婚約者と乙女ゲーム
異母弟は、スマラタに会いたくないと思っていた。
「大丈夫か?」
精神的なダメージを心配する。好意を持っていたのに騙されていたのだ。時間もあまり経っていない。辛かったのでは?
「スマラタの方が気を使っていた。」
にこやかに話す顔に憂いはない。疲れが見えるだけだ。
「そうか。ならいい。強行で疲れているだろ?」
始業式から十数日だ。強行だったはずだ。
「ああ、しばらく遠乗りはいいかなと思えるくらい。」
その顔には、達成感が表れている。
「それよりスマラタから聞いてきた。」
何を聞いてきたのか興味はあるが、惚気だったらお断りするよ。そんなのに時間を割いている暇は無いから。
「スマラタは、神殿が出てくる話は分からないと言っていた。」
やはり神殿関係は、スマラタが遊んだゲームには関わっていなかったか。
「それから、エドヴォルドのことを聞いてみた。エドヴォルドが何故マリークライスに従うのか分からなかったから。ラーシナカ家で待遇がいいように思えなかったし、マリークライスもどちらかといえばエドヴォルドを嫌っていたから。」
確かにそれはずっと不思議に思っていた。
従縛の魔法のせいかと思っていたが、乙女ゲームとの関連性も疑うべきだった。
けれど、今もマリークライスを姉上と呼ぶのだね。
慕うというほど可愛がられていなかったのに、どちらかというと王宮に来る理由にされていただけなのに。
まあ、そう呼ばないと酷い目に遭わされていたね、遠目に見ていたけど。
「乙女ゲームでもエドヴォルドとラーシナカ家の関係はこっちと同じだったらしい。
どちらのエドヴォルドも盲目的にマリークライスの命には従っていた。」
その通りだ。
あれだけ世話になっていたイハヤカタ家に背を向けてまで、残念男は、ラーシナカ家に、マリークライスに仕えている。
「ゲームでは、エドヴォルドは、イハヤカタ家にいたときに妹のように可愛がっていた女の子を傷つけてしまった。その罪悪感から、実の妹のマリークライスに甘く接し逆らえなかったと。」
ゲームの残念男は、その罪悪感を癒したヒロインに懸想していくようになるのか。
残念男が妹のように可愛がっていた女の子というと、彼女しか思い付かない。
確かにあの頃、本当の兄妹のように二人仲が良かった。
謎の襲撃がなければ、今も仲良くしていたかもしれない。
あの時、私が動かなければ、彼女は残念男の氷に閉じ込められていただろう。次作のゲームの重要人物のように。
「今のように従縛の魔法がかけられていたかは、知らないと言っていた。それから・・・。」
「それから?」
なんだろう?
本当なのか?という顔をしている。信じられない情報なのだろう。
「乙女ゲームの裏情報というもので、エドヴォルドは生れた時に聖人と認定されていた。と。」
異世界では、ゲームの攻略本やネットという特殊環境で情報交換が出来たらしい。
それにしても生まれた時から、聖人?
聖人認定されたということは、位のある神官がラーシナカ家にいたということだ。
調べてみる価値はある。その時期にこの国に神官が来ていたかどうか。
それに聖人や聖女は、子供神と同じように一度は神殿に保護される。赤子の時に認定されたのなら、そのまま神殿に連れていかれたはずだ。あの容姿とあれだけ強い力を持っているのだから。
そこも調べてみなければならない。
「ティッオ、ありがとう。」
おや、明らかにホッとした顔になったね。
私がもっと情報を聞き出せなかったのか?と言うとでも思ったのかな?
諦めた情報が少しでも手に出来た。それで十分だよ。
「少しでも早く休んでくれ。」
私は、異母弟と一緒に出て、執務室に戻る。
さすがに今回はマリークライスはいなかった。
だが、執務室に書類を届けにきた文官の話を聞いて、頭を抱えそうになってしまった。
私が嫉妬してマリークライスのネックレスを壊したことになっていた。他の男から贈られた物を身に着けるな、と。
あの状況をここまでねじ曲げるとは。いや、捏造だ。
怒りを通り越して、呆れてしまう。
関わらないのが一番なのだが、向こうが関わってくる。
無視しても周囲を気にして照れているだけと言われる。
噂もほとんどの者が信じたら、真実として歩き出す。
儘ならない状況に私はため息を吐いた。
あー、苛々する。
何故、あのようにとれるのだろうね?
嫌悪を好意に、全く正反対ではないか!
逆に自尊心を疑うね。
それとも自虐嗜好がある?
どちらにしろお断りだ。




