婚約者と卒業記念パーティー(後)
何事もなく時間が過ぎていく。
それがかえって不気味で不安を誘っている。
マリークライスに違和感を感じていた。
何かが違う。小さな差異。それが何かが分からない。
マリークライスからは、刺すような視線を時折感じる。
そして、何かを期待するような視線も。
彼女は、美味しそうにデザートを食べている。
唇の端にクリームがついているよ。
指でゆぐってあげる。
彼女の口元に持っていくと、上目遣いで睨みながらもクリームを可愛い舌でペロリと舐めた。
うん、可愛い。
すぐに赤くなるね。いつまでも慣れないのが彼女らしい。
視線を感じマリークライスと目が合った。
口角を僅かに上げていた。
私は、さっき彼女に何をした?
口の端についたクリームを・・・。
マリークライスをもう一度見た。
手袋の長さが代わっていた。
私と踊ったときは肘まである手袋だったが今は手首までだ。
毒!!
手袋に毒が仕込んであったら?
マリークライスと踊ってから手は拭いたが、それだけでは取れない毒も多い。
私は、彼女を見た。
またクリームが口の端についている。
可愛い彼女の舌がそのクリームを素早く舐取っていた。
私に見られてバツが悪そうに彼女が視線を反らしていた。
私は、幼い頃から身体を毒に慣らしてあるが、彼女は・・・!!
冷水を浴びたように身体が冷たくなる。
毒の種類が分からなければ解毒剤が使えない。
万能解毒剤は無く、間違った薬を使えば毒の効果を強める場合もある。
ハンカチを取り出し、マリークライスの手袋を触った手を擦り付けるように拭く。毒を特定しないと。
パーティーで問題が起これば明日の立太式が延期になる可能性があるから、使われたのは遅効性の毒だろう。
パーティーが終わってから倒れるように。
だから、まだ間に合うはず。毒を特定して早く解毒剤を。
「レオンクラウド殿下、イハヤカタ侯爵令嬢様。」
ちょうど、キャスター・ユインスキーが婚約者と一緒に側に来た。キャスターは、相変わらずギコチナイ歩き方をしている。
「エメリン。」
婚約者を彼女の方にやって、歩きにくい動きでそれでも速く私の方にキャスターが近づいてくる。
私も少し歩いて彼女から距離をとる。聞かせたくない。
「殿下、手はどんな感じでしたか?」
気が付いた?毒に。
私の表情で分かったのだろう。
「模造品を外して手袋。怪しすぎます。何故か?で悩んでました。」
あの品のない指輪。私からのモノと言い張るなら必ず身に付けているはず。
「ざらつきがあった。すぐに布で拭いたが。」
「白色の、粉よりは粗い、皮膚に付着・・・。タッマコ毒か、ノモイルワ毒かもしれません。どちらも遅効性ですが毒性が強い。ノモイルワ毒なら・・・。」
どちらの毒も学園に解毒剤がない。
腕に付けていた魔道具でアンタイルに連絡する。緊急事態だと。
アンタイルなら分かるだろう。私が持っているモノで対処できない事態が起こっていると。
「キャア!」
振り向いたら、彼女の姿が消えていた。背後にあった窓が大きく開いている。
「エメリン!」
キャスターが婚約者に駆け寄っていく。
私は、暗闇に消えようとする衝撃者たちを追った。
毒の種類によって、遅効性でも身体の動きに合わせて効き目が速くなるものがある。ノモイルワ毒がそうだ。だから、彼女を動かせなかった。
剣を向けてくる者たちに容赦なく風を浴びせる。
先頭を走る者が速い。
学園に隠れていたのだろう、敵がバラバラ出てくる。
風の刃は使えない。先頭の者、残念男に当たり彼女を落とされたら!!
神官兵であろう者たちを斬り倒し、離れていく残念男を必死で追った。
中庭に入った所に残念男が立っていた。
彼女は、呆然と地面に座り、残念男を見ている。何が起こっているのか分かりかねているのだろう。
「エドヴォルド、何故、シャルを狙った。」
剣の腕前も魔力も私より残念男のほうが上だ。
まともに戦ったら、私が負けるのは分かっていた。
焦る心を押え、ゆっくりと二人に近づいた。
「わ、わたしは・・・。」
青い瞳が焦点を結んでいない。
まだ従縛の魔法が解けていない。
「その娘を殺すのだ。」
聞いたことのある男の声がした。
残念男がゆっくりと剣を抜く。
「止めろ!!」
私は叫んだ。彼女に剣が届かなくても向けられるのを見るのは嫌だ。
「エドヴォルド!ティアシャルドネ嬢を凍らせろ!毒の回りをを遅らせるのだ!」
息を切らせながら、ラーシナカ伯爵が現れそう叫んでいた。
「ど、く?」
残念男の瞳が、彼女をはっきり捕らえていた。
彼女がふらつきながらも立ち上がって、残念男に手を伸ばしていた。
「エド兄様。」
彼女の身体が青く光る。
「早く殺せ!!」
「凍らせろ!!」
「シャル!!」
彼女が私を見て微笑んだ次の瞬間、青い光が辺りを包んだ。
「シャル、食べたら動こうね。」
「寒天が欲しいです。」
彼女は、デザートを見て、ぽつりと言った。
「かんてん?」
「海藻を干したモノでしす。」
ふーん、異世界の食べ物たね。
異世界の食べ物もこちらとよく似ている。
「ゼラチンの代わりにお菓子によく使われました。カロリーが無いので、ダイエット食品なのですよ。」
カロリー?それは、食べ物なのかい?けれどカロリーが無いというのは、話が分からなくなる。
ダイエットは、身体の無駄な贅肉を落とすことだったよね?
異世界は、健康志向が高いのだね。




