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さよならメリークリスマス


―――好きな人ができたと彼女は言った



―――その人と仲良くなれるよう協力して欲しいと僕に頼んだ



その願いが僕にとってどれほど残酷なことなのか、気付かないで






僕にはずっと一緒に育ってきた幼馴染がいる。天ヶ瀬聖(あまがせひじり)というその少女は僕の隣の家に住み、僕と同い年であり、そして誕生日まで一緒という、筋金いりの幼馴染だ。


聖は幼い頃から近所でも有名な美少女で、成績はちょっと残念だけど、彼女は笑うととてもかわいいことを知っているし、誰とでもすぐに仲良くなれる性格から多くの人から好かれていた。


そんな聖に対し、僕は成績も運動も平均的。コミュ力に関しても人見知りなためよくはない。友人も基本的に聖を通じて知り合った人が多かった。彼女と幼馴染という関係でなければ、きっと僕はずっと一人のままだっただろう。



だから僕は聖に感謝の気持ちと同時に、憧れの感情を抱いていた。



聖のようになりたい。彼女と一緒にいても恥ずかしくない人間になりたいと、いつからか思うようになっていた。



常にみんなの中心にいる彼女の隣にいても恥ずかしくない人間になる。

それが僕の目標だったのだ。



だからずっと努力してきた。ギリギリ平均点をキープしていた成績を上げようと勉強にも力を入れ、今では成績上位にもくい込むようになった。

運動も頑張ろうとサッカーを始め、レギュラーを取り、高校へのスポーツ推薦も獲得できるまでになっていた。

もちろん外見だって気を使っている。髪はちゃんと整えてるし、身だしなみも悪くないはずだ。


高校にも揃って同じところを受験して合格したし、いずれ告白できたら…などと淡い想いを抱いていた。そのために頑張ってきたのだ。

だけど高校生になった聖は、ますます綺麗になっていった。中学の時以上に彼女の周りには人が集まり、それに伴って多くの男子は彼女に夢中になっていた。


そのことに焦りはあったものの、僕は告白するまでに至れなかった。

まだ彼女に釣り合っていないと思っていたし、彼女もきっと僕のことを憎からず思っているはずだという、根拠のない確信もあったのだ。

聖が毎週のように告白されているのに受け入れていないのも、僕を待っているからだと考えるようになっていった。



だからだろうか。僕と彼女は変わることのない関係のまま、秋が過ぎようとしていた。

それでも努力を怠ったつもりなどない。僕は一年から部活でレギュラーも取り、成績も順調上がっていった。



―――もう大丈夫なんじゃないか?



―――そろそろ告白しても、きっと受け入れてもらえるのでは?



