婚約者と蜜夜
目覚めたくないのに意識が浮上する。
何かが鳴っている。
心地好い倦怠感を感じながら、目を開ける。
目に映るのは、青銀。
やっと手に入れた愛しい人の髪の色。
肌に当たる彼女の寝息がこそぐったい。
あれから、異母弟が譲ってくれた馬車で王宮に戻り、私室に立て籠った。
事実上の妻にも彼女をした。
ちゃんと純潔の証は、取ってある。
今後、凄く重要になる予定だ。
ああ、やっぱり″電話″が鳴っていた。
仕方ない、アンタイルのお小言を聞こうか。
彼女の頭に唇を落とし、すぐに戻るからと囁いて身体を離した。
手櫛で乱れた髪を軽く整える。
素肌にローブだから、何をしていたのかもろ分かりだ。
「やあ、アンタイル。」
『レオン・・・。』
アンタイルの大きなため息が聞こえた。
『幸せそうだな。殴られるのを覚悟しとけよ。』
にやけるのは押さえられない。
思いが通じあったのだよ。にやけるなというのが無理だというものだ。
けれど・・・。
「すまない。妻にしてしまった。」
彼女との婚約を破棄しなければならなかった。
破棄しなければ、彼女が排除された。
悪女として、悪役令嬢として、貴族から排除され、修道院に送られるか最悪は処刑された。聖女を害した者として。
イハヤタカ家がそんなことさせなかっただろうが、私が彼女を諦めきれなかった。
だから、婚約者でなくなった彼女を妻にした。婚約者のままで妻にしたのでは議会の決定通りになってしまうからだ。
今の彼女の状態は、愛妾だ。愛妾は私の権限だけで娶ることができる女性。妃でないため、権力を持たぬ存在だ。
議会の承認を得て妃になれるが、今の状態では承認しないたろう。
妃の座を空けた。それが最大の私の譲歩だと議会も分かっているはずだ。
『唯一人の、なんだろう。それにこのままて終わらす気はないのだろ。』
私は唯一人の伴侶として彼女を欲した。それは、彼女以外、閨を共にしないと宣言したことになる。
私に正妃や側妃が出来ても閨を共にしないため、子が出来たとしても私の子とならない。つまり妃たちが不義を働いたこととなる。まあ、それはどうでもいいことだ。
「ああ、どれだけ時間がかかっても認めさせる。」
王にならなければならないのなら、なってやる。
正妃でも側妃でもなりたい者がなったらいい。
所詮、お飾りになるだけだ。
そんな空しい座でいいのならどれだけでも与えてやる。
間違えたのは彼らであって、私は間違えていない。
私は、私が望んだ者を伴侶にした。
『分かった。ティアが泣くから三発にしておいてやる。』
おや、殴られる数が思っていたより多い。
「二発じゃないのかい?」
『父と私とカンサエルだ。母とササリットの分も増やしてやろうか。』
私は慌てて首を横に振った。
殴られるようなことをした自覚はあるが、回数が多いのはいただけない。
殴られた跡を見られたら、彼女が心配する!!
アンタイルには、私の心の声が分かるようだ。
『当前の数だ。顔は止めておく。』
いや、身体でも見たら心配するだろうが。
『裸を見られないようにしたらいいだけだろ。』
私に我慢しろというのかい?
無理に決まっているだろう!!
いや、真っ暗にして見えないようにしたら・・・。
誠意をみせて殴られたいが、跡が残るのは困る。
どうやったら、相手が満足出来て跡が残らないように殴られるが必死に考えてみる。
『ティアに無理をさせるな。』
アンタイルの呆れた言葉に意識が戻される。
「分かった。」
私は、一応そう答えておく。
全てにおいて甘やかすつもりでいるよ。
私が腑甲斐無いばかりにこんな立場にさせてしまったのだからね。
もちろん、ベッドの中でも動けなくなるまで甘やかすつもりだよ。
私はアンタイルと話を終え、寝室に戻った。
掛布団から出ていた青銀の髪が見えなくなっている。
「シャル。」
膨らんだ掛布団がビクッと揺れた。
掛布団を捲ると、真っ赤になった彼女と目が合った。
煽ってる?煽っているだろ、絶対に。
彼女は掛布団を早業で被り直す。
「シャル、顔を見せて。」
掛布団を捲ろうとするが彼女がしっかり押さえている。
「あ゛、え゛?」
彼女は、自分の声にびっくりしていた。
掠れさせてしまったね、途中で水は飲ませたのだけど。
「シャル、喉、乾いていない?水を飲もうか。」
彼女が亀のように掛布団から、顔を出した。
そういえば、異世界と動物は同じ生き物が多いね。
馬といい、亀といい、犬とか狐も聞いた限りは同じ感じの生き物だ。なのに文化があれほど違うのは、魔法のある無しだろうか?
「み゛・ず・を・・・。」
亀のような彼女も可愛い。
髪の毛がぐちゃぐちゃになっているよ。
いや、ぐちゃぐちゃになるほど乱れさせたのは、私か。
どう我慢しても口元が緩んでしまう。
彼女が私の寝室にいる事実に。
私は、掛布団なり彼女を抱き上げて、膝の上に乗せる。
水の入ったコップを渡すと両手で持ってゆっくり飲んでいる。
空になったコップを取り上げて、彼女の唇を自分のそれで塞ぐ。
まだ夜は始まったばかりだからね。
ちゃんとウェディングドレスが着れるようにするから、待っていてほしい。
彼女が腕の中にいる。
それだけで幸せを感じる。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かす。
この温もりを守れると。
うん、早く家族を作ろう。
私の子供を産めるのは、彼女だけだからね。
やはり彼女とよく似た女の子がいいなー。
早く授かるように頑張るからね。




