彼女はそうしなかった。
ライトが言う通り、今は身体を休めるとき。
しっかり、休んで明日に備えるべきだ。
二、三分もしないうちに、リーナの寝息が聞こえてくる。
その寝顔は普通の少女そのもの。
騎士団でも強者の部類に入る、魔法剣士だとはとても思えない。
つき合わせてしまった申し訳無さと、ついて来てくれた嬉しさ。
そのふたつがごちゃまぜになった気持ちで、ライトはしばらくリーナの寝顔を眺めていた――。
◇◆◇◆◇◆◇
9.国越え
――帰らずの森に入ってから二日後の昼過ぎ。
ライトたちは無事に森を抜けることが出来た。
タイラントグリズリーに襲われた後は、魔獣の襲撃は一度もなかった。
それどころか、魔獣の気配すら感じられなかった。
おかげで、ひとりの脱落者も出すことなく、森を抜けることが出来た。
ただ、村人たちは疲れきっており、出来ることなら一刻も早く休ませてあげたいところだ。
森の暗さが途切れると、視界いっぱいに飛び込んできたのは――金色の絨毯だった。
風にたなびく麦穂がゆらりと揺れ動く。
見渡す限りに広がった、果てが見えないほどの穀倉地帯。
故郷クサン王国では決して見ることの出来ない風景。
ライトやリーナだけではなく、村人たちもその光景に目を奪われた。
「帝国が戦争を仕掛けてこないわけですね」
「ああ……」
リーナが自嘲気味につぶやく。
これだけ豊かなのであれば、わざわざ貧しい王国に攻め入るはずがないと。
ライトも同じ思いだった。
原因は不明だが、王国では二十年ほど前から農作物の収穫高が緩やかに減少して来た。
減少率は年2〜3パーセントと極めて緩やかだった。
緩やか過ぎたせいで、異変は中々気づかれなかった。
今年はたまたま去年より少ない。
来年には元に戻るだろう。
誰もがそう思っていた。
そうして油断しているうちに二十年が経過し、気づいた時には収穫高は二十年前の半分にまで落ち込んでいた。
この現象を魔獣が現れなくなったことと関連付ける者もいたが、それを証明する手立てはなく、今のところ原因不明ということにされていた。
原因がどこにあるにしろ、その被害を一番被ったのは最も弱き民である農民だった。
収穫高が減れば、当然ながら、税収が減る。
そうなれば、貴族は税率を上げ、農民はますます貧しくなる。
その悪循環に王国は蝕まれていった。
農民は貧困に喘ぎ、税を取り立てるのは平民騎士。
商業は滞り、商人は首を吊るか、国外に逃げ出すか。
楽するは貴族ばかりだ。
ライトは辺境伯領の事情しか知らないが、領内の農村も限界すれすれであることは理解していた。
まともに栄養も取れず、ギリギリ税を払えるかどうか。
枯れかけた畑を懸命に耕し、荒れ地を開墾する。
生活を切り詰め、子どもを売って、なんとか生き延びる。
どこの農村も同じだった。
どこの農村が破綻してもおかしくなかった。
そして、一番最初に限界を迎えたのが――イヴォーク村だった。
それだけの話だ。
クサン国民である彼らにとって、目の前の光景はとても信じられるものではなかった。
その姿はまさに理想郷。
人々が飢えずに生きられる世界。
堪えきれず涙を流す者たちもいる。
ライトもリーナも、拳を握って必死に感情を押し殺した。
感傷に浸っている場合ではない、ライトの役目はまだ終わっていないのだ。
――最後まで気を抜くなッ。お前の肩に23人の命が乗っているんだッ。
「よしっ、進むぞッ――」
わざと強い口調で言い放ち、ライトは先頭を歩き始める。
それを見て、村人たちも慌てて歩き出した。
麦畑の間の細い道を通って進んで行く――。
疲労しきった村人たちのペースに合わせてなので、亀のような歩みだった。
それでも一歩足を出せば、その分だけ前に進む。
ゆっくりと、ゆっくりと進む。
やがて、麦畑が途切れ――広い街道に出た。
「石畳ッ!?」
「信じられません!!!」
馬車が二台、余裕を持ってすれ違える道幅。
整備された石畳。
そんな街道がどこまでも果てしなく続いている――。
クサン王国では、とても考えられない。
王国では主要な街道でも土を平らに均しただけ。
石畳があるのは大きな街の中だけだ。
「聞いていた話とだいぶ違うな……」
「ええ、本当に…………」