そんな考えが浮かびながらも、僕は踏み切ることができなかった。

いつの間にか決意は鈍り、聖との関係を変えることが怖くなってしまっていた僕がいたのだ。



―――このままじゃ駄目だ



それでも、僕はなんとか足掻こうとした。

せめて聖からの印象を少しでも良くしようと、僕は他校との練習試合を見に来て欲しいと、彼女のことを誘ったのだ。頑張ってきた僕のことを見て欲しかった。



それが間違いだったなんて気付かないで







その日の練習試合は、結果からいうと僕の活躍で勝利を収めることができた。

試合は3-2でうちの勝利。僕は2得点1アシストと、全ての得点に絡む活躍をすることができ、試合後はチームメイトにもみくちゃにされていた。

勝利できたのはもちろん嬉しいが、なにより聖の前でいい姿を見せられたことが嬉しかった。これならきっと大丈夫だろう。


チラリと遠目に見た彼女は、どこか熱に浮かれたような顔でこちらを見ているような気がした。





「どうだった、今日の試合?」


僕は上機嫌になりながら聖に問いかけた。まだ気分は高揚したままだ。

悪くない答えがもらえるだろうと踏んでいたが、いつまで待っても彼女からの返事がない。

気になって横を見ると、俯いたまま歩き続ける聖がいた。


「聖?」


「あ、な、なに?」


再度僕は問いかける。それでようやく気付いたようだ。

聖は弾かれたバネのように、勢いよくこちらを見上げてきた。


「いや、今日の僕どうだったかなって聞いたんだけど…」


「あ、そ、そうね。今日の誠也すごかったわよ。うん、たくさん点とってたし」


しどろもどろになりながら答える聖。なんだからしくないなと僕は思った。

いつもなら全身を使って感情を伝えてくる彼女だが、今日はどこか上の空だ。

僕の活躍も取って付けたようなほめ方で、彼女の興味は別のどこかにあるような気がしてならなかった。


「どうしたの?もしかしてあまり興味なかったかな」


「いや、そんなことは全然なかったんだけど…」


そういって彼女は仕切りに手を擦り合わせた。

これは聖の癖だ。恥ずかしいことや照れたことがあった時は昔からこういう仕草をよくしていた…そのことに僕は、背筋が凍る思いがした。

良くない予感がする。何故か体が震えていた。


「あ、あのね、誠也(せいや)。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」


「…なにかな」



―――やめてくれ、その先は言わないでくれ



だけど、僕の願いなど当然聞き入れられるはずがなく



「今日試合に出ていた、15番の背番号の人って、どんな人かな?」



顔を赤らめ、彼女は僕が絶対聞きたくなかった言葉を口にした。







鳥谷先輩について僕が知っていることは多くなかった。

せいぜい3年生が引退してようやく試合に出れるようになったこととか、いい人ではあるとか、その程度だ。


今日の試合も途中からの補欠出場。最初からレギュラーとして出ていた僕からしても、そこまで上手い選手ではないと思う。

ただ人望はあり、部内でも慕われているほうだとか、言葉を選んで聖に伝えた。




―――僕のほうが頭もいいし、サッカーだって上手いのに



―――顔だって、僕のほうがいいはずだ



―――僕のほうが、聖のためにずっとずっと努力してきたのに




そんな暗い感情が押し寄せてきて、言葉にしてしまいそうになるのを、僕は必死に押しとどめた。

鳥谷先輩のことを悪く言うことはいくらでもできただろうけど、僕はそれよりも聖から嫌われることを恐れたのだ。熱心に僕の言葉を聞く聖を見ていると、胸の奥がひどく痛んだ。


