婚約者と公爵令嬢
ヒロイン、まだまだ出てきません。
長いので半分にしました。
そこは、王宮から少し離れた所にある寂れた屋敷だった。
持ち主が落ちぶれて引き払われた誰もいないはずの屋敷。
窓から直接入ろうと思ったが、正面に馬車が停まっているのが見えた。
馬車の近くに降り、ハンググライダーをマントに戻す。
屋敷の外に侍女や従僕に守られて、一人の女性が立っていた。
元ラーシナカ公爵令嬢マリークライスだ。
突然現れた青い光に驚いて足を止めたのだろう。
柔らかに輝く金色の髪に緑の瞳、優しい顔立ちに女性らしく丸みをおびた身体。
″満月の姫君″の異名を持ち、貴族子息たちの憧れの的だ。
整っていると思うがそれだけだ。
可愛い彼女を酷い目に遭わせたと思うと憎しみすら感じる。
元公爵令嬢は目的が果たせず時間がかかりすぎて、仕方なく屋敷から出て来たのだろう。
王宮にいるはずの私の元に来るために。
私は王子の仮面を張り付けて、ゆっくりと屋敷に向かって歩いた。
私の姿を見付け目を見張った元公爵令嬢は
顔色を変えたり狼狽えたりはしなかった。
さすが、と言える。
私がここに来た理由は分かっているだろう。
そして、ここにいる理由をどう説明するのか。
楽しみだ。
「レオンクラウド様。」
女性らしい柔らかな声が私を呼んだ。
私は人受けのいい笑みを浮かべた。
可愛い彼女はちょっと怯えた表情をして逃げようとするが、他の者は嬉しそうにうっとりした表情で見てくる笑みを。
元公爵令嬢は少し頬を赤くして、私から視線を逸らした。
お付きの者たちは王宮にいるはずの私が現れて、警戒心を露にしている。
睨みつけたいのは、こちらのほうなのだか?
屋敷の中から、不穏な音が聞こえてくる。早くあちらに行きたい。
「これは、元ラーシナカ公爵令嬢、どうしてこんな所に?」
気がついたようだね、″元″を付けたのを。
形が整えられた眉が、僅かにピクリと動いたのを見ていたよ。
「レオンクラウド様は、どうしてここに。」
それを聞いてどうするのかな?
「可愛い婚約者がここにいるようだから、迎えにきたんだよ。」
にっこり笑って答えてやる。
「えっ、ティアシャルドネ様が?」
首を傾げて心配そうに名前を言ったけど、その瞳の奥の光はちゃんと見ているよ。
暗い炎。彼女への嫉妬だけではないね。
「そう、君に騙されて、ここに連れて来られてしまったようだ。」
で、どう返してくるのかな?
「そのような者が。」
怯えて、震えて、いかにも怖そうに。
うまいね、演技が。
「見た目は、とてもいいらしいからね。だから、彼女も騙されてしまったのだろう。」
早く行ってあげないとね。
騙されたことに傷ついている。
「レオンクラウド様、そんな危ない場所に。」
いかにも私を心配しているフリをしなくていいんだよ。
ああ、悪事がバレるのは心配か。
「危のうございます。私も恐ろしゅうございます。兵を呼びに行かせますので、私と一緒に。」
元公爵令嬢は、縋るように私に手を伸ばしてくる。
で、安全だからと馬車に連れ込み、媚薬で好き勝手するつもりだろう。
怖いと握りしめているハンカチが、一部濡れている。
自分に媚薬を使い、具合が悪くなったように装い、私に馬車に運ばせるつもりか?
悪い、無理。薬使われても抱きたくない。
その豊満過ぎる身体も好みじゃない。
異母弟のところに遊びに来ていた令嬢が、私のところにも現れるようになったのは、六歳くらいの頃か?
やっと捕まえた騎士団長に稽古をつけてもらおうとした時、探していた本を手にいれて読もうとしたとき、私が僅かな自由な時間を楽しもうとすると、その令嬢は現れる。
私が付き合うのが当然だというように付きまとってくる。
断りをいれても、いつでも出来ることと言って取り合わない。
騎士団長は関わりたくないと姿を消し、本は後で読めばいいと取り上げられる。
何故、そちらに合わせなくてはいけない?
私の時間だ、好きに使わせてほしい。
私は隙間なく予定を入れて、閉め出すようにした。
けれど、父の側妃からお茶会に誘われる。
出たくない、あの令嬢がいるから。
けれど、出なければいけない。
令嬢が纏わりついてくるが無視していた。
いつの日か、令嬢は私の筆頭婚約者候補と言われだした。
選ぶわけないのに。
令嬢は、私の隣にいるのが当然だという顔をしている。
その顔が歪む日が楽しみだ。
嫌われていたのに気が付いていなかったマリーちゃんでした。