麦畑といい、この街道といい、ダレス帝国の豊かさをまざまざと見せつけられ、ライトたちは言葉を失う。
帝国は王国より弱く貧しい。
帰らずの森さえなければ、今日にでも攻め込んで占領できる。
ライトもリーナもそう教わってきた。
だが、目の前の光景は見事にそれを裏切っている。
自分が信じてきた祖国はなんだったのか。
二人とも、やりきれない気持ちでいっぱいだった。
「今さら、考えてもしょうがない」
「ええ……そうですね」
暗く沈みかけた空気を明るくしようと、ライトは明るく振る舞う。
「とりあえず、迷子の心配はなくなったな」
「ええ、そうですね」
リーナも軽い笑みを返す。
「後は受け入れてもらえるかどうかですが……」
「まあ、そればっかりは、どうしようもないからな。天に祈るしかない」
街道を進んでいけば、大きな街に着ける。
それに、街道であれば、他の道を行くより安全だ。
ひとつの山場を越えた一行は、少し心を緩めて街道を進んで行った――。
◇◆◇◆◇◆◇
10.帝国騎士との遭遇
「オイッ! そこの一行、止まれッ!」
街道を進んでいると、前から騎兵が3騎、駆けてきた。
よく躾けられた毛並みの良い軍馬。
揃いの甲冑。
胸に刻まれたエンブレム。
帝国の騎士たちだ。
少し離れた場所で警戒している騎兵たちを見て、ライトは村人たちに停止するよう指示する。
そして、ライトもリーナも武器を投げ捨て、両手を高く上げる。
武器を手放せば村人たちを守れなくなるが、ここで相手を斬ったたところで、帝国を敵に回すだけだ。
「抵抗する気はない。話を聞いてもらいたい」
隊長格の男はしばしライトらを観察した後、口を開いた。
「よかろう。話してみろ」
「我々はクサン王国ハーヴェイ伯領から亡命して来た者だ。私と隣のリーナは元騎士、残りは領地の農民だ」
「ほう。亡命理由は?」
「私は辺境伯から任務を命ぜられた。この者たちの村を皆殺しにしろ、という命令だ」
「なッ!?」
隊長格の顔が歪む。
後ろの二人も同じだった。
「俺は騎士だ。民を守るのが仕事。そのような命令には従えなかった」
「それで、村人を連れて、魔獣の潜む森を抜けて来たのか?」
「ああ、そうだ。俺の命はどうなっても構わん。上の都合で里を捨てねばならなかった哀れな領民は助けてもらえないだろうか」
ライトは膝を折り、頭を地にこすりつけて懇願する。
リーナも同じようにした。
二人の姿を見て、村人たちは涙を流す。
そして、帝国騎士たちは息を飲んでいる。
やがて、隊長格はこみ上げてくる思いを懸命に堪え、ライトに語りかける。
「騎士ライト、騎士リーナ。二人とも頭を上げてくれ。そなたらの振る舞い、まこと騎士の範たるもの。ダレス帝国南方騎士団13小隊長ピート。この名にかけて、そなたらの思いに、全力で応えることを約束しよう」
ピートの声には敬意と親愛の情がたっぷりと込められていた。
「騎士ピート、ご厚情、心より感謝いたす」
「ああ、楽にしてくれ」
その言葉に、ライトとリーナは立ち上がる。
「だが、我々の仕事は民を守り、国を守ること。そのために決められた手続きにのっとらねばならぬ。尋問を行わせてもらう」
「協力させていただこう」
「そなたらを疑うわけではないが、尋問の前に村人の一人をこちらに渡してもらおう」
「…………」
「そなたらがなにもしない限りは、村人に手を出すことはない。我が名にかけて約束しよう」
確かに当然の行為だ。
自分でも同じ立場だったら、同じ行動を取るだろう――ライトは共感する。
ライトはピートを信じることにした。
信用に足る男だと認めたからだ。
村人に振り返って、声をかける。
「誰か?」
村人たちが視線をそらす中、一人の少年が手を挙げる。
村でライトを睨みつけていた少年だ。
「オレが行くッ!」
少年は恐れを感じさせない足取りで、帝国騎士たちの下へ歩みを進める。
「勇気ある少年だ。この少年の命が失われることは、双方にとって喪失であろう?」
「ああ、私も同じ思いだ」
帝国騎士が少年の首元に剣を突きつけるが、少年は顔色ひとつ変えない。
「よしっ、では尋問を開始する」
ピートが告げると、もう一人の帝国騎士が白いオーブを持って、ライトのもとにやって来る。
