婚約者と悪夢1
これから色々と交差していきます
寝室に入った途端、風景が変わる。
暗い森に寒々と立つ氷の柱。
「何年経った?」
「・・・十年になります。」
厚い厚い氷に閉じ込められた大切な人・・・。
やっと助け出せる術が見つかった。
もう少しだけ待っていてほしい。
ちがう!!
違う、彼女はこんな場所にいない。
私は頭を振って、忌まわしい光景を追い出した。
氷に包まれた彼女の姿が映る。
確かに彼女は氷の中だ。
だが、中々訪れることが出来ないあんな寂しい場所ではない。
「ただいま、シャル。」
私は、彼女に手を伸ばす。氷に阻まれて触れないけれど。
「解毒剤は、もう少し時間がかかるようだよ。」
持ち出された薬は、もう始末されているだろう。
それがどんなに危険なことか気付かずに。
彼女の生徒たちから預かった紙の束を見せる。
「お仕事だよ。課題が出来たそうだ。」
パラパラと捲る。
私でも採点出来そうな問題だ。手が止まる。
早く彼女に読ませたい。
『早く元気なお姿を』
『殿下とのお幸せをお祈りしています』
『レオンクラウド殿下のお妃様は、ティアシャルドネ様だけです』
『早くお子様を』
これは、まだ早いかな。もう少し二人っきりを楽しみたい。
出来ていたら、それはそれで嬉しいけど。
「シャル、沢山の人が君を待っているよ。」
そして、沢山の人が私と彼女を応援してくれている。
王宮広場からの声も聞こえただろ。
あの時とは違う。確かに変わっている。
「シャル、結婚式はみんなの前にしようか。」
綺麗に着飾った彼女を見せたくないが、彼らに祝われた彼女はもっと綺麗で美しいだろう。
「早く起きないといけないね。」
重たい上着を脱いで、″これから″を考える。
私がしていなかった大勢の人の前でのマリークライスへの断罪は、今日のバルコニーで終了した。と思いたい。
スマラタのゲームなら、これでマリークライスは退場のはずだ。大人しく修道院で己の罪を償う日々を送るはずだった。
続編で悪役として登場しなければ。
マリークライスの後ろには、神殿がいるのは分かっている。
マリークライスに何をやらせたいのか?
それに付いているのは、現状維持の方か?浄化の方か?
マリークライスとの婚姻式の準備で来るのが遅くなってしまった。日にちがないのにまた変更したいと言い出したらしい。
あの我が儘に慣れることが出来ない。
日に日にマリークライスの束縛が強くなってきている。
「エドヴォルド、彼女の様子は?」
私は奥にいるエドヴォルドに聞いた。
彼女をやっと氷の中から助け出すことが出来たのにその喜びに浸ることも出来ないでいた。
彼女の体調が良くなり次第、エドヴォルドと共にギオテナーイサ帝国に向かわせる予定だ。彼女をこの国に置いておけない。
だから、こうして彼女と会えるのもあと僅かだ。
「レオンクラウド殿下・・・。」
悲痛なエドヴォルドの声に私は、嫌な予感しかしなかった。
奥に急ぐ。
そこには口から血を流し、顔を歪めて横たわる彼女の姿があった。
「毒を・・・。」
エドヴォルドの身体もグラリと傾く。
「エドヴォルド!!」
「レオン様がいけないのですわ。わたくし以外に心奪われていらっしゃるから。」
振り向くと仄暗い目をして妖艶に笑うマリークライスの姿があった。
ねぶくろ?
きゃんぷ?ああ、キャンプは、野営のことだったね。
ねぶくろは、寝るための袋で寝袋。
筒状の布団というわけだ。
場所もとらないし、いいかもしれない。
だが、筒状になっているということは、いざというときに動きにくい。
その点を考慮して作ったら、軍でも使えるかもしれない。
検討してみる価値あり、だ。




