婚約者と学園(後)
よくある階段落ち。
危険行為です!
「自業自得よ。」
彼女以外の女性の声。
どうにか彼女を抱き止める。間に合って良かった。どこにも怪我は、ないよね?
階段の上には、三人の令嬢。元公爵令嬢の取り巻きだった者たちだ。
「シャル、大丈夫かい?」
真っ青の顔をして、固まっている彼女に優しく声をかける。
青い瞳が揺れている。
怖かったね、もう大丈夫だから。
私の上着をギュッと握るのが痛々しいし、私に頼ってくれるのが凄く嬉しい。
彼女がコクンと頷いたのを見て、私は踊り場にいる令嬢たちを睨み付けた。
彼女は、後ろ向きに落下した。段の側にいなかったし、後ろ向きだから階段を降りようともしていなかった。
「で、でんか・・・。」
蒼白になって震える令嬢たち。
何故こんなことをしたのか!怪我どころですまないかもしれないのに。
「『自業自得』てどういう意味かな?」
一人の令嬢が息を飲むのが分かった。聞かれていないと思ったのだろう。
彼女が私の腕の中でビクリと体を震わせた。
大丈夫、守るから。
保健室に早く連れて行ってあげたいけど、はっきりさせておかないと後々のコトもあるからね。
こんな機会だし、安心させたいのもあって、しっかり彼女を抱き締める。下心?それは内緒だよ。
「別にいいけど。記録の魔道具があることを忘れてないかい?」
天井に設置してある魔道具をチラリと見る。
「イハヤタカ製は、信用なりませんわ。」
一人の令嬢は、開き直ったようだ。
けれど、その言葉は聞き捨てならないね。
元公爵令嬢のことは、捏造だと思っているのかい?
イハヤタカ製とは、彼女の兄アンタイルが考えた呪式で作られた魔道具のことだ。私が起こした会社で専売契約をしている。
あと、ヨイノモ製やチランカ製等があるが、イハヤタカ製より格段に質が落ちる魔道具ばかりだ。
「では、私が見たことも幻だと言うのかい?」
はっきりと見ていたことを告げる。
その事実は、変えられない。騒ぎを聞き付けて、人が集まってきたね。彼女を見せ物にしたくないけれど。
「ティアシャルドネ様が、いけないのですわ。あの方を騎士の館に遣わそうなどと。」
だからといって、突き落とすのが正しいのかい?
令嬢たちの考えがわからない。
「それを命じたのは、私だよ。私の執務室で騎士に命じ、シャルが捕らわれていた屋敷の前でマリークライスに直接命じた。」
数人が息を飲んだのが分かった。
ウソと呟く声も。
彼女も私の服を握る手に力を入れた。私の服が引っ張られ、首が絞まってちょっと苦しいかな。
彼女は聞きたくなかったね、ごめんね。
「詳しいことは、父上に聞かれるとよい。」
令嬢たちは、悔しそうに唇を噛んでいる。親に聞いていても、納得がいかないのだろう。けれど、真実だ。
「レオンクラウド様、どうなされました?」
教師たちが聞いてくる。
「ティアシャルドネ嬢が、階段から突き落とされた。」
私は彼女を抱き上げた、いわゆるお姫様抱っこで。
歩けます!と彼女が暴れたが、駄目だよ。ちゃんと診てもらうまでは。
可愛くて、自然にその額に唇を落としてしまう。
あぁ、人目があったのだった。
「私の記録の魔道具も提出するが、イハヤタカ製もヨイノモ製も捏造できると思われているらしい。」
私は、教師に保健室に向かうと告げ、その場を後にしようとした。
「わ、わたくしは、イハヤタカ製の物と言っただけですわ。」
背中に声がかかる。
「ラーシナカ家次男ラーシナカ家次男の記録の魔道具は、ヨイノモ製であった。」
そう、あいつらは後で彼女を脅せるように記録を撮っていた。
そこに元公爵令嬢に叩かれている彼女が映っていた。
思い出しても腹が立つ。腕の中の彼女を見る。
もう頬は、痛くないよね?
「それから、わが社の製品を信用していない者は、社に連絡をくれたまえ。無償で他社の代替え品と交換しよう。日常品から防犯品まて全て。」
イハヤタカ製の魔道具は、品質も販売実績も国内一だ。彼女の前世から産み出された独特のモノもある。品質が良い分、同じ魔道具でも他より少し高い値段になっている。
いや、値段を合わせると他者の魔道具が売れなくなるから、わざと高くしている。だからか、イハヤタカ製の魔道具を幾つ持っているかで、家の格が変わるともいわれている。
すぐにでも、イハヤタカ製の魔道具を信用出来ないと言った令嬢の屋敷の魔道具は、全て交換させよう。代替え品がない場合は、現金を上乗せして支払えばいいか。
「レオン様。」
うん、しばらくその呼び名で我慢しよう。
もう少ししたら、変えてもらうからね、『ヒロト』に。
抱き上げられたコトに真っ赤になっている彼女が可愛い。青ざめた顔より、よほどいい。
保健室でしっかり診てもらおうね。校医が男というのが、すごく気に入らないけど。
うん、どこかで女医をスカウトしてこよう。
保健室に着くと、校医は留守にしていた。
彼女は、私の腕の中で可愛い寝息をたてている。
学園が始まってから、ずっと休まる時が無かったのだろう。
もっと、私が早く学園に登校することができたなら。
保健室のベッドにそっと寝かしつける。
髪を優しく撫でる。
今日は、ゆっくりお休み。悪戯は、しないから。
私も考えなければいけないことが出来たから。
自然に笑みが浮かぶ。
彼女には見せたことのない、彼女には見せられない笑みが。
彼女を可愛がってくれた者たちに、きちんとお礼をしなくてはいけないね。
とても喜ぶプレゼントを考えてあげよう。
その前に、これは婚約者として当然の権利だから。
可愛い唇に自分のソレを重ねた。
第二王子!何、人の後ろに隠れてたの?
出番だったのに!