「手を乗せて下さい。これは真実のオーブ。真なる答えには青く光り、偽なる答えには赤く光ります。要するに、嘘はバレるってことです」
「ああ、分かった」
オーブに手を乗せながら、ライトは驚いていた。
帝国にはこんな便利な魔道具もあるのかと。
ライトがオーブに手を乗せると、尋問が始まった――。
尋問は、先ほどライトが語った言葉が嘘でないか、また、帝国を害する者でないかを確認するものであった。
もちろん、真実のオーブは青く光り続けた。
「――よろしい。騎士ライト、貴兄の言葉に嘘偽りがないことが明らかになった。念の為、残りの者も調べさせてもらうが、それで問題がなければ尋問は終わりだ」
リーナと村人たちは順番に真実のオーブに手を乗せ、質問に答えていく。
嘘をつく者は誰もおらず、オーブは青い光のままだ。
やがて、全員の取り調べが終わる――。
「尋問の結果、貴兄らの潔白が証明された。貴兄らの処遇は我が身に任せあれ」
顔には出さないが、ライトは重い肩の荷が下りた気分だった。
なにせ、22人、リーナも含めれば23人の命がかかっていた肩だ。
まだ、完全に終わったとは言い切れないが、ピートの人となりから判断するに、村人たちが助かったことはまず間違いないだろう。
ライトはリーナと顔を見合わせる。
リーナの弾けるような笑みにつられ、ライトも口元がほころぶ。
リーナがついて来てくれてよかった――ライトは心の底から感謝した。
「剣を拾ってくれ。誇り高きそなたらの剣は地に寝かせておいて良いものではない」
ピートにうながされ、二人は剣を拾い、鞘にしまう。
投げられてばかりで済まないな――ライトは心の中で剣に詫びた。
馬を降りたピートがライトの下へ足を運ぶ。
「それで、これからの事だが――」
ピートの言葉で二人の話し合いが始まった――。
◇◆◇◆◇◆◇
11.少年ジャン
相談した結果、ピート小隊長だけがこの場にとどまり、部下の二人はこの場を離れることになった。
一人はこれから向かう南都サザンドへ伝令に。
もう一人は近くの村に馬と荷馬車を借りるためだ。
村人たちの衰弱が激しく、徒歩での移動は困難とピートは判断した。
ここから先は荷馬車での移動となり、それを聞いた村人たちは張り詰めていた糸が切れたように座り込んでしまった。
リーナは率先して、村人たちに水を配ったりと介抱している。
そんな中、先ほど志願した少年がライトたちの下へやって来た。
年の頃は15、6。
栄養不足でやせ細ってはいるが、その目には強い力がこもっていた。
少年は会話しているライトとピートの間に立つ。
会話が止まり、ピートが少年に声をかける。
「どうした、勇敢な少年よ」
「ジャンです。ありがとうございました」
少年ジャンはライトに向かって頭を下げる。
「当然のことをしたまでだ。気にする必要はない」
「それでも……ありがとうございます」
ジャンは頭を上げると、村人たちの下へ戻ろうとする。
その背中にピートが声をかける。
「ジャンよ。君はこれからどうするつもりだ?」
ピートは長年、街道を警備しており、様々な人間を見てきた。
だからこそ、ジャンの瞳の奥に燃える炎を見逃さなかったのだ。
「……………………」
ジャンは沈黙を返す。
その目は射るようにしてピートを離さない。
ライトは口を挟もうかと思ったが、先に口を開いたのはピートだった。
「いい目だ、ジャン。君は強くなれる」
「……………………オレは……許しません」
「ほう?」
「今回の件に関わった騎士団も、それを命じた伯爵も、絶対に許しません」
「だが、今の君は弱い。騎士一人を倒す前に、君の方が先に死ぬだろう」
「…………ッ」
「間違いなく、犬死にだ」
「でっ、でもッ――」
ジャンはうつむいて拳を握りしめ、悔しさに身体を震わせる。
「強くなれ、ジャンよ」
「……………………」
「強さがなければ、なにも出来ん」
「……………………」
「うちの騎士団に入れ。強くなれるかは、君次第だ」
うつむいていたジャンは顔を上げる。
その瞳に迷いはなかった。
「はいっ。よろしくお願いします」
ジャンは頭を下げると、今度こそ村人たちの下へ戻って行った。
「強くなるな」
「ああ、俺の部下に欲しいくらいだ」
「連れていくか?」
「いや、俺はただの亡命者だ。帝国で預かってもらえるなら、その方がジャンのためだ」
