婚約者と平民の奔走(前)
あの日、マリークライスたちは怒りを隠さず帰っていったらしい。定番の捨てゼリフを残して。
まったく道理も礼儀も知らないのはどっちだよ。
マリークライスがレオンクラウド殿下の妃になったら、とっととこの国を出よう。お飾りの妃でも何をしてくるかわかったもんじゃないから。
近付く卒業式にイライラしながら、面会が叶うのを待ちわびていた。
ようやくティッオ殿下と面会できたのは、卒業式の前日だった。
王宮のティッオ殿下の私室に通された。
ティッオ殿下は、とても疲れた表情をしていた。
「キャスター・ユインスキー、マリークライスが迷惑をかけたそうだな。」
疲れる原因は、あの従姉でしたかー。
「あれは、回りの方も悪いのかと。正式になられるまでは神殿の方とされるべきです。」
逃げる算段をしているから、強気の発言も出来る。
ティッオ殿下は、苦笑していた。
「俺もラーシナカ伯爵も注意しているが・・・。」
聞くわけないと。
ティッオ殿下と僕のため息が重なった。
「で、どうした?俺に来たということは、兄上には聞きにくいことなのだろ?」
いえ、ティッオ殿下にも聞きにくいです。
スマラタが関わっていることなんで。
「乙女ゲームについて教えていただきたくて。」
ティッオ殿下の眉が寄った。無理かな?これは。
「ほとんど調べ終わっているはずだが?」
あ!やっぱりバレてました?調べていたこと。別に隠してなかったけど。
「はい、お聞きしたいのは、バットエンド。ヒロインが処刑や修道院送りになったその後のこの国のことと、悪役令嬢と婚約破棄したレオンクラウド殿下のお相手のことです。」
ティッオ殿下は、棚から分厚い紙の束を取り出すと捲り始めた。
「バットエンドでは、国は荒れたとなっている。」
やっぱり!
悪役令嬢とレオンクラウド殿下は、結ばれてはならない。
「乙女ゲームの兄上の新しい婚約者については、出てこなかったと言っていたが・・・。」
ティッオ殿下は紙の束を机に投げ置くと、何か考えるように口元に手を置いた。
「エドヴォルドとヒロインが結ばれた時、兄上はこう言うらしいのだ。」
『じゃあ、彼女は私が幸せにしよう。』
えっ?それって、エドヴォルド様と三角関係だったってこと?
「逆に兄上とヒロインが結ばれた時は、エドヴォルドに
『彼女を幸せにしてやってくれ』
と言うらしい。」
じゃあ、乙女ゲームのレオンクラウド殿下の新しい婚約者は、レオンクラウド殿下とエドヴォルド様、共通の方?
けっこう限られてくるじゃないか!王子として様々な人と交友をもたなければいけないレオンクラウド殿下はともかく、エドヴォルド様と親しいと思われる女性は殆どいない。
「お二人に共通した方ということですね。」
ティッオ殿下も頷いて、顔をしかめた。
「だから、議会は、その人物をマリークライスだと思っている。」
はぁ!?なんでそんな結論に?
そもそもエドヴォルド様とマリークライスは兄妹で、結ばれるどころじゃないでしょ。
「乙女ゲームにティアシャルドネ嬢は、名前も出てこない。エドヴォルドの幼い頃の話でそれらしい女の子が出てくるだけだ。だから、共通の女性ではないと結論づけてな。」
えっと、ちょっと待って下さい。
エドヴォルド様は、イハヤタカ侯爵家に預けられていたんだったよな。イハヤタカ侯爵令嬢と面識があってもおかしくはない。
それから・・・。
「マリークライス、さまは、悪役令嬢ですよね?」
ティッオ殿下も苦々しく頷いた。
ということは、議会も知っているということだ。
「乙女ゲームの婚約者だったのに、結ばれたら国が荒れる組み合わせなのに!!」
途中声がひっくり反って悲鳴みたいになってしまった。
それほどまでに衝撃が強い。
バカなのか?やっぱりバカばかりなのか?
「乙女ゲームと最初から違い、令嬢ではなく聖女だから問題ないと伯父上が・・・。」
ティッオ殿下は、納得していないようだ。
あぁ、まともな人がいたことにホッとする。
「けど、エドヴォルド様とは結ばれる相手ではないですよね?」
兄妹だ、絶対に無理なんだから候補から外すべきだ。
「そうだ。その点も追及したのだが・・・。」
バカどもが聞き入れなかった、と。
「兄上も魔道具でイハヤタカ侯爵家に通っていた。だから、ティアシャルドネ嬢がその人だとヤイルデ、ラーシナカ伯爵が言ったが・・・。」
それも聞き入れられなかった。
あれ?ラーシナカ伯爵は、マリークライスの兄だったよな?
へー、兄はまともなんだ。
「では、イハヤタカ侯爵令嬢が聖女と認定されれば・・・。」
高位神官が来ているのに認定されていない。
燃やし尽くす青き焔。
イハヤタカ侯爵令嬢の回りで起きている摩訶不思議な出来事。
青き焔と考えれば辻褄が合う。
神殿のほうにも重大な問題がある。
やっぱりこの国には、いられない。
バカばかりだ!
ゲームの強制力?
ゲーム自体が終わっているのだから、関係ないだろ。
どこがいいかな?
エメリン、行きたい国、ある?
えー、イハヤタカ侯爵令嬢がいない国には行きたくないー!
エメリン、この国の中枢、バカばっかりだよ。
はいはい、イハヤタカ侯爵令嬢ね。
妃になられるよう頑張ります。




