婚約者と卒業式(後)
意味のなかった式辞が終わり、来賓から祝辞をいただく。
まあ、いつも通りの代わり映えのない言葉が続く。
マリークライスの祝辞も一般的なものだった。下手なことを言い、乙女ゲームと同じように私から破棄の言葉が出るのを避けたのだろう。
誰かマリークライスに適切な助言、いや、うまく操っている。
それが誰なのかが分からない。
不服な顔をして戻っていくよ。マリークライスは、私の妃になることを自慢したかったはずだ。
我慢せずに言ったらよかったのに。
妃にしないことを私が言ったら、婚約破棄と同じになったかもしれないのに。残念だ。
私の番になった。卒業生代表として壇上に立つ。
学園で学べたことへの感謝、平等とは云いがたいが身分に関係なく学舎で過ごせたこと、そして大人として巣立つ決意を表明した。
ざっくり簡単に済ませたよ。長々と話すことでもないから。
席に戻ろうと呼び止められた。
学園長とマリークライスが壇上に上がってくる。
面倒なことを始めそうだ。
「卒業記念品です。」
黒いお盆に学園の園章と青い石がついたブローチが運ばれてきた。毎年、卒業生に送られるものだ。
堂内を見れば、一学年下の女子生徒たちがブローチを卒業生たちにつけている。来年、彼女がこの役目をするのかと思うと黒い思いが芽生える。彼女につけてほしいし、彼女につけたかった。
「聖女様に加護を頂き、殿下に。」
そんなモノはいらない。
そんな演出をするなら、こちらも好きにさせてもらおう。
「私はよい。聖女の加護が欲しい者に喜んで譲ろう。」
私は、お盆の上のブローチを掴むと壇上を飛び降り彼女の元へ向かった。
自然と道が出来る。
「シャル、祈りを捧げてくれるかい?」
キョトンとした彼女は、壇上と私の掌にあるブローチを交互に見て小さな声で聞いてきた。
「よろしいのですか?」
「私は、大切な人に祈ってほしい。」
彼女は困った顔をしていたが、私は有無を言わさず彼女の右手をブローチの上に乗せた。
彼女は、仕方がないという風に頬笑むと静かに祈ってくれた。
「聖なる青よ、レオンクラウド・ヒロド・ファス・コードストブール様に祝福とご加護を。」
淡い青い光が微かに輝く。
回りの者が目を見開いている。
信じられない光景だろう。そして美しくて綺麗だろう。私の可愛い彼女は。
空いている場所に彼女がブローチをつけてくれた。
「シャル、ありがとう。」
私は自分の席に戻ろうとしたが、壇上から声がかけられた。
「殿下、こちらに・・・。」
たぶんマリークライスが祈りを捧げたモノと付け替えろと学園長は言いたかったようだが、私のブローチを凝視していた。
「その輝きは・・・。」
「レ、レ、レオンクラウド殿下、ぼ、ぼくもイハヤカタ侯爵令嬢様からしゅ、しゅ、しゅくふくをいいいただいてもよよろしいででしょうか?」
何故、キャスター・ユインスキーは私の前ではいつも挙動不審なのだろうね。
カタカタと音がしそうな動きをしているよ。
「シャル。」
彼女は困った顔をして、私の側にきた。
「エメリン!こ、これを外して、イハヤカタ侯爵令嬢からしゅしゅしゅくふくを受けて欲しい。」
小柄な女性が出てきて何事?と首を傾げている。
「ブローチを外して、エメリンが持って祝福を受けてくれるかな。」
懸命だね、婚約者に代理をさせるとは。
けれど、そこまで狭量ではない・・・とはいえないかも。私以外の男に彼女が触れるのは・・・、うん、許せない。
「私もお願いします。」
「俺も。」
「僕も。」
卒業生たちが集まってきた。もちろん、ほとんどが下位貴族や平民の者だ。僅かだが、伯爵家や侯爵家の者がいたのには驚いた。女性だったから良かったが。
「シャル、卒業生たちにお願い出来るかな。」
私の方を不安そうに見上げて、彼女はコクンと頷いた。
両手を胸の前で組み瞳を閉じて、静かに唱える。
「聖なる青よ、卒業される方々に祝福とご加護を。」
彼女が青く輝き、その輝きは光の玉となり上に上がる。強く輝いたと思うと光の雨となって堂内に降り注いだ。
「おい!」
「ブローチの色が!」
「青く輝いている・・・。」
「綺麗・・・。」
あちらこちらで感嘆の声が聞こえる。
彼女も呆然とその光を見ていた。
「シャル、ありがとう。」
弾かれたように彼女が私を見た。
彼女は、自分が起こした奇跡を信じられないようだ。
「イ、イハヤカタ侯爵令嬢様、あ、ありがとうございます。」
机があったらまたいい音をさせていただろう、キャスター・ユインスキーが頭を下げていた。
「あ、はい。お役にたてたのなら・・・。」
まだ放心しているね。
凜としている姿から、いつもの可愛い彼女に戻っているよ。
見せたくないなー、この可愛さは。
「せいなるあおよ・・・。」
「マリークライス様、お止めなさい。」
壇上には、エマコトオ司教がマリークライスを止めていた。
「聖なる青を分け与えられるのは、三位以上の方だけです。五位のあなたでは無理です。」
ざわめきが堂内に広がった。
神官たちがマリークライスを引き摺るように連れていく。
「これは・・・。神帝にも進呈できる代物です。」
盆の上に残ったブローチを見て、エマコトオ司教は呟いた。
そこにも彼女の力が行き渡っている。が、それ以上何もいわない。
「では、皆さん卒業おめでとうございます。卒業式を続けてください。」
エマコトオ司教は、ニッコリ笑って去っていった。
相変わらず何を考えているのか分からない人だ。
学園長が慌てて、式を再開させていた。
まあいい。
向こうの企みは潰せたはずだ。
一つ年下の送辞を聞き、卒業式は終わった。
綺麗だった彼女の力は。
あれで、また彼女の心酔者が増えてしまった。
″守る会″の者たちの瞳が怖かった。
私に近いモノがある?
そうかもしれないね。
けれど、一番彼女の魅力に取りつかれているのは私だよ。
だから、彼女の隣は誰にも渡さない。