「そうか」
「よろしく頼む」
「ああ、任せろ。王国を打ち滅ぼせる男に育ててやる」
「そのときは俺にも一枚噛ませてくれ」
会ったばかり二人の男たちは冗談で笑い合う。
立場は違えど、騎士という同じ道を選んだ者同士。
言わずとも、お互いにそれを感じ取っていた。
――1時間後。
荷馬車を取りに行った帝国騎士の男が、数人の男を引き連れて戻って来た。
四台の荷馬車とそれを引く馬、ラーズとリーナ用の馬まで用意されていた。
荷馬車に乗り込んだ村人たちには、温かい食料と水が配られる。
皆、涙を流し、噛み締めながら、食べていた。
準備の整った一行は街道を北上する。
南都サザンドへ向けて――。
◇◆◇◆◇◆◇
12.そして――
南都サザンドへ向けて石畳の街道を進む一行。
その先頭でライトとピートは馬を並べていた。
まるで長年の戦友のような親しさが感じられる。
「それにしても、よく簡単に受け入れてくれたな」
「ビックリしたか?」
「ああ、もっと取り調べや手続きがあるかと思っていた」
「実はな、結構多いんだ」
「多い?」
「ライトが思っているより王国からの亡命者は多いんだ」
「そうなのか?」
ライトはピートの言葉に衝撃を受けた。
王国から亡命者が出てるなんて聞いたことがなかったからだ。
だが、ピートの言葉が正しいとすれば、王国はライトが思っていた以上に沈みかけていることになる。
「ああ、だから、真実のオーブで嘘がなければ、亡命を許可する決まりなんだ」
「そうか……。彼らはどういう扱いになるんだ?」
「王国から亡命して来た男が立ち上げた商会がある。新しい環境に慣れるまではそこで預かってもらうことになっている。もちろん、他の道を望む者には配慮する。だが、右も左も分からない場所で放り出されるよりは、同じ祖国を持つ者の庇護下に置かれる方が安心だろう?」
ピートの話が本当なら、想像以上の高待遇だ。
ライトにとって一番の懸念事項は、亡命後の村人たちの処遇だった。
奴隷として扱われても文句は言えない。
生きながらえられるだけでも十分な立場なのだ。
村人たちがどういう処遇であろうと、ライトは口を挟むことすら出来ないのだ。
「それは……。でも、その男と商会は信用できるのか? 搾取されたり、不当な扱いを受けたりはしないか?」
「ああ、それは俺が保証する。そもそも、その男は亡命してきた同胞を守るために商会を立ち上げたくらいだ。俺も知っているが、情に厚く正道を行く尊敬すべき男だ」
「…………」
ライトはピートの目を覗き込み、真偽を見定める。
真実のオーブには及ばないが、ライトの人を見る目も確かなものだ。
「だが、ライトの心配も当然だ。落ち着いたら、自分の目で確認するといい」
「ああ、そうさせてもらおう。しかし――」
「ん? どうした?」
「なんで、帝国はそこまでしてくれるんだ?」
平民は貴族を潤すための存在。
家畜と大して変わらない存在。
それがクサン王国での常識だった。
ライトとして到底受け入れられる考えではなかったが、貴族どもは本気でそう思っている奴らばかりだった。
「そりゃあ、人間同士で争っている余裕がないからだ」
「どういうことだ?」
「王国では魔獣が出なくなって久しいらしいな」
「ああ、もう十年以上だ」
「だが、ウチは今でも魔獣が活発だ。魔獣の被害を抑えるのに精一杯なのさ」
「なッ……」
ライトは帝国でも魔獣はいなくなったものだと思い込んでいた。
まさか、この豊かな国が魔獣との戦いを続けていただなんて思いもしなかった。
「だから、使える人間は誰でも使う。たとえ、亡命者でもな」
「…………」
「平民だからとか、亡命者だからとか、差別してる場合じゃないんだよ。優秀な人間には力を発揮できる環境を与える。そうやって、国民が一丸にならないと、魔獣とは渡り合えない」
たった一体で村や町が全滅する。
魔獣とはそれだけの脅威だ。
そんな魔獣がはびこっている。
それなのに、帝国は荒廃していない。
豊かな麦畑に、誇り高き騎士たち。
亡命者でも快く受け入れてくれる。
――帝国はどれだけ懐が深いんだ。
村人たちの安全が保証されたようで、ライトは達成感を覚える。
――無事に役目を果たすことが出来た。
