婚約者と結納
エマコトオ司教に面会を申し込んでみた。
見事にフラれた。
エマコトオ司教は、残念男を連れて出掛けているらしい。国内にはいるらしいが、何処にかは分からないとこと。
何故、残念男を連れて行ったのか?
生まれたばかりの残念男と会ったことがあるのか?
聞きたいことは多々あるが、いないのでは仕方ない。
戻るまで待っていて大丈夫かどうかさえ分からない。
こんな時、神帝の予見の力が欲しいと思う。
けれど、私の伴侶の予見のことを考えると、その力も万能でないことが分かる。
それに未来が分かるのはつまらない。
愛しい彼女が可愛らしい何かをするから楽しいのだから。
「レオン様」
マリークライスだ。私が一人でいる時を狙って声をかけてくる。
視界に入れるのも鬱陶しい。
「レオン様は、聖女である私と結ばれるのです。」
戯言は、他所で言って欲しい。
足早にその場を離れようとする。
「神帝の予見です!!」
足が止まる。軽々しく予見だと言えるのか?
「神帝の予見?」
出たのは、予想以上に冷たい低い声だった。
私に予見されているのは、王になることと、伴侶を間違えないことだ。
神帝であった叔父には、誰とまで分かっていたのか?
「聖女・・・か。」
視界の隅でマリークライスが希望に満ちた顔をしたのが分かった。
「愛しい人を自分だけの聖女と呼ぶ者もいる。私もそうすることにしよう。」
うん、妙案だ。私が聖女と結ばれるのなら、聖女は彼女だ。間違っていない。
私は、止めていた足を動かし、その場を後にした。
マリークライスがどんな表情をしていたのか分からないが、人を罵り咎める者を罵倒する耳障りな騒音が後ろから聞こえた。
それに今日は、あんなのに時間を取られる暇などない。
久々に彼女と外出だ。彼女の家に、イハヤカタ侯爵家に行くことになっている。
また何発か殴られると思うと憂鬱だが、彼女を手に入れたためだ。潔く殴られよう。
それにこの世界のやり方で彼女と婚姻できないのであれば、異世界のやり方で結婚すればいい。
で、今日はついでに正式な挨拶と結納というものをする予定だ。結納はこちらの婚約式と同意味のモノらしい。手順や方法は大きく違うが。
婚約式は、大勢の人の前で婚約したことを発表する。舞踏会や盛大なお茶会で。
結納は、男側が女側に結納品というものを贈る行事らしい。らしいというのは正式にする家はあまりなく、簡略化、もしくはまったくしない人が多く、彼女も体験したことがなく分からないからだ。(経験していたら嫉妬でどうにかなりそうだ!)婿入りは逆だに女側から男側にするらしい。
結納品は、高砂人形から服、アクセサリー、靴、傘、支度金、親兄弟への贈り物など様々な物があり、家や土地によって品物も変わるらしい。
高砂人形とは、白髪頭の老夫婦の人形でこんな姿になるまで二人で仲良く生きていましょうという意味を持っているそうだ。
私も彼女も歳を重ねたら、白髪頭になるのだろうか?ならなくても仲良く長く生きていたいものだ。
アクセサリーの中には、婚約指輪というものがあり、男側の永遠の愛の証らしい。給料の三ヶ月分というが、私の場合、どれだけの金額をかけていいのか迷ってしまった。石は今あるなかで最上級を使うにしろ、お金をかけても派手になるだけで彼女やな似合わなくなるからだ。だから、キャスター・ユインスキーに彼女に似合うデザインでと依頼した。
女側も結納に対して男側に服を贈り、嫁ぐ時には花嫁道具と呼ばれる家財道具を持っていくらしい。今は、婚約の記念品として、腕時計(腕につけられるほど小さなもの)やネクタイ(首に巻くもの?)等を贈る程度らしいが。
私は、婚約指輪と家族への贈り物を準備した。ついでに屋敷に勤める者たちへのお菓子も。家族から彼女を奪ったのだからね、誠意を見せないと。
結納したら、次は結婚。異世界には、人前式というのがあるらしい。
立太式の時に彼女を民にお披露目するつもりだが、ちょうどいいと思わないかい?
人前式にするよ。その時に交換する結婚指輪も準備中だ。
しっかり働いてもらうよ、キャスター・ユインスキー。
彼は、挙動不審な行動をとりながらも仕事はきっちりしてくれるから、安心だ。
少し緊張しながら、彼女の家に向かう。
ササリットも今日は家族で来ているはずだ。
いや、けっこう緊張しているな。
正式に彼女の家族に挨拶するのだ。王子としてではなくただの男として、彼女が欲しいと、もう貰ったから返せないと。
異世界の男は、こんなことをしているのか?
凄いな。この緊張感、息苦しくなる。
「ヒロト様?」
何も知らない彼女が心配そうに私を見ている。
すっと息苦しさが消える。
うん、大丈夫。彼女のためならなんでも出来る。
彼女からは、何を返してもらおう。
あ、婚約指輪は、私の瞳の色の石にしたよ。
ダイヤモンドがこの世界のどの石になるのか分からなかったからね。
透明な石で硬度が有るのは、この世界にないから。
ピアス、というものにしようか?
身につけていて邪魔なならないから。
あ!一対のピアスを彼女と分けあって付けるのもいいね。
そうしよう。




