婚約者と卒業記念パーティー(中)
講堂に人が集まってくる。
私は彼女と控えの間にいた。
入場は、一番最後だ。
今夜の彼女のドレスは、不思議な色になった。
青銀の縦糸に小麦色の横糸で織った布。角度、光の当たり方で色合いが変わる。黄色なのに青に。黄緑なのに黄色に。
私と彼女の髪の色の布で作ったドレス。
とても似合っているよ。
異母弟は、今年入学した異母妹をパートナーにしたようだ。
二人とも今日はゆっくり楽しんだらいいと思う。楽しめたら、だが。
「シャル、この服の第二ボタンもあげるからね。」
彼女が不安そうにしているから、耳元で囁いてあげる。
ボンと赤くなる彼女。今すぐ彼女を貪れないのが残念だ。
卒業で着た服の第二ボタンは、全て彼女のモノだ。
だが、この約束は私は果たすことが出来なかった。
控えの間の扉が開き、私たちが入場する。
視界の隅に若葉色のドレスを着たマリークライスと神官姿の残念男の姿を捕らえた。
やっと、残念男に会えるようだ。
残念男のままなのかい?
覚えていないだろうが、彼女を守るため背中を合わせて敵と戦った仲なのに。
卒業記念パーティーが始まった。
まず、学園長の挨拶がある。
真っ青な顔をした学園長は、開催の挨拶だけして後ろにさがってしまった。
代わりに立ったラーシナカ伯爵が、卒業式での学園長の失言を詫びていた。
議会の調査では、彼女は苛めに加担したことはなく、それどころか学園入学当時から被害者であったこと。彼女に対しての首謀者は高位令嬢であり、すでに罰せられ貴族籍を剥奪されていること。名は伏せられていたが、誰のことかは明白だった。
チラリと見るとマリークライスの手が小刻みに揺れている。実の兄から、断罪されるとは思わなかったのだろう。
無くなったはずのマリークライス断罪が起きたのは、ゲームの強制力の影響か?
起こるのはパーティーの中盤から終盤だったはず。
「シャル、デザートはダンスが終わってからだからね。」
もうすぐ私が挨拶する番だ。彼女にそっと耳打ちする。
「分かっています。」
本当かな?舞踏会で彼女を捕獲するのは、いつもデザートのテーブルの前だよ。それに去年も私が挨拶で離れた直後に移動していたのを壇上から見ていたよ。まあ、捕まえやすいからいいけど。
「兄上、私が見ていますから。」
「ティッオ殿下まで!」
こんなところで可愛く拗ねないでくれるかな。王宮に連れ帰りたくなってしまう。
名を呼ばれ、異母弟に彼女を任せて壇上にあがる。
大体話すのは答辞と同じだが、このパーティーで学園の生徒としていられるのは最後だ。
「私たち卒業生が生徒としていられる最後の時間だ。大いに楽しもう。」
ゆっくり壇上を降り、大人しく待っていた彼女の手を取る。
ご褒美をあげないといけないね。
ダンスホールの中央で音楽が始まるのを待った。
すぐ近くでマリークライスと残念男も音楽を待っている。
マリークライスが大人しいのが不気味だ。
反対にだからこそ、何か企んでいると感じてしまう。
音楽が始まり、私の腕の中で彼女が誰よりも綺麗に舞う。
運動神経が少し(どころではない)悪い彼女は、必死にリズムを取りながら踊っているのだけどね。
私がしっかりリードするし、失敗しても楽しめばいいのだよ。
話しかけると可愛く睨まれるから、言わないけど。
一曲目が終わり、彼女のご褒美にとデザートを取りに行こうとした。今年も料理人たちが、腕をふるっているはずだ。
「レオン様、踊っていただけませんか?」
白い手が差し出される。
肘まで白い手袋をしたマリークライスが目の前にいた。
隣で彼女の体が強張ったのが分かった。
断ってマリークライスに恥をかかせることは、簡単だ。だが、それを優しい彼女が嫌がる。
彼女の前には、残念男が立っていた。
残念男が彼女に何かするとは、思いたくない。
「一曲だけだ。」
私と彼女はパートナーを替えて、もう一曲踊ることになった。
確かにマリークライスとは、踊りやすい。
ダンスマナーも完璧であるため、リードもほとんど必要ない。
だから、話も出来る。
「レオン様、お慕いしております。」
うっとりとした声でマリークライスが話しかけてくる。
「私は、自分の思いだけを優先するあなたに好意を持てない。今までも、そしてこれからも。」
はっきりと言う。
「そう仰っても成るようにしか成らないのですわ。」
「そうか?私が王になったら、直ぐ様、ティッオに譲位する。半日が最短の王妃記録か?それよりは、長くその地位にしがみつけるだろう。」
私が王にならなければいけないのなら、王になろう。
だが、いつまでその地位にいるかは、私の好きにさせてもらう。
曲が終わった。
私は、残念男に唇を噛み締めているマリークライスを返し、彼女を取り戻した。
残念男は、残念男のままだったようだ。
強引なリードでヘトヘトになっている彼女を二人から引き離すため、その場を去ってしまった。
それが序章だったと気付かずに。
「シャル、最初は?」
「黄色のムースをお願いします。」
「次は?」
じっとデザートを眺めて考えている。
ちょっと種類が多すぎるから、全種類は彼女でも制覇できないかな?
「チーズケーキを。」
皿に色とりどりのデザートを盛っていく。
「はい。」
嬉しそうに皿を受け取り、幸せそうに頬張る彼女。
私の隣でいつもそんな顔をしていてほしい。




