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婚約者とシャーベット

後書きを書きながら投稿してるので、時間がまちまちになります。

短編『婚約者とアイスキャンディー』は、この話の後日談です

殿下(王子)のまとも度は、連載>短編にしてます。

 今日は、彼女の屋敷(いえ)にお出掛けだ。

 残念ながら、招待してくれたのは可愛い彼女ではない。

 彼女の兄、アンタイルだ。

 アンタイルは、魔道具開発の第一人者でとても役に立つモノを作り出している。

 もちろん彼女の前世(ちしき)をいかしてね。

 魔道具とは、魔術師が呪文や呪式で作った道具のことをいう。

 武器から生活用品まで様々な物がある。

 使い方さえ覚えたら魔力のない者でも使える便利なモノだ。使い方さえ間違えなければ。

 彼女の前世(ちしき)をいかした魔道具は、もちろん平和利用のモノばかりだ。

 彼女は争いは嫌いだからね。

 今日はそれのプチ(彼女の言葉で小さいという意味らしい)披露会。

 それから、彼女お手製の夏に相応しいお菓子も食べさせてくれるらしい。

 私は魔道具などより、そちらのほうが楽しみだ。

 だから、無理をしてでも時間を作った。それこそ徹夜してでも。

 彼女と会える機会を潰してなるものか。

 学園が休みになって、彼女に会える日が格段に減ってしまった。

 彼女が足りない。本当に足りない。

 彼女欠乏症になっている。

 彼女との将来のために公務(しごと)は、しっかりこなしているが、会いたくてたまらない。

 公務(しごと)が多すぎる。彼女に会う時間が作れないくらい。

 妨害されているのは分かっている。

 だから、完璧にこなしている。

 私の評価を上げることが、ますます彼女との仲を認めざるをえなくなることに彼らは気付いていない。

 だが、彼女に会いたい、理屈じゃなくて会いたい。

 彼女の持ち物なんかでは誤魔化せない。

 あっ、忘れ物だよ。集めてないよ。

 さすがにそれをすると嫌われそうだからね。

 毎日、彼女の姿が写った水晶が私の涙で濡れていることにしよう。

「兄上、お出かけですか?」

嫌なヤツに会ってしまった。

 この異母弟(ティッオ)が、もっと政務が出来たのならとっとと臣下になって彼女とハッピーライフを送れるのに。

 重責のある国王なんて、熨斗(って何?)をつけて渡したいよ!

 ハッピーライフという言い方は、重くなくていいね。

 幸せな生活という意味らしい。

 うん、早く彼女とそうなりたい。

「新作の魔道具を確認しにね。」

 途端に異母弟(ティッオ)は眉を寄せ、嫌そうな顔をした。

 どこに行くか分かったのだろう。

 ああ、駄目だ。こいつは、祖母の前ラーシナカ公爵夫人の影響で筋金入りの前世持ち嫌いだ。

 最高権力者(こくおう)になったら、絶対に前世持ちを迫害する。

 彼女に害を与える者になる。

 国王には、絶対させられない。

 まずは、ラーシナカ家をどうにかしようか。

 後ろ楯を失えば、異母弟(こいつ)も大人しくなるだろう。

 実績も人脈も後ろ楯の力でしか作っていない脆すぎる異母弟(おとうと)

 ラーシナカ家は彼女の母親の実家だけど、仇なすものは排除しないとね。

 まあ、痺れをきらしてもうすぐ動き出すだろう。

 娘か、息子が。

 この時は私は彼女を巻き込むこともなく守りきれるつもりでいた。

 その自惚れこそが彼女を危険に追いやるとは思ってもみなかった。

「ようこそ。」

 非公式なので、アンタイルの挨拶も砕けたものになっている。

 眉を顰めたのは、グラスハイム公爵が寄越している侍女。

「アンタイル、今回も楽しみにしているよ。」

 今は、魔道具を開発・販売する共同経営者だ。

 だから、対等の立場にあることを片寄った目でしか見れない者たちは、粗探しのネタとして鬼の首を取ったように扱う。

 全くもって愚かなことだ。

「今回の新製品というより・・・。まずは、涼んでもらおう。」

 アンタイルの案内で屋敷の中に入る。

「あら、エドヴォルト、久しぶりね。」

 彼女の母親である侯爵夫人は私に挨拶をした後、後ろに控えていた残念男(エドヴォルト)に声をかけた。

 無表情で挨拶を返す残念男(エドヴォルト)に侯爵夫人が寂しそうな視線を送っている。

 それはそうだろう。

 ラーシナカ家に百年ぶりに生まれた魔力の強い子供。

 導く者がなく安定しない魔力のために、叔母の家に士官学校入学まで預けられていた子供。

 それが、残念男(エドヴォルト)だ。

 同じ歳の息子と分け隔てなく育てた侯爵夫人としては、この態度は悲しすぎるだろう。

 残念男(エドヴォルト)が、何故、ラーシナカ(あんな)家にしがみついているのかが、私にも理解できない。

 私としては、彼女が生まれた時から知っているというだけで、残念男(エドヴォルト)は嫉妬の対象だ。

 どれだけ可愛いかったことだろう、赤子の彼女は。

 私も絶対に見たかった。小さくて覚えていなかったとしても。

 部屋に入ると、彼女が何か準備をしていた。

 氷の入った器に金属の皿を乗せている。

 そこに果汁と蜂蜜を入れて、ひっくり返すようにかき混ぜだした。

 どんどん果汁が固まっていく。

 いや、細かい氷になっていく。

 不思議な現象だ。

 それを小さな器に盛り出された。

「新しい果汁氷、シャーベットだ。熱伝導がいい金属がなかなか見つからなくて苦労した。」

 冷たくておいしい。

 果汁を固まらせた氷より軟らかくて食べやすい。

「作れる量は少ないが、この暑い季節に子供と一緒に作るのも楽しいと思ってな。」

 彼女たちの姉であるササリット夫人には、幼い子供たちかいる。

 きっと、可愛い姪たちのために考えたのだろう。

 目の前で出来ていくオヤツに子供たちはきっと喜ぶはずだ。

「喜ぶ顔が楽しみだね。」

 お代りを彼女にお願いしながらそう言うと、嬉しそうな笑顔が返ってきた。

 この笑顔を見られただけで来たかいがあった。

 この笑顔をいつまでも見ていたいと私は切に願った。

「殿下、大丈夫ですか?」

目を開けるとすぐ側に彼女がいた。

寝てしまっていたようだ。

「お茶を準備いたしますね」

私は立ち上がった彼女の手を取った。

お茶よりも彼女がこのまま側にいてほしい。

「シャル、もう少しだけ、このままで」

彼女をそっと引き寄せる。

充電させて。君が足りないから。

優しく抱き締めると少し身動ぎはしたが、大人しく腕の中にいてくれる。

やっぱり彼女しかダメだと思う。

「シャル、私は本気だからね」

もう逃がしてあげられない。

これほどまでに君に餓えている。

卒業までに捕まえるから、覚悟してね。


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