婚約者と聖女2
マリークライスは、離宮に軟禁されているらしい。
勝手に息子神の氷を使ったからだ。
五位の聖女でありながら、一位の聖人の氷を消したと言ったのも問題になっているらしい。
まあ、神官たちの怒りを買うのは当たり前だね。
あと、私と彼女に神殿からの接触はない。
神殿側は、このまま噂が下火になるのを待っている感じがする。
私や彼女を聖人・聖女の認定をするのは嫌なようだ。
「レオンクラウド殿下。」
ラーシナカ伯爵が書類を持って執務室に入ってきた。
ナオプール伯爵の仕事が回ってきて、忙しくしている。
こうして顔を合わす機会も増えてしまった。
「ラーシナカ伯爵。エドヴォルドが生れた頃にラーシナカ家に神殿から神官が来ていたそうだが、何故だか知っているか?」
私は調べても埒が明かないので、直接聞いてみることにした。
「エドヴォルドが生まれた頃ですか?」
私の問に疑問を持ちながらも思い出そうとしてくれている。
「ああ、みえましたね。歓迎の晩餐会をしたのを覚えています。祖父と父が凄く興奮していたのも。」
そして僅かに首を傾げ、訝しげに言った。
「司祭の連れていた神官、従僕をしていた方が、ポンデ教司の従僕と同じ方のような気がして。」
可笑しいことではない。
残念男は、二十一歳。若い従僕だったなら、まだいるのは当たり前だ。
司祭か。ラーシナカ家を訪れたのは、今のエマコトオ司教、当時のエマコトオ教司ではなかった。
「髪型が違って最初は気が付かなかったのですか・・・。歳をとっていないというか、まったく変わってなくて。」
親子?希に本人と見間違うほどそっくりな親子がいる。
だから、同一人物だとはいえない・・・。
「手の傷の跡まで同じで・・・。」
同じ仕事をしていたら、同じような傷がつくことがあるが・・・。手に傷がつくような仕事?洗濯などで、手が荒れるなら分かるが。
ザワリと肌が波立つ感じがする。
調べる必要がある。
「そうか、ありがとう。」
「私は、殿下のお幸せをお祈りしております。」
ラーシナカ伯爵は、柔らかく笑った。
私は、その笑みの意味を測りかねて、呆然と部屋を出ていくラーシナカ伯爵を見送ってしまった。
敵なのか?味方なのか?
私室の前に来ると賑やかな声が聞こえた。
今日は、イハヤタカ侯爵夫人とササリットが来る日だった。
「古い物はお母様の髪止めで、新しい物はハンカチ、青い物はそのイヤリング。ほら、完璧よ。」
異世界の呪いだ。
花嫁が、古い物、新しい物、青い物を身につけて、嫁ぐと幸せになれるという。
「私の物でいいのかしら。」
「あら、今でも仲良し夫婦のお父様とお母様の物が一番よ。」
ササリットが、自慢気に言っている。
その通りだと思う。
魔術学校で出会ってからの侯爵と侯爵夫人の仲の良さは、伝説といわれるほど広まっている。
それにその髪飾りは、侯爵に伝わる由緒正しい古い物だ。
「進んでいるかい?」
私は部屋に入って、息を飲んだ。
ウェディングドレスを着た彼女が立っていた。
その美しさに言葉が出ない。
ただ、見蕩れるだけだ。
目の前にいる美しい人が私の妻になる。
どう表現したらいいのか分からない気持ちが胸一杯に広がる。
幸せというには簡単すぎて、幸福よりももっともっと幸せな感じで・・・。
クスクス
ササリットの笑い声で我にかえった。
「シャル、綺麗だよ。」
うん、綺麗という言葉でも表現しきれない。
ウェディングドレスが白なのは、貴方の色に染まりますという意味らしい。
別に私色に染まらなくていい。むしろ染まって欲しくない。
彼女は彼女で素敵な色を持っていて、それも私は愛しているのだから。
ふと、目を見張る。彼女の胸の辺りに影が見えたように気がした。
瞬いて見直す。一度は消えた影はまた現れ、彼女の胸の辺りからどんどん広がっていく。真っ赤な鮮血の色が。
私は慌てて彼女に近寄るとギュッと抱き締めた。
その存在を抱き締めるように。
「ヒロト様?」
どうしたの?と彼女が訝しげに聞いてくる。
「誰にも見せたくない。」
耳元で囁くと、彼女が真っ赤に染まる。
漠然とした不安を消すために私はササリットにどれだけからかわれようが彼女を離せなかった。
また彼女を失うわけにはいかない
手に入れた温もりは、もう二度と手放せない。
異世界の呪いで、『新郎はウェディングドレスを式まで見てはいけない』というものがあるらしい。
無理だから無視した。
ドレスのデザインは私だし、布も何を使うか私が全部決めた。
一握り任せられるかい?
大事な人の一生の一度、一回きりのドレスだよ。
私が張り切るに決まっているではないか。
大丈夫、そんな呪いがなくても彼女は幸せにするよ。




