婚約者と舞踏会(後)
義母弟くん、難しい年頃です。
私は、ワタミタ王妃と踊り終わると真っ直ぐに彼女の元に向かった。
緑に金のビーズを散りばめたドレス、金の鎖と翡翠のネックレス、翡翠のイヤリングと髪留め。
舞踏会は、私の色にしてみた。
「お待たせ。」
アンタイルの影で、デザートを頬張っている彼女。
その姿もリスみたいで可愛いけどね。
「運動しようか。」
うん、食べた分動かないと。
丸々した彼女も可愛いと思うけど、今の彼女の姿も好きだから。
彼女が持っていた皿をアンタイルに渡して、ダンスフロアにエスコートする。
「踊っていただけますか?姫君。」
ここまで連れてきてから、ダンスを申し込む。
彼女はデザートを取られて拗ねていたが、微笑んで私が差し出した手に手を重ねてくれる。
あの事件から、彼女は私に婚約解消や婚約破棄を言わなくなった。
アンタイルが強く言ったらしい。
彼女がそんな態度だから、あの事件が起こったのだと。
まあ、私から婚約を嫌がっている彼女を解放してあげたかった、と供述したヤツもいたね。言わされているのが丸わかりだったけど。
だからといって、彼女が婚約破棄を諦めたわけではないのは分かっている。
だから、私はゆっくり詰めるはずだった彼女との距離を一気にいくことにした。
私と唇を重ねるのは、嫌がっていないしね。
もっと自分の気持ちに正直になってほしいな。
妃に成りたくないだけだよね?
確かにワリの合わない仕事だと認めるよ。
けどね、私は諦めるつもりなどないのだから。
うん、絶対に逃がさないよ。
三曲踊って、休憩に出た。
異母弟は、もう一人の側妃と踊って、ダンスフロアから姿を消していた。
婚約者とちゃんと踊る気は、あるのだろうか?
飲み物を取りに行く途中で、異母弟を見つけた。
いつもの取り巻きと一緒にいたようだ。
その中に令嬢が一人。
だから、違和感がある。
男性の中にたった一人の女性。
それも婚約者がいる男性たちの中に誰の兄妹でも婚約者でもない女性がたった一人。
アレがこの国のヒロインなのだろうか?
黄色で毛先だけ桃色の変わった髪をしている。
小柄で愛玩用の小動物を連想させる感じの女性。
可愛いと言われたら、可愛いのかもしれないね。
「ティッオ。」
私は、足を止めて、異母弟に声をかけた。
手を伸ばせば、触れられる距離だ。
彼女は、異母弟の姿を見て、顔を伏せている。
普段、前世持ちと散々罵られているから、嫌だよね。
ごめんね、すぐ用事はすむから。
「あ、兄上。」
異母弟はバツの悪そうな顔をして、プイと視線を反らした。
「ルミ殿下と踊ったのか?」
私は、あえて婚約者と言わなかった。
だが、婚約者とも踊っていないのなら、言われたことは分かるだろう。
「まだ、です。」
女性が、異母弟の側に来た。
私に紹介してほしいということか?
私としては、関わりたくない。
異母弟が行動を起こさないから、女性は痺れをきらして彼の腕に触れた。弾かれたように異母弟が、女性を見る。
軽々しく王族に触れるのは不敬罪だよ。
「そうか、お誘いするように。」
私は、隣の彼女に笑いかけると再び足を動かした。
長居は無用だ。
厄介事に彼女を関わらせたくない。
「兄上は、どちらへ?」
「シャルを休ませに。私の大切な婚約者だからね。」
見せつけるように彼女に体を寄せ、頭に唇を落とす。
彼女の耳が真っ赤になっている。見えないけれど顔もしっかり真っ赤になっているだろう。
「その方が婚約者なのですか?」
驚いたように水色の目を丸く見開いて、女性が聞いてきた。
髪の色彩も変わっているが、瞳もあまり見ない色だね。
主人公だけあって、目立つようにしてあるのかな?
まあ、貴族としての礼儀はなってないようだ。
眉を寄せて異母弟を見ると、彼女の非礼を分かったのだろう。顔を引き攣らせている。
断りもなしに王族に話しかけたのだ、それも挨拶も無しに。
関わりたくもないから、注意もしないけどね。
「そうだよ、私の愛しい婚約者だ。」
彼女が服を引っ張ってくる。
恥ずかしいから、早くこの場を去りたいのだろう。
「早く休ませたいから、失礼するよ。」
女性の口が″うそ″と動いていた。
ワタミタ国のヒロインと同じ異世界の前世持ちかもしれない。
ワタミタ王妃は、私の婚約者はゲームと違うと言っていた。
それを知っているのは、この国を舞台としたゲームを知っている異世界からの前世持ちのみ。
監視を付けなければいけない。
私は彼女を少し休ませたら、またダンスに誘った。
食べた分だけ動かないといけないんだったよね?
さあ、踊るよ。そうしたら、また食べさせてあげるから。
異母弟が、ワタミタ王妃と踊っているのは見たが、婚約者とは見ていない。
困ったことにならなければいいのだが。
舞踏会で色とりどりの蝶が舞い踊っている。
彼女をダンスフロアに連れ出して、踊り出す。
うん、お腹、出てるね、ポッコリと。
食べ過ぎだよ。
コルセットでキツく締め上げないドレスにしたけど、次回からは、食べられないようにしたほうがいいね。
大丈夫、気持ち悪くなったら、ちゃんと介抱してあげるから。
締め付けるモノを私が外してあげるよ。
うん、次回は、やっぱり締め付けが必要なドレスにしよう。
今夜は、しっかり踊るよ。そのお腹がいつも通りになるように。




