婚約者と卒業式(前)
今日はとうとう卒業式だ。
式典用の服を着る。
明日の立太式よりは質素だが、華美で無駄な装飾が多い服だ。
視線を感じ彼女のほうを見ると頬を染めて顔を反らされる。
こんな服装が好きなのかい?
まあ、″制服は二割増し″というらしいからその効果なのかな?
中身もいい男だよ、きっと。
「シャル。」
彼女を呼ぶ。
姿見の前で並んで立つ。
侍女たちから、感嘆の声が聞こえる。
このドレスにして正解だね。色もデザインも私のとよく合う。
「ヒロト様、おめでとうございます。」
恐る恐る彼女が差し出してきたのは、タンスの奥に隠されていたプレゼント。
ホッとした顔が出ないように気を付ける。
知っていたことを彼女にバレるといけないからね、がっかりした顔はさせたくない。
「ありがとう、シャル。」
ソファーに二人並んで座りプレゼントを開けてみた。
青い石が付いたピンブローチだ。
シンプルなデザインでどんな服装に合いそうだ。
青い石なのは彼女の瞳の色ではなく、青が聖なる色だからだ。
子供神の力も青き冰と青き焔。青だ。
まあ、私にとっては彼女の色だけど。
ピンブローチをじっくり見る。これなら、今日の服にも付けれそうだ。
「シャル、付けて。」
彼女のほうに箱を差し出す。
彼女は困ったように箱と私を見ていたが、箱を受け取りピンブローチを手に取った。
「聖なる青よ、レオンクラウド・ヒロド・ファス・コードストブール様をお守りください。」
ピンブローチを握り締めて彼女が祈りを捧げてくれる。
よく見なければ分からないが、彼女の身体が青く光る。
侍女の何人かもそんな彼女に気がついたようだ。
そういえば、異世界でも青が聖なる色とされている所もあるそうだね。
こちらと同じように神の色なのだろうか?
彼女が胸ポケットに付けてくれる。
嬉しいな、自然と顔がニヤケてしまうよ。
会う人、会う人に自慢してしまうかもしれない。彼女からのプレゼントだと。
「シャル、本当にありがとう。」
抱き寄せて、可愛い額に唇を落とす。
まだ慣れないのかい?真っ赤になっているよ。
「ヒロト様、人前では・・・。」
可愛い抗議に苦笑を浮かべるしかないよ。
人前だから、これぐらいで我慢しているのに。
人がいなかったら、いや、もし時間があったのなら今ここに座っていないよ。
今日は卒業式だ。
乗り切らなければならない、彼女との幸せのために。
馬車に揺られ、学園に向かう。
このまま部屋に戻りたい気分だ。
婚約破棄は卒業記念パーティーだったはず。
卒業式は何もなかった。
だから、まだ大丈夫のはずだ。
彼女の手を握る。
いつもは膝の上に彼女を乗せているが、今日は隣に座っている。
彼女のドレスが崩れないように今日は気を付けた。
せっかくの装いだからね。
本当は誰にも見せたくない。
こんなに綺麗なのだから、独り占めしたいじゃないか。もちろん自慢も大いにしたいけどね。
学園に着くとそのまま王族専用の部屋に向かう。
今日は授業がないからね、卒業式が始まるまでこの部屋でゆっくりするつもりだ。
教室に送ると雑音が多すぎる。
彼女に聞かせたくない話もあるからね。
その前に私から彼女に話しておかなければいけない。
「シャル、私にされた予見を聞いてくれるかい?」
彼女の肩を抱き寄せる。
青銀の髪がサラサラと私の服にかかる。
気を付けないといけない。
服の無駄な装飾に絡むと彼女の髪が痛んでしまう。
「その予見は、恐ろしいものなのですか?」
彼女の声が震えている。
まあ、彼女が怖がっても仕方がない。
神帝の予見は、世界に関係しているものが多いから。
すでに巻き込んでしまっている。
ごめん、もう逃げられないし、逃がしてあげられない。
だから、何が起ころうが私と幸せになる覚悟をしてほしい。
今朝、タンスの中にあのプレゼントが無かった時は凄く焦った。
小さな箱だし、簡単に他の場所に隠せるのは分かっていたけど。
私のだろうとは思っていたけど、貰えるまでは本当にドキドキだった。
朝で良かった。
これが卒業式が終わってからとか夜だったら、心配で心配で答辞を失敗してしまったかもしれない。
本当にありがとう。
このピンブローチ、一生涯大切にするよ。




