婚約者と譲れないモノ
私は片手を上げて、止まない歓声(悲鳴)を静まらせた。
「シャル。」
私の呼びかけに彼女はあの笑みのまま頷いた。私の決断を喜ぶかのように。
「こ・こんや・く・・はき・を・・うけた・まり・・ま・す。」
けれど、今にも泣き出しそうだよ。
ごめんね、こんな悲しい思いをさせて。
私は片膝を立てて跪くと、彼女の左手を両手で取った。
「ティアシャルドネ・フェス・イハヤカタ、私は、あなたを一人を生涯愛し続ける。私の唯一人の妻、伴侶になって欲しい。」
びっくりさせたね。けど、これが私の本心だよ。
断らないでくれる?断っても頷いてくれるまで言い続けるけど。
驚いて目を見開いた彼女は、まだ泣きそうな顔してる。
あ、小さくバカな人と言ったね。
うん、どうなるのか分かっているよ。
絶対に譲れないから仕方がないよ。
利己主義?自己中心的?好きに言ったら?
けれど、この決断は国のためでもあるのだよ。
彼女は、顔を歪めながらも私に微笑んでコクリと頷いた。
私の両手に右手を添え膝立ちになると、私の目を見て震えながらもはっきりと言ってくれた。
「レオンクラウド・ヒロド・ファス・コードストブール様、お慕いしております。」
そして、私の手を額に当てて俯いてしまった。
真っ赤に染まった可愛い顔を見ていたかったのに。
「シャル、顔を上げて。」
彼女は小さく首を横に振る。
恥ずかしいのは分かるけど、顔を上げて欲しいな。
「シャル。」
彼女の手を離しその頬を包み込み、顔を上げさせ、軽く唇を重ねた。
「よろしく、奥さん。」
さらに赤くなった彼女は固まってしまった。
彼女の脇に手を差し込み、ゆっくりと彼女を立たせる。
「「お、おめでとうございます!」」
″守る会″だね。
「ありがとう。」
私の胸に顔を埋める彼女の背中を優しく撫でる。
やっと彼女から、好きと言ってもらえたよ。
鏡を見ていないから分からないけど、私の顔はだらしなく緩みきっていることだろう。
「求婚して諾したのだから、おめでとうだね。」
エマコトオ司教が手を叩いて一応祝辞をくれた。
異母弟も呆れた顔をしながら、手を叩いて祝ってくれている。
「あれ?この国はおめでたいコトは祝わないのかな?」
エマコトオ司教の呟きに、生徒たちも躊躇いながら拍手をくれる。
盛大に拍手をしている集団がいる。目を付けられても大丈夫なように手を回しておこう。まだそれくらいの力は残っている。
「なっ!エマコトオ司教様!!」
唖然としていたマリークライスが悲鳴をあげていた。
その手は血塗れだ。邪魔されないように張っていた風の壁に触ったのだろう。
私が婚約破棄した相手に求婚をするとは思わなかった?
私は言ってあったはずだよ。
彼女以外は娶らないと。
「レオンクラウド様は、聖女と婚姻されるのですよね?」
マリークライスは、縋るようにエマコトオ司教を見ている。
そんな話しになっているのか?
驚きのほうが先に立つ。
何を根拠に?誰が言い出した?
「そうだよ。レオンクラウド殿下は、聖女様と婚姻される。」
その言葉にマリークライスはホッと息を吐いているが、分かっているのかな?
聖女と言っているだけで、マリークライスとは言っていないことに。
けれど、私にはいい迷惑だ。
私の妻は、彼女一人。彼女が聖女になったとしてもならなくても。聖女だから妻にするのではない、彼女だから妻にするのだ。
「けれど、聖女様をここまで貶されると・・・。処罰を考えなければいけないね。」
エマコトオ司教の呟きに堂内が静まり返る。
マリークライスの口元が動いた気がする。
「司教、兄上はずっとティアシャルドネ嬢以外を娶らないと公言していて・・・。」
異母弟、ありがとう。
今のお前なら、安心して王位を任せられる。
言い繕わなくてもいい。
手は考えてある。
「まあ、めでたい場で考えなくていいか。思いを寄せ合う者同士が結ばれるのも良いことだから。」
エマコトオ司教は、あっさりと考えることを放棄した。
その言葉をどう解釈したらいいのやら。
味方なのか?敵なのか?
「また後日、話し合うことにしよう。青銀の騎士のこともあるし。」
優しく笑う顔に疑念しか持てない。
何を考えてる?
何を狙っている?
やっと彼女を手に入れた余韻に浸れないのが悲しい。
「じゃあ、本日は解散しよう。マリークライス様、帰りますよ。」
呼ばれたマリークライスは、戸惑いを隠せないでいた。
このまま引き下がれないのだろう。
瞳の奥には憎悪が見え隠れしている。
聖女である自分が選ばれなかった事実に、反撃も出来ずに帰らなくてはいけないことに、苛立ちを表に出せないことに。
神官たちに促され、何度もこちらを振り返りながら、マリークライスは去って行った。
誰か気付いているかい?
エマコトオ司教が、私の伴侶が聖女だと言うわりに彼女を妻にしたことを祝っている矛盾を。
エマコトオ司教が、彼女が私の伴侶であることを認めている、その事実に。
今なら、大概のことなら許せるよ。
だって、彼女が私を慕っていると言ってくれたのだよ。
慕っていると!
好意を持ってくれているのは、分かっていたよ。
口に出して、言葉で聞くと、すごくいいものだね。
天にも昇るとは、こういうことを言うのか。
これからは、私が何でもしてあげるから。
着替えも食事も入浴も下の世話も全て私がするから。
彼女に触るのは私だけだよ。
私のモノなのだから。




