婚約者と悪夢の始まり
信じられなかった。信じたくなかった。
彼女がまた氷に閉じ込められたなどと。
触れた氷の冷たさが、それが事実だと嫌でも知らしめてくる。
何故、こうなった?
何故、防げなかった?
何故?
厚い氷に閉ざされて、彼女に触れることも出来ない。
冷たくない?
寒くない?
問いかけても彼女が応えない。
ただ、私は彼女と幸せになりたいだけなのに、いつもいつも何故邪魔をする!!
彼女が厭うから、争わず妥協と譲歩をしてきた。
彼女といられるのなら。とどうにか気持ちを割り切った。
だか、それでも奴等は彼女との仲を裂こうとする。
では、もう気持ちを押さえない。
私は、私のしたいようにする。
「エドヴォルド、動いてもらうぞ。」
彼女の力で残念男の従縛も解けているはずだ。
「御意。」
感情を殺した声が返ってくる。
今頃後悔か?遅い。
私を安心させるように笑った彼女。
必ず取り戻す。
だから、邪魔なモノを、そう、邪魔でしかないモノを排除する。
二度と私と彼女の仲を煩わせないように。
「エドヴォルド、お前に命令をしていた者は?」
あの声に聞き覚えがある。
あの時からずっと探していた者。
彼女を傷つけた許せない者。
「神官の一人だと。いつもフードを被っているので顔までは。」
正体をまだ隠しているのか。
「あの時、彼女を襲った者だ。」
やっと見つけた獲物の手掛かりに口角が上がる。
逃がしはしない。その背後にいる者たちも全て。
あの時彼女が味わった恐怖以上の恐怖を味わらせてあげよう。
「探しだせ。」
頷く残念男の気配に殺気が混ざる。
あの時のことを思い出したのだろう。
血塗れにされた彼女の姿を。
「あ、あにうえ。」
真っ青な顔をした異母弟が来ていた。
「ティアシャルドネ嬢は?」
「毒が回らぬよう氷に封じた。」
だから、溶かしては駄目だよ。解毒剤が準備出来るまで。
そっと彼女に言い聞かす。でないとこんな氷、彼女はすぐに溶かしてしまうから。
「ラーシナカ伯爵、説明願おうか?」
木々の間から、ラーシナカ伯爵が出てくる。
何故、残念男に彼女を凍らすように言った?
何を知っている?
浅いざらい話してもらおうか。
「レ、レオン様。」
ああ、この女だ。
私を使って彼女に毒を飲ませた女。
私に彼女を殺させようとした。
何よりも大切な私の可愛い彼女を!!
マリークライスのその細い首に目がいく。
握り潰してしまおうか?
「兄上!」
「なんだ?」
異母弟、そんな切羽詰まった声を出さなくても。
しないよ、マリークライスの首を締めるなんて。
簡単に死なせるのはおかしいだろう、彼女がこんな目に遭っているのに。
「い、いえ。」
ビクついて視線を反らさないでくれるかな。
怒気も殺気も消せてないのは自覚している。
もう消す必要もないだろう?
彼女を害する者は、私の敵だ。
「怪我をしている。」
マリークライスのむき出しになっている腕に傷があった。
ここに来る間に木の枝に引っ掛けたのだろう。
ハンカチを渡す。
「あ、ありがとうございます。」
頬を染めていないで、それでしっかり傷を拭いてくれるかな。
「マリー、止めるんだ!」
ラーシナカ伯爵、何故止める?
「マリーと踊った後にレオンクラウド殿下が手をお拭きになったハンカチだ。」
マリークライスが小さな悲鳴を上げて、ハンカチを落とした。
「何故、ハンカチを落とした?」
マリークライスの唇がワナワナと震えている。
「ど、どく、が・・・。」
そうだ、手についていた毒を拭いたハンカチだ。
それを何故知っている?
「連れていけ。何故、ハンカチに毒がついていると思うのか吐かせろ。」
「そ、そんな。わたくしは!」
明日、この女が婚約者になる?
彼女を殺そうとした女が?
そんなこと、許せるはずがない。
彼女のいた場所にもう誰も立たせない。
「マリークライスの手と今している手袋の内側も調べろ。毒が付着しているかもしれん。」
「手を洗いましたわ!」
ハッとマリークライスが固まる。
何故手を洗ったのか、自らバラしたことに気がついたようだ。
「私の暗殺未遂だ。」
違うとマリークライスが叫んでいるが、王族である私に毒を付けた時点で極刑だと分からぬはずがないのに。
ああ、うるさい。キンキン叫ぶ声が耳障りでしかい。
ジロリとマリークライスを見ると、真っ青になって静かになった。
安心しろ、極刑にはしない。死にたいと願っても死なせはしない。
「寒天は、海藻なのに海のない山に囲まれた場所で作られるのですよ。」
ふーん、変わってるね。
「冬に乾かして、繊維だけにして。」
手間隙かけているのだね。
そういえば、冬に作る物が多くないかい?
キリボシダイコン、コウヤトウフもそうだったね。
コウヤトウフは、特に作り方が面白い。
凍らせて溶かしてを繰り返すのだったか?
この世界でも作れるだろうか?




