婚約者と悪夢2
今日から二学期が始まりました。
静かになりました。
華やかに舞踏会が開かれている。
主役は、私だ。
笑みを張り付けて、人の中を泳ぐように歩く。
踊りの輪には参加しない。ファーストダンスは、異母弟と異母妹に頼んだ。
私のパートナーは、彼女だけだ。
国内外の着飾った令嬢たちが声をかけてくる。私の隣を狙って。
「私には決めた人がいますので。」
真実を言って断る。
私の妃は、妻は、彼女唯一人だけだ。
「聖女を袖にするなど、傲慢なこと。」
「疑惑が晴れるまで私との接触は禁止のはずですが?」
それなのに何故マリークライスがバルコニーに来られたのか?
すれ違いざまに異母弟の母上ソーリマと言葉を交わす。
手引きしたのは誰かは分かっていると。
背中に視線を感じつつ歩みを止めることなく進む。
いつもこの女の隣に立つのは苦痛だった。
吐き気がしそうなくらいきつい香水の臭い。
婚約者だから仕方なく連れ歩いているが、役目が済んだら早く離れたい。
挨拶回りが終わりファーストダンスが終わったら、用があると早々に離れよう。
「レオン様、この方の首飾り。」
「ああ、見事なものだ。」
まただ、この首飾りより上等な物が欲しいと。
どれだけ貪欲なのだ。この前、腕輪を贈ったばかりだろう。
音楽が聞こえた。主役の私が踊らなくては誰も踊れない。
「ダンスだ、踊ろう。」
体を密着させるダンスは苦手になった。
この女は必要以上に体を密着してくる。逃げるのは許さないというかのように。
沸き上がる嫌悪に貼り付けた笑みが何度も剥がれそうになる。
気付かれないようにため息を吐くのが癖になっていた。
人の中を泳ぐように歩く。
あの色の宝石は、彼女に似合うだろうか?
あのドレスの布の色を変えて。
あのデザートは新作か?
彼女の好きなプリンがある。
彼女とこの舞踏会に出たかった。
私が贈った物で飾り立てて。
きっととても似合っていて美しかっただろう。
私とお揃いの香水をしたら、周りにどう思われるだろうか?
それはそれで楽しみだ。
今は、早く終わって彼女の元に帰りたい。
主役が抜けるわけにもいかず、ただ時間が過ぎるのを待つ。
彼女の隣が一番居心地が良い。
人切れをしてテラスに出た。
同じく年頃の令嬢からもう攻撃を受けている異母弟がいた。
「兄上。」
「ティッオ、いい子は見付かったかい?」
私の問いに異母弟は、困った笑みを浮かべている。
「しばらく一人でいます。」
それもいいだろう。
群がってくるギラギラした令嬢たちから選ぶよりは。
「解毒剤の方は?」
「ひまり草が手に入らなくてね。」
ひまり草は、上質な整腸剤だ。
他の薬の影響をうけず、その効果を発揮する。
強い薬の調合の時に必ず必要な薬であるが、ひまり草は生息圏が狭く取れる量も少ない。
そのうち神殿のほうから何かいってくるだろう。
ひまり草を分ける代わりに何か条件をいってくるはずだ。
私に恥をかかすようにマリークライスとの婚姻か?
神殿が流通をストップさせられるのも限度があるだろう。
流通の回復が先か、私の我慢が切れるのが先が。
「兄上・・・。」
異母弟の不安は分かる。
国賓の中に病人が出たら、ひまり草が必要となる。
それが無いというのは国として隠さなければならない。
「心配しなくてよい。手は打ってある。」
そう、必要なのはひまり草だけではない。
「殿下、ルイブロン王国の方か不調を訴えられて。」
慌てた声に私は振り向いた。
「丁重に別室にお連れしろ。病状を薬師長に連絡し、薬の手配を。」
やはりという思いが強い。
ならば、ここで出てくるだろう、神殿と繋がっているであろう人物が。
「王太子殿下、マリーとのことを考えてなおしていただけるのなら、神殿の方がひまり草を分けていただけると。」
異母弟の母、ソーリマが当然のように現れた。
「必要ない。」
私ははっきりと答えたはずなのにソーリマは、さもかし名案のように言葉を続けている。
「薬が無いなど国の恥を晒すわけにはいきません。バルコニーのことは虚言ということに・・・、えっ?」
やっと理解したようで、驚いた顔をして私を凝視している。
「必要ない。神殿に借りを作るのもマリークライスを妃にするのも不要だ。」
一瞬で変わった顔が面白い。怒りで眉尻を上げ、私を睨み付ける顔は醜いモノだ。
「国王陛下に恥をかかせるつもりですか!」
「恥をかかせるのは薬庫からひまり草を盗ませた者でしょう。」
私が恥をかかせるように仕組んでいない。
薬を盗ませた者が仕組んだことだ。
ソーリマの醜い顔がさらに醜く歪んだ。
異母弟は、顔を反らしている。実母の醜い姿を見たくないのだろう。
「ご心配なく。在庫量が心許なかったため、随分前に発注した物が今朝届いた。」
規制がかかる前の発注で信用第一の商人が必死にかき集めてくれた。だから、納品が今朝になってしまった。
私と異母弟は、怒りで震えるソーリマの側を通りすぎた。
そなえあれば、うれいなし
それはどういう意味?
「災害に対して準備しておけば、もしも災害が起こったときに冷静に対処できるということですわ。」
異世界は、災害が多いらしい。
大雨、洪水、台風、地震(地面が揺れるらしい)、旱魃、猛暑、火事・・・。
「必要な物の準備に水や食料品、避難訓練をしておくのです。」
消火訓練か・・・。する価値はあるかもしれない。
初期消火で済めば被害も少ない、
備えあれば、憂い無し
では、私も彼女がいつでも泊まれるよう準備をしておくとしよう。




