婚約者と平民の見聞
僕、キャスター・ユインスキーは、ティッオ殿下からお借りした乙女ゲームの調査報告書を読んでいた。
″オタク″から、聞き取った内容とも照らし合わせていく。
エメリンが、記録していたイハヤカタ侯爵令嬢が虐げられていた内容とも。
で、色々書き出していく。
まず、ゲームと大きく違うこと。
レオンクラウド殿下の婚約者がマリークライスでないこと。
ゲームでイハヤカタ侯爵令嬢の名前は出てこなかったこと。
悪役令嬢断罪の場がなかったこと。
異世界の知識で作られた魔道具が無かったこと。
最後は、イハヤカタ侯爵令嬢で変わる内容。
次にヒロインとイハヤカタ侯爵令嬢が虐げられた内容。
あれ?なんだこれ?
スマラタをイハヤカタ侯爵令嬢に替えたら、大部分乙女ゲームの話と重なるんですけどー!!
教科書隠された・破かれた、水をかけられた、服を汚された・破られた、拐われ穢れそうになった、乙女ゲームでされていた内容をイハヤカタ侯爵令嬢も受けている。
もし・・・、イハヤカタ侯爵令嬢をヒロインとして乙女ゲームの話が始まっていたとしたら・・・。
悪役令嬢断罪が終わっていないから、しつこくマリークライスが絡んでくる?
まさかな。
続編の資料に手を伸ばす。
続編と同じように氷に閉じ込められたイハヤカタ侯爵令嬢。問題はそれを見たレオンクラウド殿下の言葉だ。
レオンクラウド殿下は、『また』と仰った。
『わ、わたしは、また助けられなかったのか?』
前も助けられなかった?
それはいつ?
まさかレオンクラウド殿下が前世持ち?そんな話は聞いたことがない。
それにレオンクラウド殿下が前世持ちなら、もっとうまくやっているだろう。
あの時のレオンクラウド殿下の目を思い出して鳥肌が立つ。
あれに逆らってはいけない。
本能的に感じた。
だから、早くイハヤカタ侯爵令嬢を助けなきゃいけない。
あのままイハヤカタ侯爵令嬢が亡くなることがあれば・・・。
ブルブルと頭を振って、最悪な未来を追い出す。
僕だって、夢見る未来があるんだ!
解毒剤を作るのに必要な薬。あと一種類が手に入らない。
誰かが邪魔をしている。
ラーシナカ家にはもうそんな力がないから、神殿だろうな。
じゃあ、シルエットだけ現れた女性神官はマリークライス?
″オタク″に聞いてもシルエットの女性神官は誰か分からなかった。
『女性キャラって、ボン・キュッ・ボンが多いからさ、どこの子か分からないんだよねー。みんな髪が長いし。キャラか一新されてるしー。旧は王子と騎士だけかなー。』
ボン・キュッ・ボン?
『胸がボンとあって、腰がキュッと細くて、尻かボンと大きい。こっちでは言わないか!』
へぇー、異世界では女性の容姿をそう言い表すんだ。
確かにマリークライスは、ボン・キュッ・ボンの魅力的な女性の身体をしている。
『反対にヒロインは、胸が寂しいのが多かったな。』
スマラタは・・・。貧乳ではなかったけど・・・、ボンとした感じはなかった。
イハヤカタ侯爵令嬢は、ボン・キ・・。
ゾクゾクゾク
悪寒が背中を走った。
考えちゃいけない。うん、うん、命が惜しいから考えない。
『女性の理想という体型をした悪役令嬢をイケメンの攻略対象者が振るっていうのが、いいんだろうな。女は胸じゃないって。』
異世界の男は、大きな胸好みの人が多い?そりゃあ、目の保養にはなるかもしれないけど・・・。
違う、違う、女性神官が誰かを考えてたんだ。
神官の服って、あんまり胸が目立たないんだよなー。ダボっとしてて。腰紐も体型が分かるほどキツく絞めている人いないし。
学園に来ていた女性神官で、胸がボンを見たかなー。
「キャスター!」
あっ、エメリンだ。
エメリンは、ポン・キュッ・ボンだな。
安産型の良いお尻をしていると母がいつも誉めている。
「ほら、行くわよ!」
えっ?どこへ?約束ってしてたっけ?
無理矢理馬車に乗せられ、着いたのは王宮の広場。
「王太子になられたレオンクラウド殿下が出ていらっしゃるの。」
待ち合わせしていたのか、″守る会″が勢揃い。学園の生徒もけっこう来ていた。
レオンクラウド殿下がバルコニーに出ていらっしゃった。
笑みを浮かべているが、その瞳は限りなく冷たい。
耳が痛くなるほどの大歓声。
あっ!マリークライスが聖女の服装で・・・。
歓声がさらに大きくなった。止めてくれ!その女はダメだ!!
発表してしまって、済し崩しにするつもりか?
レオンクラウド王太子殿下の合図で広場が静まった。
「私は、私の愛する者を傷つけ続けたこの女を妃とすることはない。」
出てきた従者とマリークライスが色を無くし固まっている。
従者が婚約を発表するはずだった?
「私は、この女、罪人を許さない。」
あっ、ざわついてきた。
「聖女様が罪人?」「聖女様とご結婚されない?」「まだ、悪女に誑かされて?」
色々な声が聞こえてくる。
「私とこの聖女の婚姻を望む者は去るがよい。私は、聖女マリークライスと婚姻を結ばない。」
レオンクラウド王太子殿下は、バルコニーに背を向けた。
「レオンクラウド王太子殿下、ティアシャルドネ様、万歳!!」
隣から、聞こえた大声にびっくりした。
エメリンがピョンピョン跳ねながら、叫んでいた。
レオンクラウド王太子殿下の足が止まり、こっちのほうに視線を向けた。
「レオンクラウド王太子殿下、ティアシャルドネ様、万歳!万歳!!」
声が集まり大きくなる。回りが一緒になって、叫び出した。
レオンクラウド王太子殿下の瞳が大きく見開かれ、笑みが軟らかいものに変わる。
イハヤカタ侯爵令嬢といる時の殿下の表情だ。
手を振るレオンクラウド王太子殿下に僕も声を張り上げていた。
貴方の隣には、イハヤカタ侯爵令嬢しかダメなのです。
ああ、喉が痛い。叫び過ぎた。
「キャスター、レオンクラウド王太子殿下、素敵だったわね。」
エ、エメリン、君が一番叫んでいたはすなのに、何故?
「隣にティアシャルドネ様がいらっしゃったら、最高だったのに!」
その時は、たぶん、蕩けるような笑みをレオンクラウド王太子殿下は浮かべていただろう。
それを見ているエメリンも。
「キャスター、薬はどうなっているの?」
なんでそんなに滑らかに声が出せるの?
「い゛ま゛て゛は゛い゛ち゛ゅ゛う゛。」
ゴホ、ゴボ。喋るのが辛い。
「頑張るのよ!」
のど飴を渡された。
もっと労ってほしい。