「そっか、鳥谷先輩って言うんだ。ありがとね、情報もサンクス!」


「…役に立ったようならなによりだよ」


親指を立て、こちらに向ける聖の顔はさきほどまでと違い、晴れ晴れとしたものになっていた。いつもの聖だ。それなのに、何故か僕は泣きそうになってしまった。


「もしかして聖、鳥谷先輩に一目惚れでもしたの?」


あえて茶化すように僕は言った。そうじゃないと、もうこらえきれそうにない。

頼むから否定して欲しい。そんなささやかな願いは、またもや聖に届くことはなかった。


「そうかも。ううん、多分、そうなんだと思う」


「…そっか」


それは僕にとって、絶望的な答えだった。

全てから誤魔化すように目を背ける。だけど、彼女は僕の内心など知る由もない。

聖は笑顔のまま、言葉を続けてきた。


「…それでさ、誠也にちょっと頼みたいことができたんだけど、いいかな?」


「…今度はなに?」


上目遣いで今度は聖が僕に問いかける。いつの間にか僕の方が、だいぶ背が高くなったけど、昔から彼女が僕に頼みごとをするときは、こういう仕草をよくしていた。

そして僕は、そんな彼女のお願いに弱かったのだ。たとえそれが、どんな頼みごとだとしても。


「鳥谷先輩と、私なにも接点なくて…頼れるのは、誠也だけなんだ。先輩と仲良くなれるよう、私に協力してくれないかな」


お願いと、頭を下げてくる聖。綺麗な黒髪がそれに合わせて垂れ下がる。

深々と頭を下げる彼女を見て、僕は内心安堵していた。


今の僕の顔を、聖に見られずにすむのだから


「…いいよ。顔をあげてよ、聖。分かったから」


「ほんと!?」


少しだけ間をもらって、僕はなんとか表情を取り繕った。

僕の言葉に喜色を浮かべて喜ぶ聖には、どうやら気付かれずにすんだらしい。


お礼の言葉を述べる彼女に大丈夫だと声をかけながら、右手をひたすら握り締める。


血が滲むほど、強く、強く








それから先は特に語ることはない。全てトントン拍子に進んでいき、聖は見事、鳥谷先輩のハートを射止めていた。


僕は直接鳥谷先輩に聖のことを話し、二人の仲を橋渡ししたり、恋愛相談に乗ったりもした。二人からしたら僕はさながら恋のキューピッドと言ったところだろう。

鳥谷先輩のほうから告白したらしく、そのことを聖は喜びを顕にした顔で伝えてきたときは僕は笑顔で祝福し、その日の夜はひたすらトイレで涙を流して吐き続けた。



笑顔を浮かべる聖と照れくさそうにする鳥谷先輩のカップルは、学校でも大いに祝福されていた。

どうやら先輩は僕が思っていたより人望があったらしい。聖は上の学年でも人気があったが、妬む声はほとんど聞こえてこなかったそうだ。それに対し僕らの学年は多少荒れたが、冬休みが明けたらきっといつも通りの日常が待っていることだろう。

僕は聖の幼馴染ということで多少同情されたが、なんとか笑顔でやり過ごしていた。



今も二人で仲良くデートに行っているはずだ。街はイルミネーションで彩られ、恋人たちで溢れているのが目に浮かぶ。


今日はクリスマス。聖と僕の、誕生日でもあった。









「なんでこんなことになったのかなぁ…」


僕は手に持った小さな箱を見つめていた。聖のために買っていたものだ。

それは彼女への誕生日プレゼントであり、クリスマスプレゼントでもあった。


前々から用意していたというわけではない。聖と先輩が付き合い始めた後に用意したプレゼントだ。

中には彼女に似合うと思って購入した、小さな指輪が入っていた。



僕と聖は毎年お互いプレゼントを交換するのがお約束だった。

誕生日とクリスマスのプレゼントをまとめて済ませそうという親の魂胆に対する、僕らのささやかな反抗。

それが去年まではずっと続いていた。今年は先輩がいるけれど、万が一僕と一緒に過ごしてくれるかもしれないという、醜い未練が篭ったプレゼント。


それを夜も更ける今も僕が持っているということは、結果などもはや語るまでもないことだろう。




―――ごめん、今日は先輩と一緒に過ごす予定だから。本当にごめんね




彼女は申し訳なさそうにそういった。

気にしなくていいと言った僕に、聖は静かに頭下げて一言、ごめんなさいと呟いた。



もしかしたら、聖は僕の気持ちを知っていたのかもしれない。



僕が告白するのを、ずっと待っていたのかもしれない



でも、踏み出せなかった僕には、もう彼女から答えを聞けそうにもなかった。







雪が降っている。今年はホワイトクリスマスらしい。

なんとか一人でいたくなかった僕は今、ふらりと街まで訪れて、駅前に設置されたクリスマスツリーを見上げていた。


ツリーに巻かれた綺麗なイルミネーションがよく映える。多くの恋人たちがスマホを向け、その光景を撮影していた。

きっとずっと心に焼き付く、良い思い出になるんだろう。駅の中から聞こえるクリスマスソングが、心に響く。


この街のどこかに、きっと二人もいるのだろう。

恋人として、幸せな気持ちを抱きながら。



涙が不意にこぼれ落ちそうになった僕は、それを振り払うように、勢いよく手に持った箱を放り投げる。

それは綺麗な放物線を描き、暗い冬の空へとあっという間に消えていった。



少しだけ気分がスッとした僕は踵を返す。もうだいぶ寒くなった。このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。

家路に向かって歩くうちに、きっと気分も切り替わるだろう。

とめどなく流れてくる涙を、僕は見ないふりをし続けた。



―――なにが悪かったんだろう



―――勇気がなかったのがいけなかったのかな



―――ちゃんと告白していれば、今彼女の隣にいたのは僕だったかもしれないのに




そんな後悔を抱えながら、僕はクリスマスで賑わう街の喧騒の中に紛れていった。

今回も短編です

急に思いついたので書き上げました

クリスマスに間に合って良かったです

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― 新着の感想 ―
[一言] もやもや苦しい···。
[一言] もし、幼馴染が主人公が自分の事を好きだと知りながら協力を求めたなら自己中な屑女ですね。そうだった場合暴漢どもに襲われて一晩中回されてしまえばいいのに。 どっち転んでも自分はこの女嫌いなタイプ…
[一言] 切ないね。勇気が足りなかっただろうけど。 彼女に見合うように努力した結果がこれではね。 まあ、橋渡し断れば何か変わったかもね。 でも、荒れないだけましだけれどね。 色んなエンディングがあ…
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