閑話 婚約者とクリスマス
メリークリスマス♪
サンタクロースから世界に素敵な贈り物がありますように(頼む、コロナ収束!)
「これで合っているかい?」
大きな木の上に星の飾りを付けて彼女に聞いてみた。
彼女は孤児院に持っていくお菓子を可愛く包んでいる。
「はい、ありがとうございます」
嬉しそうに笑う彼女に異世界の神の誕生日を祝うなどという思いが吹き飛ぶ。
「異教徒でも大丈夫なのかい?」
「はい、″隣人を愛せよ″の宗教なので」
博愛主義の宗教なのか。博愛主義ではない私は、どんな隣人でも愛せるのか? と意地悪なことを思ってしまう。
「それに日本では教徒ではない人は催し物でしたから」
神事ではないのか? と疑問に思いつつ彼女が楽しめたらいいと頭の隅に追いやった。
「本当は誕生日の二十五日にパーティーをするのですけど、日本では二十四日のイブがメインイベントでした。」
″クリスマス・イヴ″は日没から日付けが変わるまでを言うらしい。前々日の夜をイヴ・イヴということもあり、前々夜祭という意味なのだろう。
誕生日なら前夜に祝うよりも当日を盛大に祝うのが普通だろう。いや、神事だからと厳かにとするのなら前夜祭や後夜祭が華やかにすることもある。どれが正解なのだ? いや、異世界の神の誕生日だ。それに彼女を楽しませるだけなのだから、深く考えないでおこう。彼女曰く、宗教・習慣関係なく楽しいことなら取り入れるお国柄(?)のイベントなのだから。
「二十四日にチキンとケーキを食べて寝ると朝起きたら、枕元にクリスマスプレゼントがあるのです」
サンタクロースというおじいさんが馴鹿に雪車を引かせ空を飛んで子供たちにプレゼントをするそうだ。クリスマスツリーの下に置いていったり、枕元に吊るした靴下にプレゼントを置いていくらしい。良い子供には玩具を悪い子供には泥団子を。悪い子供に泥団子…、楽しみにしていたプレゼントが泥団子だったら…。反省して来年は玩具を貰えるよう良い子供になればいいが、捻くれて余計悪い子供になったら、サンタクロースというおじいさんは責任をとってくれるのだろうか?
「いつもお兄ちゃんが夜中にこっそり枕元にプレゼントを置いてくれて」
今、可笑しなことを言わなかったかい?
前世とはいえ、寝ている彼女の部屋に入る不届き者がいたということかい? 彼女の可愛い寝顔は私だけのものだよ。他の者が見てはいけないものだよ。
部屋の隅に控えているマークウェルが引き摺った顔をしているのか目に入る。
「ヒロト様?」
彼女が不思議そうに私を呼んだ。
いけない。彼女に気付かれる前に怒気を消さないと。
「シャル、これは何処に飾るのかい?」
私は誤魔化すために″ヤドリギ″を手に取った。これもクリスマス飾りには欠かせない物らしい。寄生木なのに?
「上から吊るして下さい。″ヤドリギ″の下でキスをすると幸せになれると言われているのですよ」
それはいいことだね。では、クリスマスは彼女と″ヤドリギ″の下で何回も唇を重ねよう。
「″ヤドリギ″の下では誰もがキスが出来て、若い女性はキスを断れないそうです」
えっ? そ、それってどういう意味だい?
誰もが私の彼女に接吻出来るということかい?
私はボトリと手にしていた″ヤドリギ″を落としてしまった。
「断った女性は翌年結婚が出来ないとか」
そ、それは困るが、他の男と接吻など許せるわけがないだろう。
「そ、そ、それから」
それから?
何故か彼女が耳まで真っ赤になっていた。そして、早口で言うと、俯いて固まってしまった。
「恋人同士でするとヤドリギの祝福が受けられて幸せな結婚が出来るそうです!」
そうなのかい。嫌だけど、とても不本意ではあるけれど、それならきちんと吊り下げなければならない。
ヤドリギは三つ用意した。私は仕方なく二つを部屋の天井から吊り下げた。
クリスマスの朝、私はまだ夜が明けないうちに目を覚ました。そっと彼女の体に回した腕を引き抜く。彼女が体を刷り寄せてきたが我慢だ。
そっとベッドから降り、プレゼントを取りに行く。彼女の枕元に置こうとして見慣れない物を見つけた。
見たことのない紙で包まれた物。彼女から教えてもらった″メリークリスマス″の文字がある。
異世界からの贈り物?
手を伸ばして触ろうとしたが、触れる前にビリっと手にきた。
仕方がない。サンタクロースからのプレゼントだ、多目にみよう。その隣に私からのプレゼントを置き、布団に入り彼女を抱き締めて目を閉じた。
起きた彼女は涙を流してサンタクロースからのプレゼントを抱き締めていた。中身は前世で彼女が欲しかった画集だった。もちろん、私からのプレゼントも喜んでくれたよ。けれど、この負けた感じと悔しさはどうしたらいいんだろう。
昼間は孤児院を訪問しお菓子を配ってきた。サンタクロースのおじいさんではないのだからイヴの夜に配ることはしない。
夜は親しい者だけ集めてクリスマスパーティーをした。
ヤドリギの話を知っているフェルプスが彼女をヤドリギの下に連れて行こうとするのを何回阻止したことか。
フェルプスがこっそり教えたようだ。キャスターが真っ赤になってヤドリギの下でエメリン嬢の頬に唇を当てていた。とても微笑ましい光景だが、理由を知らないエメリン嬢からとても平手打ちを返してもらっていた。来年はエメリン嬢もまだ学生だ。彼らの結婚は先になっていいだろう。
皆が帰った後、彼女とゆっくり唇を重ねた。もちろんヤドリギの下で。
起きると私の枕元に膨らんだ靴下があった。
サンタクロースからの贈り物だろうか?
中身は泥団子…。
私は悪い子供扱いか?
「光る泥団子、ですね」
異世界では泥団子をツルツルに作り、光る泥団子として人気らしい。それ専用の材料も売っているそうだ。
「シャル、泥団子が贈られると教えてくれたのは?」
「…お兄ちゃん」
決定だな。ベッドの上に吊るしたヤドリギも靴下の隣にあったし。
負けるものか!
「シャル」
私は風魔法ででヤドリギを頭上に浮かべ、彼女と唇を重ねた。
彼女のサンタクロースからの贈り物は画集だった。彼女が好きだったゲームのイラスト集という物らしい。
彼女が一枚の頁で止まり、チラチラと私を見る。頬が朱に染まっている。
「どうしたんだい?」
何が描かれているのか覗こうとするが、画集を抱き込まれてしまう。
「ティアシャルドネ様」
侍女に呼ばれて、彼女は画集を置いて隣室に行ってしまった。
さっき聞いた彼女の最推しは…。
似ているが私の方がいい男だ。(と思いたい)