「ライトはこれからどうしたいんだ?」
「いや……考えていなかった。村人を無事に送り届けることしか頭になかった」
「なら、ウチの騎士団に入れよ。見ただけだが、お前もリーナも戦える人間だって分かる。騎士団としては大歓迎だ」
「騎士団か……」
――俺は剣を振るしか能がないからな。
「なあ、ライト、魔獣と戦ったことはあるか?」
「ああ。一度だけ。ここに来る森で」
「はあ!? あの森でか? つーことは――」
「ああ、タイラントグリズリーだ」
「すげーな、おい! 20人以上の領民を守りながらタイラントグリズリーを退けたのかよっ!」
ピートは信じられないほど興奮していた。
「いや。退けたんじゃない」
「ん? どういうことだ?」
「殺した。首を落として殺した」
「はっ!?」
ピートは大きく目を見開いて固まる。
帰らずの森に住むタイラントグリズリーは帝国にとっても長年の脅威であった。
タイラントグリズリーがいるせいで、森には他の動物や魔獣が住み着かないのだ。
帝国としても、下手に手を出して森から出てこられても困るということで、警戒するに留めていた存在だ。
それをこの男は単独討伐したのだ。
「マジか……。いや、お前は嘘をつくような奴じゃないな」
ピートはライトの言葉を信じる。
信じさせるだけのなにかをライトから感じ取ったのだ。
「なあ、ライト、俺からのお願いだ。お前の剣で魔獣から民を守ってくれないか、頼む」
ピートが真剣な表情で頭を下げる。
――魔獣から民を守るために剣を振るう。
ピートの言葉がライトの心にピタリと嵌まる。
それこそ、まさにライトが思い描いて来た騎士のあるべき姿だ。
祖国では叶わなかった想いが、異国に来て叶うとは皮肉なものである。
ライトの心に火が灯り、大きく燃え上がった。
「ああ、俺は戦う。魔獣から民を守るため――」
その後、帝国騎士となったライトは、魔獣相手に八面六臂の活躍を果たし、多くの民の命を救うことになる。
そして、その活躍の傍らには、いつも赤髪の女騎士がつき従っていた――。
はじめましての方は、はじめまして。
ご存じの方は、毎度ありがとうございます。
まさキチと申します。
最後までお読みいただきありがとうございます。
お楽しみいただけたでしょうか。
本作はパイロット版です。評判の良ければ連載化しますので、お楽しみいただけたら、ブクマ・評価よろしくお願いします。
また、連載化の際に参考にいたしますので、率直な思いを感想欄からお伝えいただけるとありがたいです。
改善点・問題点、辛口な評価も大歓迎ですので、お気軽にお伝え下さい(人格攻撃はやめてね!)。
今後の連載化などの情報は、活動報告に載せますので、気になる方はお気に入りユーザー登録をしていただけると、間違いがないかと思います。
◇◆◇◆◇◆◇
【宣伝】
【連載中作品】
「貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収 〜用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート妖精と一緒に取り立てた魔力を運用して最強を目指す。限界まで搾り取ってやるから地獄を見やがれ〜」
https://ncode.syosetu.com/n1962hb/
追放・リボ払い・サポート妖精・魔力運用・ざまぁ。
可愛いギフト妖精と一緒に、追放したパーティーからリボ払いで取り立てた魔力を運用して最強を目指すお話。
ヒロインは不遇なポニテ女剣士。
日間ハイファン最高6位!
週間ハイファン最高7位!
「勇者パーティーを追放された精霊術士 〜不遇職が精霊王から力を授かり覚醒。俺以外には見えない精霊たちを使役して、五大ダンジョン制覇をいちからやり直し。幼馴染に裏切られた俺は、真の仲間たちと出会う〜」
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追放・精霊術・ダンジョン・ざまぁ。
ヒロインは殴りヒーラー。
第1部完結。
総合2万ポイント超え。
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是非読んでみて下さい!