婚約者と平民の悲鳴
焦る気持ちはあるのに、レオンクラウド殿下の元に行くと思うと歩き方が変になってしまう。
「キャスター、どうしたの?」
エメリンに心配されるけど、どうにも出来ない。
だって怖いんだもん!
もん?もんって、ガラじゃないのに。自分の言葉に鳥肌が立つ。
落ち着け、落ち着け。大丈夫、大丈夫。
呪文のように心の中で唱える。
でも前に進む。出来ることをしないとエメリンに怒られる。
けど、人を避けながらだから、速く進めない。
怖い!けど速く!イライラを隠しながら進む。
レオンクラウド殿下も気が付いたみたいで、一瞬顔色が変わっていた。何事もなかったように優しくイハヤカタ侯爵令嬢をソファーに座らせている。
ああ、良かった。イハヤカタ侯爵令嬢を動かさなくて。
どの毒か分からない。イハヤカタ侯爵令嬢を動かしちゃダメだ。
「レオンクラウド殿下、イハヤカタ侯爵令嬢様。」
僕の呼び掛けにレオンクラウド殿下は、何が言いたいのか分かったみたい。さすがだ。
エメリンにイハヤカタ侯爵令嬢を任せて、少し離れた場所でレオンクラウド殿下と話す。
小さな粒がある白い粉。怪我のない皮膚には無害なモノ。傷に擦り込むか内服させるモノ。二つ頭に浮かぶ。一つは、非常に厄介だ。
解毒剤は何種類か持ってくるように手配したけど、このまま何もなく終わるのかな?
こんな時の不安は、泣きたくなるくらい的中してくれた。
エメリンの悲鳴が聞こえた。
振り向くと、ソファーに座っていたイハヤカタ侯爵令嬢の姿がない。
動いたらダメなのに!!
レオンクラウド殿下が、あっという間に開け放たれた窓に消えていく。
窓の外から呻き声が聞こえ、走り去る足音。
戦っている?敵!?
エメリンを抱き起こし話を聞こうとしてたら、顔色を無くしたティッオ殿下が現れた。
「イハヤカタ侯爵令嬢様が拐われました。令嬢様は、毒に侵されています。」
「兄上は?」
「追っていかれました。すぐに争うような物音が!」
ティッオ殿下は頷くと直ぐ様行動を起こした。
「だだちに城に伝令を。お前たちは兄上の指示に従いイハヤカタ侯爵令嬢の救出を。後の者の半分はここの警備。残り半分は学園内に潜む不審な者たちを捕らえろ。」
僕は、無意識でマリークライスを探した。
ニタリと笑うマリークライスの姿が見え、神官たちの影に隠れてしまった。
ああ、やっぱり犯人はあの女だ。
最悪の未来にそんなにしたいのか?怒りを通り越して、憎悪が涌く。
「エ、エメリン!」
腕の中のエメリンがガバッと起き上がり、レオンクラウド殿下が消えた窓に走っていく。
「エメリン!危ないから!!」
「ティアシャルドネ様を助けに行くの!!」
伸ばした手をすり抜け、薄闇の中に躍り出ていく。
僕も慌てて追いかけた。
あちらこちらで呻き声が聞こえる中を大きな音がする方に向かう。
けど、不思議なことに襲ってくる者はいない。
何故?考える暇なんかない。
中庭の方で青い光!!
レオンクラウド殿下の叫び声が聞こえたような気がした。
光の消えた中庭で僕らがみたモノは・・・。
氷に閉じ込められたイハヤカタ侯爵令嬢。
力なくイハヤカタ侯爵令嬢に近付くレオンクラウド殿下。
「わ、わたしは、また助けられなかったのか?」
胸を抉るような悲痛な声。
小麦色の髪の青年が、氷の中の美少女に向かって手を伸ばす。氷に阻まれて届かない。
二人の後ろには、美少女と同じ青銀の髪の騎士。
こ、この場面って!!
「エドヴォルド、動いてもらうぞ。」
あっ!セリフは、違う。って、そうじゃない!!
乙女ゲームが始まるのか?
ゾクリと悪寒が背中を這う。
「御意。」
跪き、頭を垂れるエドヴォルド様。
振り向いたレオンクラウド殿下を見た瞬間、僕は立っていられなくなり無様に座りこんでしまった。
ガクガク、体が震えるのを押さえられない。
怖い、逃げたい。けど、体に力がはいらない。
目を反らすことも指一本動かすことも出来ない。
息をすることさえ辛い。
魔王というモノがいるなら、今のレオンクラウド殿下がそうなのかもしれない。
エ、エメリン、やっぱり逃げよう。
この国の奴らは、バカばっかりだ。
起こしてはいけないモノを起こしやがった!
僕の幸せ計画が!!
崩壊の、破滅の、音が聞こえる~!!
えっ?
大丈夫?どうにかする?
エメリン、正気?
イハヤカタ侯爵令嬢?
助ける?
何故?
えぇー!手伝って?
えっ!手伝うの?
はい、手伝わさせていただきます・・・。




