婚約者と始業式
今日から、学園が始まった。
三ヶ月もしたら、私は学園を卒業となる。
立太式をして、正式に王太子となり今より重要な公務を執り行うことになっている。
ますます忙しくなるということだ。
冬の休みは、神殿のせいで彼女と出掛けられなかった。
滞在場所を整えたりと受け入れ準備に追われていた。
そして、来たら来たで聖女マリークライスの婿選びという厄介なことに巻き込まれている。
幸いなことにマリークライスが婿にと望む者の非公開の発表は延期となっている。
神殿のほうから連絡があったらしく、離宮のほうは今もバタバタしている。
このまま帰ってくれと思う。
始業式も終わり、今日は帰宅となる。
私は彼女を迎えに行った。
このまま王宮に来てもらうためだ。
一緒にいられる時間は作らないとね。そして無駄に出来ない。
講堂の入口がざわめいていた。
私は急いで彼女元に行く。
嫌な予感がする。
「「マリークライス様!」」
彼女が不安そうに入口を見た。
あんな目にあったのだ、当たり前だろう。
大丈夫だよ。私が付いているからね。
人が割れて入口から私の前まで一本道が出来た。
「シャル、帰ろうか。」
私は、彼女に促して別の入口から帰ろうとした。
「レオンクラウド様。」
無視して、歩き始める。
マリークライスなんかに付き合っている暇などない。
「レ、レオンクラウド殿下。」
ドスドスと足音を立てながら、ポンデ教司が走ってきて私の前に立った。
邪魔だ。進路を妨害されてとっても邪魔。
「聖女様が、青き冰の力も手に入れられたのです。」
興奮して話してくるが、唾が彼女にかかりそうで風の力を使ってしまう。
汚いな、気を付けてくれ。
ポンデ教司曰く、息子神と娘神の力を同時に持つ聖女は初めてということで、とても貴重だそうだ。
「エドヴォルドの氷ですね。」
私は、空いている方の手に魔道具から残念男の氷を取り出した。本気で作らせた氷だ。簡単には溶けない。
もう片方の手は、もちろん彼女の腰にあるよ。
エスコートしているんだからね。
「マリークライス嬢のすぐ上の兄は、氷魔法が得意で。この氷でも真夏の炎天下でも丸二日以上溶けません。」
掌に乗る小さな氷をポンデ教司は、不思議そうに見ている。
「彼に力を借りているだけでしょう。新しく目覚めたわけでは無いと思いますよ。」
ポンデ教司の掌に氷を乗せる。
ポンデ教司は冷たさに顔をしかめたが、氷を握り込んだりして溶けないか試している。
「エドヴォルドにこちらにも顔を出すように言ってもらえないか?」
私は近くまで来ていたマリークライスに視線だけ動かして言った。
マリークライスはピクリと眉を少し動かしただけで、優美な笑みは崩さなかった。
「レオンクラウド様、私、婿になっていただく方を決めておりますわ。」
「そう、断らない相手だといいね。じゃあ、私は婚約者との時間を大切にしたいから。」
私は、さっさとその場を去ろうとした。
「レオンクラウド様、あなたです。」
ため息しかでないよ。さっき言ったのに。
断らない相手にしろと。
可愛い彼女の身体がビクリと震えたじゃないか。
「断る。私には愛する婚約者がいる。他の者などい必要ない。」
私は、マリークライスと目を合わせて、ゆっくりとはっきり言った。
「聖女からの求婚を断るのですか?イハヤカタ侯爵令嬢、あなたは分かっていますね。」
そんな風に脅すから、彼女が怯えているじゃないか。
「本物の聖女なら、名前だけの側妃も考えよう。」
私は、空いている方の手に魔道具から青き焔を取り出した。
夏の休み、彼女の回りを囲っていた青い光だ。
「あの時魔道具に封印した青き焔だ。触ってみるかい?今度は火傷ではすまないかもしれないよ。」
ポンデ教司が、目を見張っている。
氷を持った手で焔を触ろうとして、手の中の氷が一瞬で無くなったことに驚いている。掌がまったく濡れてないからだ。
「マリークライス嬢は、夏にこの焔に触れ火傷を負ったみたいですね。魔法ですぐに治癒したようですが、焔の力がその場所に残っているのでしょう。」
再び私の視線を受け止めたマリークライスは、焔を見て後ろに一歩後退っている。
怖いに決まっているね。
火傷の恐怖はそう簡単に克服出来ない。
「聖女様、どうなさいました?」
ポンデ教司より、袖裾の金の帯の数が多い神官がやって来た。
かなり若く容姿も整っている。
「エマコトオ司教!」
ポンデ教司が興奮した声で呼んでいるが、唾を飛ばさないでほしい。彼女にかかるじゃないか!
「ポンデ教司、その手は?青き冰と・・!」
エマコトオ司教は、目を見開いてポンデ教司の掌にある焔を見ていた。
「何故、聖女様の手に宿る青き焔がそこにあるのですか!」
うん、すぐにこの場を立ち去ろう。
魔道具から出した焔はポンデ教司に渡したし、しばらく確認やらなんやらで向こうも忙しくなるだろうからね。
「シャル、おやつは何がいい?」
街で何かを買っていこうね。
だから、そんな不安そうな顔をしないで。
「シャル、こっちも美味しそうだよ。」
最近出来たばかりのスイーツ店に来ている。
目移りして決められないみたいだね。
「シャル、どれが気になるの?」
うーん、半分くらいを指差したね。
食べきれなかったら、持って帰ったらいいよ。
十数個のケーキを買って店を出た。
色気より食い気の彼女。




