婚約者と悪役令嬢
私は軟禁、いや、監禁に近い状態にある。
公務を多量に押し付けられ、学園に行かないように、彼女に会わないように始終監視されている。
脱け出すことは簡単だ。だが、そうすると彼女が悪く言われるのが分かっていた。
本当は、今すぐにでも彼女に会いたい。会って抱き締めたい。
私の忍耐が何時までもつだろうか。
日に日に彼女の立場は、悪くなっていく。
エマコトオ司教の言葉も原因だ。
『ここまで神殿を虚仮にされると。』
私がマリークライスの求婚を断ったことによる発言だと多くの者に思われてしまった。
婚約者の彼女のせいで私はまともな判断が出来ず、聖女の求婚を断っていると。
異世界の知識で彼女が私を縛っていると。
彼女は、私を誑かす悪女の烙印を押されてしまった。
そして、聖女マリークライスを虐げる悪役令嬢だと。
まあ、確かに事実は混ざっているね。
彼女に誑かされていないけど、私が彼女に夢中だから。
彼女がいなかったら、婚約者は議会が勧めていたマリークライスになっていただろうし。
言っておくけど、私が自らあの性悪女は選ぶ気はないからね。
彼女以外に私が妃に望む者がいないということと、マリークライスを退けて私の妃になろうとする者がいなかっただけ。
はあ・・・。
ため息をすると幸せが逃げると彼女が言っていた。
また出そうになるため息を我慢する。
彼女との幸せをこれ以上逃がしたくない。
民にもこのことは、広まっている。
昨日は、彼女の乗る馬車に石が投げられたらしい。
民が恐れているのは、マリークライスが持っているとされる娘神の力だ。
全てを焼き払う力。
私にフラレた腹いせに使われたらと。
そんな行動、聖女らしくないのだけどね。
だが、噂に踊らされた者たちには分からない。
『悪』なのは、彼女。
『悪』なのだから彼女に何をしても許される。
とても愚かだ。
全てを壊してしまいたいよ。
優しい彼女が悲しむから、しないけどね。
アンタイルから届いたばかりの魔道具を準備する。
ボタンの着いた板の端に垂直に硝子が刺さっているもの。
将来、″テレビ電話″にするつもりで作ったと言っていた。
やっと、″電話″というものが出来た。
相手と遠くと話せるモノで異世界の物は、携帯できるほと小型化しているらしい。
糸電話というもので彼女と遊んだことがあるから、″電話″というのは少し分かるのだけどね。コップから聞こえる彼女の声が可愛くてずっと聞いていたかった。
″無線″という物も遠くにいる者と話せる物らしい。
彼女に違いを聞いたら可愛く首を傾げて、一生懸命説明しようとしてくれた。
″電話″は電波で話す物で、″無線″は線がない物と説明していたが、アンタイルに携帯できる″電話″も線がないだろうと突っ込まれ、困っている姿はとても可愛いかった。
私は、″電話″をかけてみた。
ボタンの一番端を押す。アンタイルの私室に繋がるはずだ。
アンタイルも出入り禁止になっているから、こうやって話すしかない。
リン、リン、リン
『はい、お兄様?』
硝子部分に人影が映る。
その前にこの声は!?
「シャル?」
『レ、レオン様』
あたふたしている彼女の声。久々に聞く愛しい声。
硝子に彼女の姿が映る。寝着姿で何だろう?という顔をしている。
「シャル。」
自分の声に赤面してしまう。
掠れて甘い声になってしまった。
今は、電話が繋がった時の顔がお互い映るだけで、テレビのように動きはしないとアンタイルが言っていた。
今の私の顔は、彼女には見えていないはずだ。
アンタイルだと思って硝子を睨んでいる顔のはず。
それはそれで映っているのを替えたいけど、今の顔よりマシかな?
「シャル、大丈夫かい?」
違う、こう言ったら彼女の答えは分かっているのに。
『はい、ありがとうございます。レオン様は?』
彼女は、絶対に辛いとは言わない。私に心配かけないようにしようとする。
「仕事が忙しくてね。シャルに癒してほしいよ。」
『・・・。ご自愛ください。』
きっと真っ赤になっているね。
うん、会えないからね。エネルギーが充電できていないから。
「膝枕、してくれる?」
返事はないけど、向こうで頷いている気配がする。
彼女も知っている。
婚約を解消ではなく、破棄する動きがあることを。
第一王子を次期国王を誑かす悪女に、聖女を蔑ろにする悪役令嬢に断罪を望む声が上がっていることを。
「シャル、愛してる。」
『ありがとうございます。』
涙声で彼女が答えてくれた。
好きだとはまだ言ってくれないね。
彼女から、アンタイルに代わり、色々相談した。
やはり早くマリークライスが聖女でないことを暴くことが優先だという結論だった。
彼女は自分の意思で『青き焔』を使えない。
彼女が聖女だとは言えない。
神殿から、残念男が上位の聖人だと公表があった。聖女の兄が聖人だった。
ますます、マリークライスとの婚姻を望む声が強くなる。
帝国との繋がりのために神殿もこの国も私を切り捨てられない。
悪意は、彼女だけに向けられていく。
ある日、学園にいる異母弟から、早馬が来た。
学園で彼女の断罪が始まってしまった、と。
中途半端に声だけ聞いたから、とても会いたくなった。
寝着姿の彼女は、可愛いよりも色っぽかった。
コルセットで締め上げてなくても出来ていた深い谷間に思わず目がいってしまったよ。
抱き締めて味わいたい、彼女の全てを。
無力にされてしまった自分を呪う。
今のままでは、彼女に会いにいくことさえできない。
″電話″では、会いたい気持ちが募りすぎる。




