婚約者と花守り2
美女の正体は、お察しの通りです。
美女の後ろに車輪が外れた馬車が見える。
あそこに花守りたちが乗っているはずだ。
フードの男と戦っているあの美女は誰だろう?
花守りが雇っている護衛か?
「婆様!」
キャスターの呼び掛けに美女が手を上げて応えた。
「キャスター、久しぶりだな。」
「余所見とは、余裕ですね。」
男の声を聞いた時、疑問に思ったことが全て隅に追いやられた。
ずっと探していた男。
逃がさない。顔も見てやる。
そのフードを捲るために風を放つ。
白髪の髪が現れた。
「王子様、細やかな夢の時間は楽しめましたか?もうソロソロ起きる時間ですよ。」
う・る・さ・い!
私は彼女と生きていくのだ!もう二度と誰にも邪魔をさせない。
「やはり僅かでも幸せを味あわせたほうが、より良い結果になりそうですね。」
クックッと笑うこの男が許せない。
何度も何度も彼女を失った!
冷たい氷の中で助ける術もなく命を散らした彼女。毒で喉を掻きみしりながら命を落とした彼女。花婿の前でドレスを赤く染めた彼女。水の中で手を伸ばしながら、馬に踏みつけられて、窓から落とされて。気がふれてしまった彼女をやむなくこの手にかけなたこともあった。
何度も何度も助けようと抗った。彼女が生きていたら、私以外の誰かの手でも幸せになっていたら、ただそれだけで良かったのに。だが、いつもいつもいつも助けられなかった。
だから、今回こそは私の手で幸せにするのだ!
風を放つ。男の喉に向かって。見切ったように避けられる。
白い髪の隙間から、赤黒い瞳が見える。
「止めとき。人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られるよ。」
美女が踏み込んで剣を振り下ろす。
「今日のところは引き上げましょう。殿下、運命は変わらないのですよ。」
美女の剣が男の袖を切り裂いた。大きな切り傷が手まで続いている。腕には大きな火傷の痕。
あの時の侯爵の雷か?
すっと神官兵たちが退いていく。だが、どこから現れたのか、ならず者たちが現れて剣を振るってくる。
「待て!」
「王子、諦めな。こいつらが先だ。」
美女の言うことは悔しいが正しい。
男の背中に風の刃を放つ。男は側にいた神官兵の影に隠れて走り去って行った。
チィ
仕留められなかったことに思わず舌打ちをしてしまう。
「深追いはするな!馬車を守るのだ!」
神官兵を追いかけようとした騎士を止める。
キャスターかマークウェルに援護されながら、馬車に近付いて行くのが見える。
何処から涌いて出てくるのか、ならず者たちが減らない。
「殿下!みんな無事です!」
キャスターの言葉にホッとする。
エメリン嬢に何かあったら彼女が悲しむ。
私は風を放ち、剣を振るった。
剣に付いた油で切れ味が悪くなった頃、ならず者たちは地面に倒れていた。
「怪我人の手当てを。死体は一ヶ所に。動けないフリをしている者もいるから油断するな。」
ざっと見回し、現状を把握する。
こちらも何人か死者が出たようだ。
息のあるならず者たちが黒幕を知っているかどうか。
それよりもならず者の中に騎士のように綺麗に剣を振る者たちがいた。
近衛騎士の中には、呆然と動かなくなったならず者を見ている者がいる。
風が声を拾い上げる。
「非番だと言っていたのに・・・。」
今回の件は、騎士団の大きな問題になるだろう。
「助かりました。」
私は、ほとんど背中を預けあうように戦っていた美女に礼を言った。女性なのに凄い腕前だ。彼女の護衛に欲しいくらいに。
キャスターの方を見た。
ユインスキー氏とエメリン嬢は確認できた。花守りは?
「婆様!年寄りが無茶して!!」
キャスターが私の後ろに向かって怒鳴っている。
私の後ろでは、美女が剣についた血を拭き取っていた。
ばばさま?
この場に女性は見える範囲では、美女とエメリン嬢しかいない。
後ろの美女は、どう老いているようにみても四十前だ。二代続いて若くして子を産んだとしても若すぎる。
″美魔女″
彼女が若作りをしているソーリマをそう呼んでいた。
実年齢よりもずっと若く見えて美人な女性のことをいうそうだ。
″美魔女″よりも″魔女″のほうが後ろの美女にぴったりのような気がした。
″美魔女?″
確かにソーリマは、十歳くらい若く見えるね。
皺伸ばしの薬に、肌に良いといわれている塗り薬、塗り固められた化粧、すごく時間をかけているそうだよ。
体も寄せて上げて絞めてと着替えを手伝う侍女たちがぐったりするくらい大変らしい。それを一日何回も。
あの若々しい女性らしい体はソーリマの執念と侍女たちの努力の賜物らしい。




