婚約者とケーキ
彼女は、黙々とケーキを食べている。
マリークライスのことがやはりショックだったようだ。
神殿の目的がマリークライスの婿選びであることが分かった時から、彼女には言ってあった。
彼女以外娶るつもりはないと。
会う度に説得して分かってくれても不安だよね。
けど、もうそろそろ食べるのは止めようか。
ケーキがもう五つも可愛い口の中に消えてしまったよ。
モグモグ食べてる姿も可愛くて見ていたけど、私は胸焼けがしてきた。
残りはまた後で食べようね。
彼女にジト目で睨まれたが、私の相手をする時間がきただけ。
諦めてもらうよ。
「レオン様・・・。」
言いたいことは分かるよ。
聖女との結婚がどれだけ国にメリットになるか。
それを断るということはどういうことになるか。
けど、時間が許す限り話したよね。
私は食べている姿を見るのに彼女の真正面に座っていたが、彼女の隣に座り直した。
その青い銀髪を撫でる。
「シャル、君のお陰で民の暮らしは随分楽になった。」
キョトンとした顔で私を見ないでくれるかな。
すぐに襲いたくなるじゃないか。
「このケーキもそうだ。」
ケーキを売る店など少し前までなかった。
ショーケースという魔道具が出来るまで。
肉屋もそうだ。寒い冬ならともかく、暑い夏は氷が確保出来ない民は保存のきく固い干し肉しか手に入らなかった。
家庭用の冷蔵庫もでき、高価過ぎて購入出来ない家庭には貸し出しをしている。
井戸の水は、蛇口を捻ればでるようになった。
自動で洗濯する機械も出来た。
彼女の異世界の知識が民の生活を大きく変えている。
貴族は特権で生きていたから気付いてないかもしれないが、民は分かっている。
誰のおかげで生活が楽になったのかを。
「聖女の恩恵などなくてもこの国はやっていける。」
だから、安心していいのだよ。
そっと彼女を抱き締める。
「シャル、私はシャルしか欲しくない。」
赤くなって逃げようとしているけど、逃がさないよ。
そのまま私の膝の上に抱き上げる。
「どうしても、なら平民になろうか?」
軽い調子で言ってみる。
たぶん許してもらえないから、逃げることになるけど。
困ったように、けれども嬉しそうに笑ったね。
愛してるよ。
「レオン様は、バカです。」
その答えは、はい。ということでいいのかな?
どんな生活になろうが、彼女が側にいるなら私は幸せだよ。
抱き締める力を強くする。
やっとこの腕の中に閉じ込めれるようになったのだよ。
諦められるはずがないじゃないか。
「巻き込むけど、よろしく。」
腕の中で彼女が小さく頷いた。
私は、マリークライスのことを考えていた。
えっ?彼女?
もちろん、まだ、私の膝の上にいるよ。
彼女がいくら軽いからといっても私の膝は軽く痺れてきていた。
しかし、私の肩口に額を付け、真っ赤になってプルプル震えている可愛い彼女を膝から降せるかい?降ろせるわけないだろう。
いや、まだ貪るほど彼女を味わってはいないよ。動けない状態にはしたけど。
彼女の潤んだ瞳を見たら、きっとソファーに押し倒してしまうよ。
決して、足が痺れて寝室に行けないわけじゃないからね。
だから、彼女の背を撫でながら、違うことを考えようとしている。なけなしの理性を取り戻そうとしているところだ。
やはり先程のマリークライスの行動は、軽率だと感じる。
残念男の力を得たなら、もっと慎重に動くはずだ。
ポンデ教司も言っていた。息子神・娘神、二人の神の力を持つ者は初めてだと。
それを武器にもっと効果的に動かなければ意味がない。
発言力の小さい学生とはいえ、今日の出来事は親に伝わる。
平民の学生もいるから、もちろん市井にも。
私が曖昧に濁すとでも思っていたのだろうか?
あれほど断ると言ってあったのに?
高位の神官が来たからか?
いや、力が借り物だとバレるだけだろう。高位の神官は邪魔なだけだ。
何故だ?
覆せるだけの何かをまだ隠し持っているのか?
「レオン様。」
可愛い声が呼んでいる。
なに?
彼女を見る。
まだ顔が赤いね。もう一回・・・。
「エド兄様は・・・。」
うん、やっと居場所が分かったよ。
「マリークライスと一緒なのだろうね。」
まだ、従縛は解けていないのだろう、マリークライスと一緒ということは。
「・・・聖人なのですか?」
これには、どう答えるべきか。
息子神は、全てを凍らす。
「氷魔法が使える者は、息子神の聖人といえるだろうね。」
判断するのは、神殿だ。
条件がどれだけ揃っていても。
「シャル。ケーキ、食べる?」
彼女が小さく頷いた。
冷蔵庫に入れてあるとはいえ美味しいうちに食べないとね。
私は彼女の額に唇を落としてから、膝の上から降ろした。
唇にすると止まらなくなるからね、自制はしたよ。
「シャル、持って帰ればいいのだから。」
「だって、あと二個なのです!」
もうお腹が一杯なのだろう?
無理して食べなくても。
「お兄様に取られるから。」
ああ、イハヤカタ家は甘い物が好きだったね。
頭を使うから糖分が欲しいと。
「あと二個・・・。」
悔しそうにケーキを睨んでいるね。
隣で運動するかい?
動けなくしてしまうし、食べられなくなるかもしれないけど。
また買ってあげるから、今日はもう止めようね。




