婚約者と平民の正論
僕キャスター・ユインスキーと父は、早朝にもかかわらず王宮に呼び出されていた。
目の前には、国王陛下の側妃ソーリマ様と姪のマリークライスが座っている。
その近くで真っ青な顔をして立っているのが、同じ宝飾商をやっているキチンイ宝飾のキチンイ店主だ。
呼び出された時は、昨日の王宮広場のことかとビクビクしてたが、キチンイ店主を見て合点がいった。
指輪のことだ。
マリークライスがつけていた指輪を見て、僕はすぐに販売元を突き止めるよう指示をした。
レオンクラウド殿下の婚約指輪と結婚指輪を作るさい、各宝飾を扱う店には通達を送った。
レオンクラウド殿下、いや、王太子殿下との取り決めを知らせておかないと後で揉めるが目に見えていたから。
王太子殿下から公式文書で依頼されない限り、婚約指輪と結婚指輪だと名乗れるのはユインスキー宝飾商が作った物だけ。
複製品を作れるのは一年後で、ユインスキー宝飾商に使用許可を取らなければならない。
複製品には、複製品だとわかるマークをいれなければならない。
守れない場合は、権利を侵害されたと賠償金をユインスキー宝飾商に支払う。
それをキチンイ店主は守らなかった。
マリークライスの指には、王太子殿下から贈られたという趣味の悪い緋指輪がはまっている。
こちらが、賠償金を請求するのは当たり前のことだ。
払えなくて側妃に泣きついたんだろう。
父もそれをよく分かっている。
「このことは、王太子殿下は、ご存知でしょうか?」
父がゆっくりと口を開く。
今まで向こうの言い分を聞いていた。
はっきりいって、何を言っていたのか理解が全く出来なかった。
マリークライスの指輪が本物だとか、平民なのだから従えとか、向こうにとって都合のいいことだけ、あっ!いっているんじゃないな、叫んでいただけ。
ほんとに寝なかっただけマシな内容だった。キンキン声で寝れなかったけど。
「何故、レオンクラウド殿下が関係ありますの?」
あー、アホだ。側妃ソーリマ様のいい噂は聞いていなかったけど、ここまでアホだったとは。
「指輪のご依頼は、王太子殿下です。私どもは王太子殿下と契約しております。」
「わたくしは、側妃よ!そしてマリークライスは、聖女で正妃になる者よ。」
感情的に騒がれても。
こっちとしては、″それが?″といいたい。
「私どもは信用を第一にしております。王太子殿下から変更の連絡をいただかなければ了承いたしかねます。」
うん、正論だ。
「不敬罪で訴えられたいの?」
「どうぞ。裁判で事実を話させていただくだけです。」
まあ、どっちが勝つかは分かるよな。
当たり前のことを当たり前と言っているだけだし、こっちには王太子殿下がついているのだから。
だが、父よ。いくら正論だからと言っても怒らせちゃいけないと思うけど。
側妃陣営からの視線がかなり怖い。
「平民風情が。」
「それがソーリマ妃殿下とマリークライス様のお答えですか?」
父よ!火に油を注ぐことは・・・。
「さあ、マリークライスの指輪こそが本物だと認めなさい。」
隣でマリークライスがそうするのが当たり前だと笑っている。
可愛くじゃない。見下した意地の悪い笑み。
「王太子殿下が妃にしないと仰られたわけが分かりました。あまりにも王太子殿下と考えが離れていらっしゃる。」
うわー、言っちゃったよ。一番の禁句を。
マリークライスの顔が・・・。
美人は怒っても美人らしいけど、それは心の美人をいっちゃうのかな?
「王太子殿下は、あなた方のように民を見下し使い勝手の良い使い捨ての道具だと思われていらっしゃいません。」
言っちゃったよー。しばらく不味いご飯の生活か・・・。
毒だけは気を付けないと。
「捕らえなさい。」
これで動く護衛も護衛なんだけどなー。
部屋にいた護衛たちが動き出そうとしたとき、扉を激しく叩く音がした。
「ソーリマ妃殿下、よろしいでしょうか?」
ソーリマ様が返事をする前に扉が開かれた。
近衛隊の者たちだ。何かあったのか?
「妃殿下付きの侍女がイロノ国の者と会っていました。」
ソーリマ様の顔色が変わった。
イロノ国の評判で変わったのか、それとも・・・。
「かの国から毒を仕入れたようです。この部屋も探させていただきます。」
「無礼な!側妃の私室と知ってか?」
いや、分かってて来てるんだから、言っても無駄だと分かんないのかな?
「王太子殿下のご命令です。」
調べるために近衛隊の者たちが、バラバラと動きだす。
僕たちは、どうなるんだろうか?そっちのほうが心配だ。
その一人が不思議な動きをした。
「女、金、多い。王太子殿下、部屋、無理。返して、もらう。」
ソーリマ様の前に立ち、片手で何かを投げつけ、もう片方の指で挟んだ小さな小瓶を見せている。
「返して!それはわたくしのモノよ!」
ソーリマ様が掴み取ろうとした小瓶をそいつは、何故か僕に投げてきた。
「王太子、お詫び。千年、奇跡。」
僕は思わず受け取ったが、どうしたらいいのか投げてきたそいつの姿を目で追った。
「イロノ国の者だ。手を出すな!」
そいつは、命令を聞かずに捕まえようとした側妃付きの護衛たちをスルリと避けて、窓を開けると外へ出ていってしまった。
えっ、ここって三階だったよね・・・。
「返しなさい!」
その声に振り向いた僕は、見てはいけないモノを見てしまった。
うーん、どこだったかな?
「キャスター、どうしたの?」
「なんかどっかで、なんでも治してしまう薬みたいなものを読んだ覚えがあるんだけど、思い出せないんだ。」
エメリンも首を傾げて考えてくれる。
「あっ!あれじゃない?お伽噺の。」
お伽噺?じゃあ、夢物語かー。
「王子様とお姫様が出てきて。」
それ、定番。王子様か騎士になったり、戦士になったりしてるけど。
「王子様のせいでお姫様が呪われて、お姫様を助けるために王子様が旅をするの。」
そーゆー話も多いよなー。
ヒロインを助けるためにヒーローが頑張るの。
「怪しい老婆に教えてもらって。」
うん、うん。ちゃんと導き手がいて、お姫様助けて、めでたしめでたし。
「千年に一度しか咲かない花を探すの。」
千年に一度しか咲かない花?
「けれど、花は去年咲いてしまって、千年後しか咲かないと言われて。」
あっ!思い出した。僕も読んだことがある。
「一人の魔法使いが氷で花を保管していて。」
魔法使いの試練を受けてギリギリ及第点をもらえた。
「どうにか花を手に入れて、お姫様を助けるの。」
この世界にも千年に一度咲く花がある。
偶然?




