婚約者と平民の団結
壇上に立つ赴任してきたばかりの学園長。
騒音にしか思えない内容だけど、最前列に座るレオンクラウド殿下の雰囲気が氷点下になりつつあるのが分かり、ビクついてしまう。
何故、レオンクラウド殿下の逆鱗に触れる奴らしかいないのかが、疑問だ!
ダン!
前方で激しく床を鳴らす音がした。
レオンクラウド殿下だね、発生源は。
僕は、右肩を回し肘で隣の腕を押す。隣のヤツも右肩を回し肘で隣の腕を押す。その隣も・・・。
僕の列から後ろは下位貴族か平民だ。
「しかし、こうしゃ・・・。」
身体を右に傾けて直ぐに正す。
ダン!!
おぉ、凄く揃った。それにこの人数のわりに大きな音が・・・。前の高位貴族のほうからも在校生のほうからも聞こえたような気がする。
まっいっか。怒られる人数も協力者も多いほうがいい。
卒業式でもマリークライスを認めさせる何かが起きるらしい。
それをぶち壊さなければならない。
破滅なんか嫌だー!!
あれ、マリークライスも祝辞をするんだ。
レオンクラウド殿下が破棄ようなことを言ってくれると嬉しいな。
にしても、あの趣味の悪い指輪。石はいいのを使っているみたいだけど、石の良さも台座のデザインもまったく生かされていない。
見た目が別物だけど、レオンクラウド殿下がイハヤカタ侯爵令嬢に贈った婚約指輪に似せて作らせたな。
工場も商店もきっちり落し前つけてもらう。
大きな石が愛情の証だって!
あんなの贈るのは趣味の悪い金持ちだけだ。
やっぱりレオンクラウド殿下は趣味がいい。
イハヤカタ侯爵令嬢の指にぴったり似合う指輪をと注文されたから。ただお金をかけるのじゃなく、本人に似合う物を贈ろうとする。さすがだ。
あれ?あっさりマリークライスの祝辞も終わった。問題発言もなしに。
そんな性格じゃないから、誰かに言わないように言いくるめられたな。あのマリークライスに謂うことを聞かすなんて、要注意人物だ。誰か突き止めなくては。
レオンクラウド殿下が壇上に上がる。
怖い。うん、やっぱり怖い。どう思っても怖い。
何故?と思うけど、怖いものは怖い。
けど、レオンクラウド殿下のことは怖いけど、嫌いじゃない。むしろ尊敬している。このままの殿下でいてくれるのなら、忠誠を誓ってもいい。怖いけど。
記念品?いつもは、今じゃないはず。なんで?
一つ年下が付けてくれた記念品のブローチ。
なんだこの青い石は?最低の加工しかされていない。
クズといわれる石も手間隙かけて加工したら、この石よりも価値があがる。
あっ!殿下の答辞が終わってる。
あれ、なんで呼び止められてるんだ?
マリークライスと学園長が出てきている。
聖女の加護?
これだ!マリークライスの本当の出番は!!
お盆の上に乗っているのは、輝きのない石がついたブローチ。
マリークライスが加護を与えたら、加工された石がついたブローチに交換し、レオンクラウド殿下につける。
聖女の力をアピールできるというわけだ。
どうやって、打ち砕こう?
「私はよい。聖女の加護が欲しい者に喜んで譲ろう。」
さすがレオンクラウド殿下。勝手に打ち砕いてくれる。
けど、それだけでは弱い。
頑張ろう、うん、頑張れる。
レオンクラウド殿下のところじゃなくて、エメリンのところに行く。そう思うんだ。
右手と右足が同時に出た。前に進めばいい。どんな歩き方でも。
一歩、一歩、前に進む。
「レ、レ、レオンクラウド殿下、ぼ、ぼくもイハヤカタ侯爵令嬢様からしゅ、しゅ、しゅくふくをいいいただいてもよよろしいででしょうか?」
声をかけれたけど、どうやって祝福をいただこう?
僕が直接貰うのは後が怖い。
嫉妬したレオンクラウド殿下に殺されたくない!
そうだ!
「エメリン!こ、これを外して、イハヤカタ侯爵令嬢からしゅしゅしゅくふくを受けて欲しい。」
エメリン、助けて!レオンクラウド殿下の嫉妬で死にたくない。
「ブローチを外して、エメリンが持って祝福を受けてくれるかな。」
これなら大丈夫なはずだ。
エメリンもイハヤカタ侯爵令嬢と接することが出来るから嬉しいはずだ!
「私もお願いします。」
「俺も。」
「僕も。」
あれ、みんな・・・。僕の隣、後ろ、あれ、前のお貴族様もいる。
「シャル、卒業生たちにお願い出来るかな。」
レオンクラウド殿下のほうを見て頷くイハヤカタ侯爵令嬢。
やっぱりレオンクラウド殿下とイハヤカタ侯爵令嬢を引き離してはならない。そう確信した。
そして、僕たちは奇跡を見た。
「聖なる青よ、卒業される方々に祝福とご加護を。」
イハヤカタ侯爵令嬢がそう言った直後に起こった幻想的な光景。青い聖なる光が降り注ぐのを。
見るとブローチのくすんだ輝きをした青い石が眩い光を放っていた。
けれど、イハヤカタ侯爵令嬢は聖女とは言われなかった。
これだけの奇跡をおこしたのに。
イハヤカタ侯爵令嬢を聖女に出来ない理由が神殿にはある。
卒業式後、下位貴族と平民の卒業生だけ学園長の名で残された。
式辞を中断させられた腹いせだ。
威張ったヤツほど無駄な矜恃が強いからね。
学園長が怒鳴ろうと息を吸い込む。
ガラと講堂の扉が開いた。
ティッオ殿下だ。
「学園長、夕方のパーティーのために資料を持ってきた。」
側近候補の方々が重たそうに紙束を持っている。
「スマラタ嬢が虐げられていた件で何も知らぬようだったからな。」
数冊とって、ティッオ殿下が学園長に説明していく。
「イハヤカタ侯爵令嬢ティアシャルドネ嬢は、スマラタ嬢を虐げていた件には無関係だ。その件の調書はこれだ。」
あっ!それ、僕が読みたい。
「ここにナオプール伯爵令嬢は、マリークライスの真似をして、スマラタ嬢とイハヤカタ侯爵令嬢を虐げたと供述している。それを裏付ける証言はこれだ。」
ティッオ殿下は、目を白黒させている学園長に次々と紙を見せていた。
「パーティーには、式に出席した来賓も来る。何をしなければいけないか分かっているな。」
学園長の顔色は、面白いくらいに真っ青になっていた。
ティッオ殿下は、暗に間違った発言を公の場で撤回し、謝罪するように言っている。
「しかし、噂では・・・。」
墓穴を掘った。卒業記念パーティーには、この人、いないかもしれない。
「噂?学園の長とある者が噂を鵜呑みにし、公式の場でどうどうと発言をしたと?侯爵家の令嬢と知っていて?兄上の愛妾で在られる方を?」
終わったな。この人。
イハヤカタ侯爵令嬢でレオンクラウド殿下の愛妾を公式の場で貶めた罪で罰せられる。
「パーティーでは、ティアシャルドネ嬢に公式に謝罪してもらう。内容を考えておくように。」
死刑宣告に近いね。
衛兵が来て、学園長を連れていく。
自分は無知でしたと公表するようなものだし、マリークライスを裏切ることになる。
「卒業生の皆、卒業おめでとう。パーティーの準備もあるだろう。早く帰りなさい。」
ティッオ殿下の有難い言葉に僕たちは、やっと帰路につけた。




